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ジキルとハイド

ふたつにひとつ

ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説。または、2つの魂が宿っている一人の人間を揶揄するフレーズ。
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概要編集

イギリスの作家:ロバート・ルイス・スティーヴンソンの代表的な小説の1つ。1885年に執筆されて、1886年1月出版。原題は『ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件』。人間の二面性を扱った作品として有名。


あらすじ編集

舞台は19世紀ロンドン。物語はゴーント・ストリートの弁護士アターソンが、親戚のエンフィールドとともに日曜のロンドンの繁華街の裏通りを散歩している場面から始まる。

しばらくして、ふたりがどこか不吉な雰囲気を持った屋敷の玄関前に差しかかると、エンフィールドは以前目撃した奇妙なできごとについて語りだす。


数ヶ月前、通りで奇怪な風貌の男が幼い少女と衝突した。ハイドという名のその男は謝罪の一言も口にしなかったうえに、転倒した少女を踏み越えて足早に去ろうとしたため、少女の家族や騒ぎを目撃していたエンフィールドに詰め寄られる。ハイドはせせら笑いながら、あの不吉な屋敷の玄関に入り、約100ポンドの小切手を持ちだしてくる。小切手の署名は、高潔な慈善家にして資産家の高名な紳士のものだった。


話を聞いたアターソンには、その紳士が誰なのかはっきり言われずとも見当がついた。彼の親友でクライアントでもあるヘンリー・ジキル博士は、彼に奇妙な遺言書を託していた。そこには「ヘンリー・ジキルが死亡した場合、あるいは3ヶ月以上行方不明になった場合、すべての所有物は友人にして恩人のエドワード・ハイドに譲られる」と記されており、エンフィールドの話を聞いたアターソンはジキルがハイドに恐喝されているのではないかと考えるようになる。


主要登場人物編集

ガブリエル・ジョン・アターソン

主人公。ゴーント・ストリートの弁護士。ヘンリー・ジキルの親友で、「ハリー」の愛称を使うこともある。

背が高く肉は少なく、厳めしい顔つきで、笑うことも言葉数も少ないが、中身は素朴な善人然とした紳士で、ジキルがエドワード・ハイドになんらかの弱みを握られているのではないかと心配している。


ヘンリー・ジキル

ウエスト・エンドのソーホーにすむ著名な財産家。複数の博士号を持つ教授。ガブリエル・ジョン・アターソンの友人。

大柄で体格も良く、綺麗にひげを剃りおとした顔の50代の紳士。手は白く、がっしりとしていていて、形が良い。

自身の中の善悪両方をよりよく達成するために、みずからの肉体を魂の劣った部分にふさわしいものに変形させる薬を生み出す。はじめはこの変身によって可能になった悪徳と自由を楽しんでいたが、次第に薬がなくとも体が勝手に変身するようになり、自殺を考えるようになる。

エドワード・ハイド

ヘンリー・ジキルのもうひとつの姿。記憶は共有されるが、善悪入り混じるジキルに対してハイドは純粋な悪とされる。

見るものをどこか不快にさせるような奇妙な印象のある青白い小男。手はくすんで青白く、太い毛が影を落とし、貧弱で筋張っている。

生への強い執着があり、ジキルが自殺でハイドとの関係を断ち切ろうとしていることに強い恐怖を抱いている。


ハスティ・ラニョン

ヘンリー・ジキルの長年の友人だが、彼の幻想には批判的。エドワード・ハイドがヘンリー・ジキルに戻る過程を見せられ、強い衝撃を受ける。動揺のあまり1週間ほど床に伏せったのち世を去る。


翻案作品編集

テレビドラマ版『ジキルとハイド』編集

日本を舞台とした翻案ドラマという格好で1969年に東宝の手によって制作されたものの、広告代理店から「内容がわかりにくい」と言われたことで約3年間放送が見送られてしまった。

