CV:永井誠
概要
『JUDGE EYES』に登場する先端創薬センターの主任研究員。
作中では、物語のキーワードとなる「アドデック9」と呼ばれる認知症患者の治療のための薬の開発を行っている。
他の医師や研究者よりも明らかに背が低いのが特徴。常に気弱でやつれた表情をしており、何かに怯えているような印象を受ける。
3年前の創薬開発センターに併設の病院で起きた殺人事件では検察側の証言者として法廷に立ち、容疑者の大久保新平を追い詰める立場にいたが、証言があいまいな部分もあり、主人公・八神隆之や新谷正道に反撃のチャンスを与えてしまっている。
物語中盤で何者かの手によって新谷弁護士が殺害された際、なぜか新谷のスマートフォンに「創薬開発センター」への発信履歴が残っていたことから、センターを訪れた八神と再会。当時と全く変わらない姿を見せた。
新谷は死の直前、センターに電話をかけて生野に接触を試みていたようだが……。
以下、本作の重大なネタバレが含まれるため、ゲームクリアした後で閲覧することを推奨します。
正体
本作における黒幕の一人で、実は、世間では木戸隆介の薬として認知されているアドデック9の本当の生みの親(木戸には後述の理由があって権利を譲っただけ)。
気弱な小心者だが、その本性はアドデック9という薬に異常なほどの執着を持ち、完成のためならばどんな犠牲も手段も厭わない狂気的な性格。
3年前、先端創薬センターが閉鎖の危機に陥ると、アドデック9の完成を焦った生野は周囲を振り回していた認知症患者「和久光一」に目をつけ、アドデック9を彼で試そうと考える。この時、彼は実験用マウスで良好な結果が出たことから必ず成功すると過信していた。
深夜、こっそり病室に入りまだ誰にも試していないアドデック9を寝ている和久に注射したが………
認知症から助かるはずの和久は死亡した。
アドデック9はマウスには無害だが人体には重篤な副作用を及ぼし、投与された者の命を奪ってしまう。その事実を和久の死をもって知った生野。ここで自分が逮捕されれば、創薬センターは閉鎖し、何より長年積み重ねた自身の研究が水の泡となってしまう。
それを恐れた生野は、とりあえず和久の死体をリネン業者のトラックの中に隠してやり過ごした。
この時の生野は、完全に想定外の事態に一時しのぎをしただけであった。
リネン業者が死体を発見する可能性は高く、すぐに通報されれば「被害者が死亡したのは創薬センターの中」という疑いは避けられず、自身にも疑惑が及ぶのは確実であると危惧する。
…だが彼にとって幸運なことに、死体を発見したリネン業者の「大久保新平」が傷害の前科のある人物で、「自分が疑われるに決まっている」と怯え、警察に通報せずに自身の手で死体を遺棄してしまい、それから約3ヶ月後に逮捕されることとなる。
これにより疑いは大久保に強く集まり、生野が疑われることはなくなった。
大久保の裁判では、証人として出廷し、嘘の証言をして大久保を有罪に追い込もうとするも、弁護士の八神隆之と職場の同僚であり大久保の恋人でもある「寺澤絵美」の弁護により、事態は再逆転。
少なくとも和久を殺害したのは大久保ではないという事が明らかになり、大久保は無罪判決となった。
しかし大久保が無罪になったことで、自身に疑いがかかってしまう事を恐れた生野は、悪魔に魂を売った。大久保のアパートに忍び込み、寺澤絵美を大久保の犯行に見せかけて滅多刺しにして殺害したのである。
大久保が酒に酔って彼女を殺したように見せるため、彼の体内にアルコールを静脈注射したり(作中で八神が言及した「下手したら大久保が死んでしまいかねない危険行為だ……いや、アンタは別にそれでもよかったんだ、"大久保が酔って絵美ちゃんを殺した"。その構図が成立しさえすれば、大久保が死のうが生きようが」が恐らく真意である)、凶器に指紋を付けたりなどの偽装工作を施した上でアパートを放火するというとんでもない犯行だった。
