"Of what a strange nature is knowledge!
It clings to the mind, when it has once seized on it, like a lichen on the rock.
I wished sometimes to shake off all thought and feeling;
but I learned that there was but one means to overcome the sensation of pain, and that was death─"
(知識とは、不思議なものだ)
(一度、頭に入ったら岩に着いた苔癬のようにしがみ付いて離れない)
(俺は、時折、全ての想いを振り払いたくなる)
(だが俺は、全ての苦痛を取り去る方法を学んだ。―──それが死だ)
─ Mary Wollstonecraft Shelley 『Frankenstein, or the Modern Prometheus』
(メアリー・ウルストンクラフト・シェリー 『フランケンシュタイン』より)
曖昧さ回避
- 元来はメアリー=シェリーの小説の書名。絵画化、映画化、漫画化もされている。原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(Frankenstein: or The Modern Prometheus)。
- 或いは作中に登場する死体を寄せ集め人造人間を作った科学者の名前(ヴィクター=フランケンシュタイン)である。ヴィクター=フランケンシュタインは「自分の造った怪物に身を滅ぼされる医学生」であり、そこから「自分の造ったものに滅ぼされる人」(『ジーニアス英和大辞典』)や「自分の創造したものに滅ぼされる人」・「自分が造り出したのろい[悩み]の種」(『Weblio英和・和英辞典』)と言った意味も含む言葉となった。
- メディアミックス作品『魔神英雄伝ワタル』に登場する魔神『フランケーン』の現実での商標登録名。
- 漫画ソウルイーターの登場人物の登場人物→フランケン・シュタイン
- Fateシリーズに登場するキャラクター。詳細はフランケンシュタイン(Fate)及びヴィクター・フランケンシュタイン(Fate)を参照。
- 漫画「白薔薇のフランケンシュタイン」に登場する人造人間。→白薔薇のフランケンシュタイン
概要
ゴシックホラー小説に分類され、『ジキル博士とハイド氏』・『ドラキュラ』と共にゴシックロマンスの代表作・最高傑作として観賞され続けている。
また、当時の科学などを取り入れた史上初のSF小説(冒頭でちょっとだけ電気に関する言及がある)としても知られており、現代の科学文明への風刺・アンチテーゼとしても高く評価されている。
ストーリー
北極探検家ロバート=ウォルトン隊長に、北極海で救助された瀕死の男、ヴィクター=フランケンシュタインが語り聞かせる形で物語は進められる。
スイスの都市ジュネーヴからドイツへ留学してきた学生ヴィクターは、次第に生命の謎と命を操ろうという欲望に憑り付かれていく。自ら人間の設計図を制作して独りで研究を続け、ついに新しい生物を産み出してしまう。産まれた怪物の醜さと強さにヴィクターは己の過ちを自覚するのだが……。
原作では「同じ悲劇を繰り返さない為、どうやって作ったのか絶対に記さないで下さい」と何度も念を押してくる。
「墓場の死体を繋ぎ合わせて、雷で起動した」というのは後述する映画の内容であり、それと混同して誤解している人も非常に多い。
スイス、ドイツ、イギリス、フランスと、ヨーロッパ各地を舞台にして、生みの親に捨てられ周囲に迫害された怪物の悲劇と復讐劇、ヴィクターが全てを失って狂気と憎悪に囚われる様子が書かれていく。
そして、その結末は二百年読み継がれる悲劇へと繋がっていく。
名前について
人造人間の方の名前だと誤解されている場合が多々あり、また派生作ではそちらを指す事も多い。
因みに原典では人造人間に名前は無く、そちらを呼ぶ場合は便宜上「フランケンシュタインの怪物(フランケンシュタインズ・モンスター、フランケンシュタインズ・クリーチャー)」と呼ぶ事が多い。
