「時は来たれり!新帝国ギアの総統、ドクターマンこそが、世界一の科学者であることを教えてやるのだ!」(第1話)
「秀一! 冷静になれ。人間の歴史は、こういうことの繰り返しだ。勝った者が新しい歴史を創る。優れた者が生き残る。この世はただ1人の天才がいれば充分だ。そして、その天才1人が治めればよい! 秀一! 私とお前とで、新しい科学の時代を創るのだ!」(第26話)
概要
本作の敵組織・新帝国ギアの首領である、狂気の天才科学者。スーパー戦隊シリーズとしては初となる、「元は人間であった敵首領」でもある。
「メカこそ優秀。メカこそ絶対。メカこそ永遠」との理念を抱く、徹底した機械至上主義者で、左目を始めとする自らの身体の随所にも、機械的な改造が施されている。長く伸ばした白髪や、それとは対照的な黒いマントを羽織った出で立ちも特徴的なポイントである。
手にした指揮棒は、その先端からサイコビームを発射することも可能で、主に失敗した幹部に制裁を加えるために用いられる。この他にも全身からは衝撃波を放つこともできる。
独力で南極に拠点を築くのみならず、幹部を始めとする構成員から主戦力たる巨大ロボットに至るまで、その全てを自らの手で作り上げる(※)など、科学者・技術者としての優秀さは紛れもない本物である。そういった優秀さはドクターマンも強く自負するところであり、それを誇示・証明することもまた、ギアを組織して人類への攻撃に打って出た理由の一つであると言える。
前述した理念の他にも、「メカには心は不要」という持論を有し、構成員の全てがメカ人間であるのもそれに基いてのことであるが、一方で開発したメカ人間の中にはモンスターやジュウオウのように、喜怒哀楽に富んだ人工知能が搭載された個体も存在し、自身も後述する家族絡みのこととなると感情的になる一面を見せている。
(※ それゆえに組織の「造物主」たるドクターマンは、メカ人間達から「オブ・ザ・マン」「バイ・ザ・マン」「フォア・ザ・マン」と、しばしば尊称を連呼されている)
秘められた過去とさらなる改造
物語も中盤に差し掛かると、それまで謎に包まれていたドクターマンの正体、そしてその過去にも光が当てられていくこととなる。
ドクターマンの正体、それは「蔭山秀夫」という名のロボット工学者であった。
コンピューター研究の一環として、脳細胞を人為的に発達させる実験に取り組んでいた蔭山は、自らを被験体とする形で実験を重ねていった末に、コンピューター以上の知能を獲得するに至ったのだが・・・それは同時に「機械が人間を支配するべき」という、現在のドクターマンに繋がる危険な考えを、蔭山に抱かせることにも繋がったのである。
また、この実験は天才的頭脳を得るのと引き換えに、蔭山の肉体に著しい老化をもたらす結果ともなった。前述した身体への機械的改造も、その老化をカバーするために自らの手で施したものであった。
蔭山には妻子もいたが、妻の節子は物語開始から遡ること17年前に、息子とともに蔭山の元を去って行方を晦ましている。彼女がこのような行動に出た理由までは作中でも触れられていないが、このことはドクターマンとなった今なお心に深い傷を残しており、息子の成長した姿を想像してメカ人間「プリンス」を作り上げたのも、やはり家族というものに対する複雑な感情の現れと見ることもできる。
プリンスはバイオマンとの戦いの中で喪われたものの、そのモデルとなった実の息子・秀一の出現が、皮肉にもここまでに触れてきたドクターマンの過去を明るみにするきっかけとなった。当初秀一の存在に半信半疑だったドクターマンも、自ら接触を試み実の息子であると確信を得たことで、秀一に対し記事冒頭下段にも示した台詞とともに自らの元へ来るよう誘いを持ちかけるのだが…これを拒絶されたことがドクターマンの危険な思想を、より先鋭化させることとなる。
「私の身体にはまだ人間の身体が残っている。
人間の身体が残っているから人間の心も残ってしまうのだ。
完全なメカ人間になれば、生命は永遠、後継ぎも要らん。
私は、今日この日から完璧なるメカ人間になるぞ…!」
息子との訣別を経てドクターマンが下した決断、それは自身の脳までも機械化し、わずかに残されていた人間性の一切を捨て去ることであった。
自身が人間であると知るや謀反を企てたメイスンを鎮圧し、再改造によって彼等からも野心や自らの正体に関する記憶を取り除くことで、自らに忠実な配下へと仕立て上げた他、新戦力「ネオメカジャイガン」投入に際して、ジューノイド五獣士さえ巻き込むほどの無差別攻撃に及ぶなど、再改造後のドクターマンは従前からの冷酷非情ぶりをより一層強め、前述した持論をその身をもって体現していくこととなる。
最初で最後のメカ人間