こうして再び逮捕された大久保は必死に無罪を訴えるも、再度行われた裁判で死刑判決が言い渡されてしまう。
創薬センターの件も「やはり犯人は大久保だったのではないか」「インチキ弁護士により殺人犯が不当に無罪になっていた」等と言う風潮が生まれ、生野の犯行が明るみに出る事は無くなった。
この事件、生野自身の犯行であることは回想と彼本人の「殺したくて殺したんじゃない」という自供で確定しているが、物証が見つかることは遂になかった。殺し屋でも何でもない一般人の生野が、たった1人で、それも初めての(故意の)殺人で、警察でも見抜けない完全犯罪をやってのけたのである。
普通であれば一般人にそれほどの完璧な犯行は不可能に近いが、この時も相手が大久保新平であった事は生野にとって有利に働いた。大久保は過去に「酒に酔っての傷害」の前科が実際にあり、今回もそうであるという見方を疑う者がいなかったこと、創薬センターの件が無罪だったのは間違いだった等という風潮が世間に生まれたこと、そして何よりそのせいで弁護を引き受けた八神が大久保を信じ切れず真剣になり切れなかった事から、生野の犯行であると特定するまで事件を調べるものが誰もいなかったのだ。
その後、上司であり先端創薬センターの所長・木戸隆介に功績を全て与えると言って、彼にアドデック9の発表を行わせ、後から真相を教えて脅迫することで木戸を自身に協力せざるを得ない状態に追い込む(木戸を前に立てた事自体は、この手の学会ではよくある話。いかに重要で画期的な内容であっても無名の研究者が書いた論文は注目されない事が少なくないため、著名な研究者の名前で発表してもらうという事はよくある。サスペンスなどではそのまま手柄を横取りされ殺人に…なんて動機でもよく話されるが、今回の場合は逆に著名の研究者の方が被害者である)。
そして、木戸の人脈を利用し、厚生労働省の事務次官を務める「一ノ瀬薫」を後ろ盾にしてどうにかアドデック9を実用できる様に改良すべく研究を始める。
上述の事情故に、正式な臨床試験をする事ができず、秘密裏に実験体を調達する必要があるため、松金組の羽村京平や「モグラ」と呼ばれる殺し屋などを雇って、定期的にヤクザを誘拐させ、生野は廃ラブホテルを改装した秘密のラボで次々と人体実験を繰り返していき、数々の人間を死に追いやっていった。
羽村の回想によると、生野は「罪の無い人を実験台にして犠牲にする訳にはいかない」と良心があるかのような様子を見せておいて、同じ口で「ヤクザならいくら死んだって構わないから実験台にする」などと語っており、彼の歪んだ使命感と正義感が垣間見える。そもそも既に自身の保身のために罪のない人間を殺害しているのだが…。
末路
終盤、裁判で追い詰められた一ノ瀬がモグラこと神室署の刑事・黒岩満の抹殺を指示。黒岩はアドデック9の完成を以て全ての罪を免れようという考えに取り憑かれ、生野を攫うべく創薬センターに乗り込み、行く手の人々を容赦無く殺害していく。生野を確保した黒岩だったが駆け付けた八神に敗れ、自暴自棄になって生野を殺害しようとするも警官隊の銃撃で蜂の巣にされ倒れる。
実験台調達係の自分が死ぬことで生野の夢も絶たれると考えた黒岩は「お前の実験ごっこも終わりだな」と生野を挑発するが、生野はアドデック9が完成したと反論し、それを証明しようと自分自身に打ち込むが、猛毒の副作用を取り除けていなかった。結果が変わることなく、自分が実験体に利用した人間達のように激しい頭痛に襲われ絶叫、その目は悍しい青色に染まった。
そして、そのままアドデック9の副作用により死亡。
そう、モグラの被害者から目が抉り取られていたのは、薬物投与の証拠となる青く変色した目を隠すため生野自ら抉り取っていたからだった。