結局1973年1月にようやくフジテレビテレビ西日本(ほか)にて放送開始、同年4月まで(途中2度放送休止)放送された。全13話。

主人公の名前はジキルとハイドをそのままもじった慈木留君彦(じきる きみひこ)と背奴(はいど)。

篠山紀信によるヌード写真をサブリミナル的にちりばめるなど当時フジテレビのディレクターだった五社英雄による前衛的な演出が特徴で、どちらかというと背奴の暴力性を前面に押し出した作風になっていた。

長らくソフト化にも恵まれず幻の作品だったが2023年にDVDが発売された。

出演は丹波哲郎、松尾嘉代、露口茂ほか。


本作では、慈木留は「慈木留(ジキル)総合病院」の副院長であり、精神科医。

患者が口にした幻覚作用のある薬を飲む事で、背奴へと変身する。

慈木留は50代だが、背奴に変身した際には30代に若返り、冷静ながら凶暴かつ残忍冷酷になる。その身体能力も向上している様子(拳銃を持ったチンピラたち相手に、素手で立ち回り全員殺害している)。

背奴時には善人悪人関係なく、目についた人間を襲い、男は素手で撲殺、女は強姦し絞殺する事が多い。慈悲や慈愛を全く持たず、捨てられていた子猫を愛し気に撫でた後、無残にも踏みつぶす……といった事もあった。

当初は、慈木留と背奴との記憶の共有は出来ておらず、背奴に変身している時の事を慈木留は覚えていなかった。また、背奴は「鏡に映った自分の顔や姿を目撃すると、酷く動揺する」という特徴を有している(このために、殺害されず助かった者も存在する)。


毎回、背奴により多くの人間が殺され、女性は強姦されている。故に背奴は、恐るべき殺人鬼で強姦魔、邪悪なる存在であるが、同時にその行為が劇中の人間たちに大きな影響を与えてもいる。特に強姦された女性などは、そこから「自分が本当に求めていたものを得た」「耐え忍んでいた自分が解放された」など、背奴のために心情を変化させた者も少なくない。

このため、本作の背奴からは、一種のピカレスクヒーロー的な印象も感じられる。


なお、薬に関しては慈木留の若き貞淑な妻、慈木留美奈(演:松尾嘉代)も、薄めた状態で口にしたエピソードが存在する。その際は、和服しか着ていなかった彼女が、奔放になり洋服を着て盛り場に繰り出す……といった様子を見せていた。

ミュージカル版『ジキル&ハイド』編集

レスリー・ブリカッス作詞脚本、フランク・ワイルドホーン作曲の元、ブロードウェイミュージカルにもなり、日本でも鹿賀丈史石丸幹二、2023年に柿澤勇人主演のもと公演された。薬の開発理由がジキル博士の個人的快楽のためではなく人類の利益にあり、殺人は複数回発生し、オリジナルヒロインがふたり登場するなど原作とは大きく異なる筋書きを有している。


以下、ミュージカル『ジキル&ハイド』について記す。


概要(ミュージカル)編集

舞台は1888年、19世紀のロンドン。医者のヘンリー・ジキルは精神を病んだ父のために、そして人類の幸せと科学の発展のために「人間の善と悪を分離する薬」の研究を進め、遂に薬の開発に成功する。しかしセント・ジュード病院の最高理事会のメンバーである上流階級の面々に神への冒涜であると批判され、人体実験の申し出を断られる。

婚約者であるエマ・カルーの婚約パーティーの晩、失意に沈むジキルは「どん底」というパブで美しき娼婦ルーシー・ハリスと出会う。そして彼女との会話の中で「薬を自分で試す」という解決策を見出す。

その後ジキルは自分にその薬を服用するが、それによって悪の人格エドワード・ハイドが現れてしまう。「自由だ!」ジキルから変身したハイドは、夜な夜なルーシーを痛めつけ、さらには最高理事会のメンバーを次々と殺害していく。


