概説
ルーシー・モード・モンゴメリ(1874年11月30日出生~1942年4月24日逝去)による児童文学小説あるいは青春小説。
空想(とはいうが下手すりゃ妄想)にたくましい少女アン・シャーリーを主役として、彼女の成長と人生を描いた一連の物語。
ただし厳密に『赤毛のアン』を用いた場合には「アン・ブックス」(あるいはアン・シリーズ)と呼ばれるシリーズの第1作を指す。アン・ブックス全体ではアンが成長して結婚し、子どもに恵まれて孫が成長するまでのアンを主軸とした「ブライス家(アンの嫁ぎ先)」の物語が描かれている。
まぎれもない少女児童小説の傑作にして名著であり、一般的教養としても受け入れられている作品だが、人によっては(特にアンの空想少女ぶりが)非常(異常)に黒歴史を刺激する場合もあるので、話題に挙げる際には結構、要注意だったりする。
アン・ブックスとしては本編全9巻に外伝2巻を加えた11巻で構成されるが、外伝のうち最後に出された巻は出版社が作者に無断でボツ原稿をかき集め改変して出したものであるため、モンゴメリ自身は、この巻を「アン・ブックスどころか自分の作品ですらない 」とまで言い切り現地の裁判にまで持ち込んで完全否定している。(もっともモンゴメリは外伝作自体、アン・ブックスに含めておらず海外でもそのように見なされている。外伝をアン・ブックスに見なしているのは、ほぼ日本のみで、それは後述する村岡花子がそのように見なしてしまったため)
ちなみに最後に出されたアン・ブックスは本編の第9巻。これがモンゴメリの遺作である。ただし、この作品はガチで著者の死の直前に書かれた作品であるためイロイロとややこしい事になってしまい最終的に完全版として出されたのは著者が亡くなってより67年後(2009年)という壮絶な事になっている。
日本では1952年に村岡花子(第9巻のみ花子没後に存在が発覚した上での発表であったため、これだけは花子の事績を継承した村岡美枝が翻訳を手掛けた)の手によって翻訳され普及して以降、幾多の文学者や翻訳家により、様々な出版社からダイジェスト版から完全版まで数多くの種類の訳本が出ている。
アニメ(世界名作劇場)版
1979年に世界名作劇場枠で同名のアニメが放送された。全50話。タイトルの通り内容はアン・ブックスのうちでは第1巻『赤毛のアン(原題:Anne of Green Gables )』のみを底本としている。
ただし中途半端な原作の不足(第2巻である『アンの青春/Anne of Avonlea 』以降の内容を含めるには尺が足りなかった事)からモンゴメリの別作品(『エミリー』シリーズ)からエピソードを拝借した回が少しだけある(もっとも、その『エミリー』も、後にアニメ化されてしまったが)。
監督(当時は「演出」名義)は高畑勲、キャラデザと作監は近藤喜文。現場プロデューサーは中島順三と遠藤重夫。第1クール(15話まで)においては画面構成を宮崎駿が務めていた事でも知られるが、宮崎は『カリオストロの城』の監督となったため本作を途中で離脱する事となった(後任を受けたのはラスカルやペリーヌの作監であった桜井美知代)。
なお、アニメの底本になったのは村岡版ではなく1973年に再翻訳された神山妙子(かみやま たえこ)の手によるもの(旺文社・新学社版、現在紙書籍では絶版)である。アニメでのキャラクターのセリフ回しの多くも、この訳本をそのまま踏襲したものである。
物語
カナダはプリンス・エドワード島のアヴォンリーに、マシューとマリラというカスバート家の年老いた兄妹がいた。先祖代々、緑の切妻屋根の家(グリーン・ゲイブルズ)に住む二人は畑仕事を手伝わせるために男の子を引き取りたいと孤児院に申し出る。
しかし駅でマシューを待っていたのは、空想好きで風変わりな赤毛の女の子、アン・シャーリーだった。手違いでやってきたアンを追い返そうと考えたマリラだったが、マシューはそれも縁と考えて彼女を引き取ってもよいとする。しかしそうなれば元々考えていた働き手が得られないと考えるマリラは半ば強引にアンを孤児院に戻そうとする。だが大袈裟に悲しむアンの姿や、手を挙げた別の引き取り手の劣悪な環境を知り、マリラはアンへの情が湧き孤児院に返す事を思い留まる。かくしてカスバート家に引き取られたアンは「グリーン・ゲイブルズのアン・シャーリー」として、その多感な少女時代をアヴォンリーで過ごす事となった。
アヴォンリーでの生活でアンは学校に通い、様々な出会いを経験していく。特に腹心の友となっていくダイアナ・バリーや、意地悪で成績ではライバルとなるギルバート・ブライスとの一生を貫く縁と共に、アンは喜びも悲しみも綯交ぜとした自らの人生を駆け抜けていく。