この点で見ると、八神達が追っていたモグラ=神室町眼球持ち去り殺人事件の犯人ならば、ある意味黒岩ではなく生野こそがモグラとも言える。
黒岩は、実験体の提供や邪魔な人物の排除のみを行っていたため、死体から目が抉り取られる理由は分かっていなかったのである(黒岩との戦闘前、「目ぇ抉ってもらえ」と、自身が目を抉っていないことが示唆されている)。
時を同じくして、木戸所長は「裁判の直前、アドデック9は毒性を取り除けない失敗作だと生野自ら告白した」「投与された人間は激しい頭痛に襲われ、眼球が青く染まる、そうなったらもう助からない」
「目が青くなるのはアミロイドβ(アルツハイマーの原因とされる、脳に溜まる悪性タンパク質)を除去する際の毒素が過剰に働き、その毒素が目に溜まるため」
……そう、証言していた。
彼の告白から、アドデック9の自身への投与、その副作用や死亡までの一部始終は、自らの目的の為に殺害した寺澤の家族によって動画に収められ、皮肉にも生野は自らが悪魔に身を貶してまでも完成させようと執念を燃やしたアドデック9が完全な失敗作であるという事実を世に証明する為の最後の実験体となったのだった…。
誰よりも失敗、それも改善の余地のない袋小路である事を理解していたアドデック9を「完成した」と言い張り、自らに投与した生野の心情はどのようなものだったのだろうか?
評価
作中で哀しき悪役(見方によっては必要悪と捉える人も存在する可能性すらある)なのか最も判断が難しい人物の一人でもある。
なぜかと言うと、「結果」を度外視して彼の「動機」や「目的」だけを見るならば、
- 動機:アルツハイマーに苦しめられ人生を棒に振る人間をこれ以上生み出したくない
- 目的:アルツハイマーに効く画期的な新薬「アドデック9」を完成させ、アルツハイマーに苦しむ人々のために使う
と、責めるべき点が見つからないのである。
また、動機に関しては単なる正義感ではなく、生野の母親がアルツハイマーに振り回された被害者であった。
「アルツハイマーを患った祖父母2人を介護をしていた母親が過労の末、祖父母を看取った直後に2人の後を追うようにして息を引き取った」という悲しい過去があり、自分自身もアルツハイマーの被害者として、同じようにアルツハイマーに苦しむ人々を救える世の中に変えたいという想いから研究者になったのである(八神と対峙した際に彼自身が語ったことだが、実は過去編でもこの辺りの経緯は語られていたりする)。
しかし「結果」に目を向けると印象が180度変わってくる。
- 新薬を臨床試験抜きで患者に投与(←この時点でルール違反)し、その患者を死に至らしめる
- その責任を回避するため、無実の大久保を殺人犯に仕立てる
- 八神の弁護で大久保の疑いが晴れると、大久保を犯人に仕立て直すためだけに寺澤絵美を刃物で刺して殺害
- アドデック9を守るために殺し屋を雇い、その殺し屋を通じてセンター副所長の端木や新谷弁護士を殺害
- さらには殺し屋を利用して共礼会のヤクザたちを誘拐し、新薬の被験体(ほぼ確実に死亡)に仕立てる
つまり「苦しめられている人々を救うための新薬を開発する(善)」ために「生野が不要だと判断した命を片っ端から使い捨てにしている(悪)」のである。
ヤクザを被験体にしたことについて生野は「社会的に悪人とされてるから死んでも心が痛くない」と述べており、これだけなら「ヤクザという存在を許せない潔癖症の正義の味方」ともとれるが、その場合は寺澤絵美や端木や新谷が犠牲になっている時点で明らかに破綻が生じている。事実、ラストシーンで自身の正義を語る生野に対し、八神は「絵美ちゃんを殺したのはただの保身だろ!」と非難している。