上述のとおり、このヴィクター=フランケンシュタイン氏(翻案作品では『フランケンシュタイン“博士"』と紹介されることもあるが、原作小説においてフランケンシュタインは単なる学生である)が生み出した『怪物』を『フランケンシュタイン』と呼ぶ誤用については全世界共通であるらしく、英語圏の辞書においては「フランケンシュタイン」においてもこの誤用が取り上げられている。
例えば、英語版Oxford辞書においては「一般には、創造者に恐怖を与え、遂には破滅させる怪物を指す典型的な名称として、隠喩的に誤用されている」と紹介されている。
フランケンシュタインズ・モンスター
一介の科学者(大学生)であるヴィクター=フランケンシュタインが墓等を暴いて持って来た幾つもの死体を繋ぎ合わせ創造したクリーチャー(人造人間)。
いざ完成してみると、酷く醜い容貌となってしまった。その醜い容姿ゆえ、通りすがりの村々で迫害を受ける。ある意味、これらの醜悪な容姿とそれ故の迫害が後の悲劇を引き起こすことになる。
原作に於いては、人間(ド=ラセー一家)を徹底的に観察することで言語や宗教、歴史などの人間の社会を学び、森で拾得したプルタルコス『対比列伝』やミルトン『失楽園』、ゲーテ『若きウェルテルの悩み』といった名著を読破出来るだけの知性を身につけている。
特徴的な容姿は1931年にアメリカのユニバーサル映画が製作したホラー映画に登場するフランケンシュタインズ・モンスターのあまりにもインパクトがあるそれを元にしている。
この作品の世界的ヒットに伴い、「面長で平らな頭部に広くせり出した額、首から突き出した(首に刺さった)ボルト」と言う特徴は定着する事となった。
知能が低く、うめき声を上げながら超人的な膂力を発揮する大男、というステレオタイプ的『フランケンシュタイン』のイメージはこのボリス=カーロフ主演の1931年の映画に依るところが大きい。
このデザインはユニバーサル社が著作権を持っている為、そのまま使用する事は出来ない。これが怪物の容姿に幾つものバリエーションを生んだ理由でもある。
原作においては人類の生んだ豊かな文学や偉大なる自然に感動し、自身なりの情動を表現できる非常に高い知性を持っている。
目標と最期
このフランケンシュタインの怪物の最終的な目標(唯一の願い)は、『自分の伴侶』を得ることであった。生まれながらに孤独であった怪物が、再会した創造主たるヴィクター=フランケンシュタインに訴えた願いはそれだけであった。
しかしヴィクターはこの醜悪な怪物が地球に繁殖する未来を恐怖し、その願いを拒絶する。
『愛さないなら、何故生んだ?』――両親に育児放棄された子供の如く、全てに絶望した『怪物』は、いよいよ人類を、とりわけ自身の親にも相当する生みの親ヴィクターを憎悪する、見た目どおりの『怪物』となったのだった。
しかし、辿り着いた極地で命を落としたヴィクターの前に現れた怪物は、その死を悲しむ。虐げられた子供が、加虐者たる親の死をそれでも嘆くかのように。
そして怪物は北極点に向かい自ら命を絶つことを言い遺し、姿を消すのであった。
作品と現代
上述のとおり、『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』という作品は現代においても宗教、親子関係、科学倫理といった事項について多くの示唆を与える作品である。
宗教的見地から見れば人間は神の被造物であり、生物的関係からみれば子供は親の被造物であり、21世紀に入って急速に発達した人工知能(AI)分野をはじめとした自然科学の分野から見ればAIは科学者(もしくは人類)の被造物である。
読む人物の立場によって、時代を超えて今なお様々な問いを語りかけてくることこそ、この作品の色褪せない魅力ではないだろうか。
フランケンシュタイン・コンプレックス
産み出したものに自らの生命を脅かされるという恐怖を表した言葉。発案者はアイザック・アシモフ。
これはアシモフが、SF作品に「人類に反逆するロボット」テーマの作品があまりに多いことに呆れて発案した概念である。アシモフはこれを克服するため「ロボット三原則」を定義し、自らの作品に使用した。
関連タグ
伊藤潤二…『フランケンシュタイン』のコミカライズを描いた日本人漫画家。