おもな登場人物
- アン・シャーリー
- マリラ・カスバート
- マシュー・カスバート
- ダイアナ・バリー
- ダイアナのママ(バリー夫人)
- レイチェル・リンド(リンド夫人)
- ギルバート・ブライス
関連イラスト
参考:アン・ブックス
※ 以下の項目にはシリーズのネタバレが含まれます |
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上述のようにモンゴメリによる『赤毛のアン』関連作のうち「どこまでをアン・ブックスとして見なすか」という部分に関してはファンの立場により解釈が分かれている。
なお『こんにちはアン』は、あくまでもモンゴメリ財団による公式の二次創作(当たり前だが執筆者も異なる)でありアン・ブックスではないので注意。
- 作者・ルーシー・M・モンゴメリの解釈では、アン・ブックスに含まれるのは本編全9編のみである。この解釈においては外伝全2巻はそもそもアン・ブックスどころかアンがきちんと関わる作品ですらない。そして外伝2巻目は上述のようにモンゴメリ自身がその存在を裁判まで持ち出して否定している。
- 海外を含めたファンの通例としては、アン・ブックスとして認められるのはアンが主人公を務める本編のみ(本編6話「炉辺荘のアン/アンの愛の家庭」まで)であり、その後に出された本編7話以降の3編はサプリメント(副読本・ボーナストラック)の扱いとなっている。また外伝に対する扱いはモンゴメリのそれに準ずる。
- 日本における最もメジャーな解釈である村岡解釈(最初の訳者である村岡花子の解釈を元にした拡張解釈)においては本編6話に外伝2巻を加えたものをアン・ブックスと見なしている。(何度でも言うがモンゴメリ自身は外伝はアン・ブックスとして見なしていない)
- ただし、これにモンゴメリの本編組み込みを部分的(恣意的)に加えて、本編9話に外伝2巻を加えた最大解釈をもってアン・ブックスとする者もいる。
- ファンの中でもアヴォンリー解釈(グリーン・ゲイブルズ解釈)と呼ばれる解釈を持ち出す者は、アヴォンリー(グリーン・ゲイブルズ)を舞台とした本編3話まで(アンがギルバートと結婚してアヴォンリーを離れるまで。ここまでをアン・ブックスのアヴォンリーシリーズとして区別する場合もある)をアン・ブックスと見なし、それ以降は「続編であっても別作品」(あるいは蛇足のパラレル)として区別する。
巻数 | タイトル | 備考 |
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1 | 赤毛のアン | 少女時代から就職まで。アニメの内容はここまで |
2 | アンの青春 | 教師時代 |
3 | アンの愛情 | 修士生(大学生)時代 |
4(8) | アンの幸福 | 『柳風荘のアン』とも。校長(婚約)時代。実は刊行順では第8作で挿入編 |
5(4) | アンの夢の家 | 新婚時代 |
6(5) | 炉辺荘のアン | 『アンの(愛の)家庭』とも。肝っ玉母ちゃん時代 |
7(6) | 虹の谷のアン | ここから主役が成長したアンの子どもたちに移る |
8(7) | アンの娘リラ | 第一次世界大戦時代。主役視点はアンの末娘であるリラよりのもの |
9 | アンの思い出の日々 | シリーズ本編最終巻にしてモンゴメリの遺作。日本では村岡美枝の翻訳で刊行。第二次世界大戦勃発まで |
外1 | アンの友達 | 第1外伝。アンはいわゆるギミックとしての存在であり主役は別 |
外2 | アンをめぐる人々 | 第2外伝。モンゴメリが完全にガチ否定したのに村岡花子が事情を知らずに組み入れてしまったまさに日本人に見つかった結果。ちなみに村岡花子はこの巻を『思い出の日々』と勘違いしていた可能性がある |
Pixivion
関連タグ
こんにちはアン…バッジ・ウィルソン原作のいわゆるエピソード0。またはそれを元に制作されたアニメ。
風の少女エミリー(『可愛いエミリー』シリーズ)…同原作者作品。舞台地も同じ(時代がわずかにズレている)。そのため主人公の境遇や精神状態も似かよっている。
花子とアン…日本で初めて赤毛のアンを翻訳したとされる村岡花子の生涯を元に脚色された連続テレビ小説。
赤毛のアン子(アン子大いに怒る)…タイトルだけそっくりな別作品その1。こちらは超能力もの。
和菓子のアン…タイトルだけそっくりな別作品その2。こちらは日常の謎ミステリー。
世界名作劇場の前後
ペリーヌ物語←赤毛のアン→トム・ソーヤーの冒険