登場人物編集

  • 主人公

ヘンリー・ジキル

物語の主人公。ロンドンのセント・ジュード病院に勤める医者にして博士。ハーレー・ストリートに自宅を構える。

精神を病み心をコントロール出来なくなった父のために、「人間の善と悪を分離する薬」(作中ではHJ7と呼ばれる薬)を長年に亘り研究し開発する。いずれこの薬によって世界から争いが消え人類の幸せに繋がると信じているが、病院の最高理事会の面々からは神への冒涜だと異端者扱いされる。

娼婦のルーシーとの出会いでその薬を自分自身に投与するが、それによって悪の人格ハイドが生まれてしまう。


エドワード・ハイド

もう一人の主人公。薬によってジキルから生まれたもう一つの人格で、ジキルに潜む悪の心そのものといえる。

夜な夜なルーシーの元を訪れ力と暴力で彼女を屈服させる他、自身を侮辱した最高理事会のメンバーを次々と惨殺していく。次第にその暴走は、ジキルも制御出来ない程のものとなっていく。


  • ヒロイン

ルーシー・ハリス

物語の重要人物にしてヒロイン。ロンドンのカムデン・タウンにあるいかがわしいパブ「どん底」の美しき娼婦。ハイドが生まれるきっかけとなった人物。

心優しいジキルに惹かれるが、夜な夜な訪れるハイドに傷つけられ屈服させられる。


エマ・カルー

もう一人のヒロイン。ジキルの婚約者にしてダンヴァース卿の娘。ジキルのことを誰よりも理解し支えており、二人は強い絆で結ばれている。


  • 主人公とヒロインの関係者

ガブリエル・ジョン・アターソン

ジキルの弁護士にして古き友。良き理解者としてジキルを見守っているが、後にハイドの存在を知ってしまい苦悩する。


ダンヴァース・カルー卿

病院の最高理事会の議長を務める、ロンドンの「大英帝国ナイト(士爵)」にしてエマの父。ジキルの才能を買いエマとの結婚を認めているが、人体実験に関しては反対している。


プール

ジキルの執事。父の代から仕えており、ジキルに忠誠を誓っている。


  • セント・ジュード病院最高理事会のメンバー

サイモン・ストライド

最高理事会秘書官。ジキルを常に小馬鹿にしており、彼とエマとの結婚には強く反対している。

最終的には、結婚式の場で突如ジキルから変身したハイドに殺される。


ベイジングストーク大司教

最高理事会のメンバーの一人。「バシリウス会第14代大司教」。表向きは道徳心溢れる聖職者とされているが、夜な夜なパブに通い娼婦と関係を持つ卑猥な性格。

パブの裏道でハイドに痛めつけられ全身に火をつけられ焼死。連続殺人の最初の犠牲者となる。


グロソップ将軍

最高理事会のメンバーの一人。ハイドに殺された第二の犠牲者。


アーチボルト・プループス卿

最高理事会のメンバーの一人である「勅撰弁護人」。第三の犠牲者。


ビーコンズフィールド侯爵夫人

最高理事会のメンバーの一人にして紅一点。慈善団体への寄付活動を行っているが、あくまで自分の名を広める名目で慈悲の心は一欠片もない。第四の犠牲者。


サベージ伯爵

最高理事会のメンバーの一人。臆病な性格で、グロソップ、アーチボルト、ビーコンズフィールドの殺害現場に遭遇し見捨てて逃亡するも、最終的にはハイドに殺される。第五の犠牲者。


他作品にモデルとして出ているもの編集

関連タグ編集

海外文学 偽善者 腹黒 二重人格

恐怖劇場アンバランス:本作の翻案テレビドラマ版同様制作してから放送が実現するまで時間がかかった作品。両作品に『無宿侍』を加えた「五社英雄アワー」というシリーズで売り出す構想だったとされる。

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