…が、それでもやはり人間としての情を完全に捨てきることは、如何な天才ドクターマンをしても不可能であったのか、モンスターが大破したジュウオウの残骸をかき集め、修復を懇願した際にはこれを承諾したり、かつてのライバルにしてある種写し鏡ともいうべき存在である柴田博士(郷紳一朗)の、離れていても息子と信じ合う姿に激昂してみせたこともあった。
紳一朗だけでなく、バイオハンター・シルバやバルジオンも絡んで事態が一層の混迷を極める中、ビッグスリーを始めとする配下達も次々と斃れ、ネオグラードもバイオマンやシルバ、それに秀一の侵入を受けるなど、ドクターマンを取り巻く状況も次第に不利なものへと転じていく。が、しかし・・・
「シルバとバルジオンも敗れたか…あくまでも歴史は私をヒーローにしたいようだ。バイオマンを倒し、新帝国ギアを築いたのは偉大なるドクターマンであるとな」(第50話)
なおも自信満々に嘯くドクターマンは、バルジオンの技術をも組み込んだ専用ネオメカジャイガン・キングメガスを駆って自らバイオマンとの最終決戦に臨み、一度はバイオロボを圧倒するも、バイオロボがピーボと合体したことでその優位を覆された末、スーパーメーザー・バイオ粒子斬りでキングメガスは撃破、自身も重傷を負ってしまう。
しかしドクターマンもこの事態は織り込み済みであったようで、あらかじめキングメガスの破壊と共に、ネオグラードに仕掛けていた反バイオ爆弾が起爆するよう仕向けており、これを止めようと再びネオグラードに突入したバイオマンや、潜入していた秀一に対しても、
「この地球を支配するのは誰か、世界最高の科学者は誰か…愚かな人間どもに、最後の証明をしてやるのだ」
「私の偉大さがわからなかった、愚かな人間どもなど…滅んでも当然だ! 偉大な科学の復讐を受けるのだ…」
ここに至ってなお持論を曲げることなく、自らの身体に指一本触れたら爆弾が起爆すると脅しをかけてみせた。
それでも、家族写真を示してなおも必死の説得に及ぶ秀一に、そしてせめて最期に人の心を示してやってくれとのレッドワンの懇願に、わずかに心揺らぐ様子を見せていたドクターマンであったが、それらを振り切るかのように限界を迎えた自らの身体を自爆させ、あくまでも「メカ人間」として最期を迎えたのであった。
「私は…地球で…最初にして、最後の、メカ人間だ! …現代科学の、最先端に到達した、最高の科学者…ッ! 偉大なるドクターマン!!」
こうして、人間の情を示さぬまま散ったかに見えたドクターマンであったが…その直後、起爆寸前だった反バイオ爆弾がその姿を現し、バイオマンの手によって停止させられたことにより、ギリギリのところで地球の危機も回避されるに至った。
それを見届けた秀一は、父がメカ人間として死んだと断じつつも、一方では最期に反バイオ爆弾の在り処を教えてくれたのと信じたい、と語るのであった。
ドクターマンの死と、反バイオ粒子爆弾の停止によってギアも壊滅の時を迎え、主を失ったネオグラードは南極の雪に静かに埋もれていった…。
備考
デザインは出渕裕が担当。当初の名称は「サイバー総統」とされており、プロデューサーの鈴木武幸からキャスティングのイメージを訊ねられた際には、若い頃の天本英世、もしくは岸田森かなと答えている。実際のキャスティングは、デザイン時点で意図したイメージとは若干異なるとはいえ、それでも幸田による重厚な芝居がドラマを支えてくれて実に良いものがあった、とも評している。
一方で、前述したイメージに頼りすぎたためか、デザインに際しては細かな指示を入れずにいたことから、胸部や衣装のラインなど出渕の意図が造形に反映されてない部分もあり、その反省も踏まえつつ改造後のデザイン作業に際して修正が加えられている。強化前の白塗りから、シルバーに改められた顔のメイクについてもその一つである。
演者の幸田は、これまでにも東映特撮に複数出演経験を持ち、レギュラー出演としては『仮面ライダースーパー1』(玄海老師役)以来の参加となった。スーパー戦隊シリーズには、本作以外にも『五星戦隊ダイレンジャー』にて、同じく敵組織の首領であるゴーマ十五世役として出演。ドクターマンとは対照的な役柄を好演してみせた。
蔭山秀夫を演じた土師孝也も、この時期東映特撮に複数ゲストとして出演しており、こちらも後年制作された『特命戦隊ゴーバスターズVS海賊戦隊ゴーカイジャー THE MOVIE』にて、バッカス・ギル役として参加。レギュラーではないものの、ドクターマンと同様に敵組織の長という役柄である。
関連タグ
大教授ビアス、Dr.ヒネラー、リュウオーン、理央、10サイのロボゴーグ、牙鬼幻月:後のスーパー戦隊シリーズに登場する、「元は人間であった」悪の首領達。このうちの何名かは、「哀しき悪役」という点でもドクターマンと共通している
ドクター・マゼンダ:彼と似たような行動をした4年後のスーパー戦隊の女幹部。
若き帝王メギド/ファイヤースフィンクス←ドクターマン/キングメガス→星王バズー