概要
アニメの原画は、多くのアニメーターの手によって分業されて描かれるが、画力の差や個人のくせ、得手不得手、キャラクターデザインとの相性などによって、どうしても絵柄や質にバラツキがでてしまう。
そこで各話数ごとに1人(複数人の場合もある)、ある程度実力のあるアニメーターを立てて作画監督という役目をつけ、そのアニメーターが、担当する1話すべての原画に修正をいれる事で絵柄の統一を図る。
直接原画を消しゴムで消すのではなく、レイアウト用紙もしくは原画の上にもう1枚紙を重ね、その紙に修正の線を書き込む。ある程度出来のいい原画なら直す必要がなかったり、輪郭などの微妙なニュアンスを直すだけでいいこともあるが、全面的に描き直す(全修)こともある。
作画監督が修正する箇所は、基本的にレイアウトと原画のみだが、場合によっては演出家と相談の上タイミングや演技をいじる事もある。また、タイミングや演技を積極的に修正する作画監督も少数だが存在する。
テレビアニメの作画監督は基本的に各話数ごとに1人だが、制作期間に余裕がなく1人では修正しきれない場合や、作画監督としての経験が浅いアニメーターが担当する場合は、複数の作画監督を立てる場合もある。
また、劇場アニメはカット数が多い上に高いクオリティを求められるため、複数の作画監督を立てる場合がある。アクションやメカニックが多い作品では、それ専門で修正を行う作画監督を別途立てる場合(「アクション作画監督」「メカニック作画監督」などとクレジットされる)もある。
作画監督は基本的に担当話数すべてのカットに目を通すが、時間の制約があるため、実際には「キャラの顔アップや、あまりにもひどすぎる箇所、特に重要なカットだけを修正する」ということも多い。
1話全体の印象やデキを左右するため、それなりに腕のいいアニメーターが担当するのが理想だが、現実問題としてアニメーターは慢性的な人手不足が長年続いており、必ずしも画力が高い人間を作画監督につけられるとは限らない。それゆえ、実力や経験の足りないアニメーターを作画監督に据えなければならない場合もあり、作画崩壊の原因の一つともなる。
また、作画監督の腕が悪くなくても、ひとつの話数にレベルの低い原画が多かったり、スケジュールの逼迫などが原因で、修正が必要なカットを処理しきれないこともある。
さらに、作画監督を務めるアニメーターにも、得手不得手な絵柄やクセがあるため、同じTVシリーズ内でも話数を担当する作画監督ごとに絵柄が大きくばらつく場合もある。
最悪の場合はスケジュールの完全破綻により作画監督が作業をさせてもらえず(「ノー作監」とも呼ぶ)、作画監督は名前だけクレジットされて作画崩壊の元凶のように勘違いされてしまう被害を被ることもある。
このように非常に負担の大きい役職であるため腕のいい作画監督を確保したいときは制作会社が「拘束料」としてギャラを上乗せするかわりに仕事を優先的にやってもらう、という方式をとる事もある。ただし予算をケチるあまり実力者にすら拘束をしないで無理な仕事を頼もうとするケースもあり、アニメーターのtwitterで苦言を呈される事もある。
作画監督という役職が最初に登場したのは、昭和38年に東映動画が公開した映画『わんぱく王子の大蛇退治』であり、森康二がその任に当たった。
pixivやニコニコ動画では遊戯王の作画監督ネタの作品が特に多い。
(原作の絵がクセが強くアニメーター毎の差が出やすいせいかもしれない)
総作画監督
同じTVシリーズ内でも、複数の人間が作画監督をしていれば、どうしても話数ごとにクセや絵柄のばらつきが出てしまう。そこで、作画監督が原画に修正を入れた後で、さらに修正を入れる総作画監督をシリーズ通して立てる場合もある。キャラクターデザイナー本人が担当する場合も多い。
比較的近年のアニメで取り入れられるようになったシステムである。作画監督の修正用紙の上にさらにもう1枚修正の線を入れる。
すべて修正することは時間的に不可能なため、通常は、話数ごとに重要なカットをあらかじめ決めておき、そのカットのみを修正する。
そのため視聴者にとっては「あんまりウマくない作画監督の回でちょろっと出た新キャラのアップ顔に綺麗な修正入り → こいつは今後の重要キャラだ!」という読みの助けになる場合もある。
作画監督制が普及する以前のアニメは、作画監督がハズレの場合、その話数は作画が崩れっぱなしになることがしばしばだったが、総作画監督制度が取り入れられる作品が増えた現在では、重要なシーンは崩れずに済むことも多くなってきた。
しかし総作画監督1人にかかる負担がかなり大きいため、業界では問題視されている部分もある。
特にキャラクターデザイナーと兼任している場合は、総作画監督の作業に追われながら、新しいキャラクターのデザインや衣装デザインを描き起こさなければならないため、大変な負担がかかる上に、制作スケジュールの遅延を招く原因になる事もしばしばである。
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外部リンク
作画監督って何するひと?…マッドハウス公式サイト内のコンテンツ。吉松孝博による解説。