しかし、その生野を追っている八神たちも多くの違法行為を行っているため、生野を「正義」と捉えるか「悪」と捉えるかはプレイヤー個々人に委ねられていると思われる。
ただ、理由が何であれ多くの他人の人生を踏みにじったことは決して許されるものではなく、彼のすがったアドデック9が、最後の最後まで完成することなく、それどころか「アドデック9を土台とした特効薬が製造不可」と結論付けられた以上、結局なんの成果も進歩も得られず、無為な希望をちらつかせながら多くの金だけでは飽き足らず、命までも蹂躙した悪魔の薬であったことは事実である。
余談
- アドデック9の名前の意味は先端創薬開発センター(Advanced Drug DEvelopment Center)で9番目に造られた薬、つまりADDEC9という意味、こういう試薬は世間に出回る事になった時に改めて名前がつけられるのだ。
アドデック9の非現実性
- 生野が作成したアドデック9だが、現実の生物学に当てはめると実は根本からして無理のある作用であると分かる。
- 作中、アドデック9は作用機序としては細胞の自食作用(オートファジー)を活性化してアミロイドβを分解する薬と説明されている。
- しかし実際のところアミロイドβの蓄積は細胞外なので、細胞内蛋白分解機構である自食作用ではアミロイドβは分解できない。
- エンドサイトーシスで細胞内に取り込んでから分解するという手は一応あるが、エンドサイトーシスは細胞がものを取り込む、謂わば捕食作用に近い。
- しかしそもそも食えない、取り込めないから細胞の外に捨てられ、結果としてアミロイドβが溜まってアルツハイマーの原因となる(というのが現状の定説である)以上、正直この線は怪しい。
- 更にいうならオートファジーは非選択的な蛋白質分解機構であり、特定の蛋白質の分解を担うものではない、そのためアミロイドβだけを対象にするのは難しい。
- またオートファジーの中でも特定の蛋白質を対象とする機構である選択的オートファジーについては、液滴状態の流動性が高い蛋白質については分解できるが、アミロイドβなどの凝集体になってしまったものは分解できない、結局自食作用でアドデック9の作用機序を説明するのは行き詰ってしまう。
- そもそもオートファジーとは、栄養飢餓状態に陥った細胞が「とりあえず命だけは繋ぐため」の緊急措置として、筋肉等のアミノ酸を含んだ「良質な」タンパク質を分解、吸収、消費して栄養を補給する仕組みの事であり、アミロイドβのような「ゴミ」を処理する機構ではない。
- 脂肪という「比較的質の悪いタンパク質」でさえなかなか消費されないのだから、排泄物でしか無いアミロイドβなどそれより消費されないのは当然であろう。(要は食糧がないので非常食=筋肉を食べるのと同じで、ギリギリ生ゴミ=脂肪を食べることはあっても糞=アミロイドβを食べることなどまず無いだろう、むしろ「無理矢理糞を食べさせた結果」ああなったと考える方がまだ納得である)
- つまり「そもそもアドデック9は欠陥品である」という結論にしかならず、こんな事に誰も気づかなかったのはやはり「生野が功を焦り、人を死なせてしまい、後に引けなくなった」のだろう。
- むしろこんなめちゃくちゃな作用機序の薬が「ラット実験は上手く行っていた」方が奇跡である(正しい作用機序だったとするとノーベル賞が取れてしまうので、敢えて根本からおかしくして絶対に的中しない様にしているのだろうが…)
青い眼球と和久老人について
- 特に説明されていないため、恐らくシナリオ上の不備のようなものだが、和久はアドデック9の副作用によって死亡したはずなのに、その副作用として最たるものである「青くなった目玉」あるいは「抉られた目」が言及されていない。
- モグラを利用した実験において、初回から確実に目玉を抉るよう指示が出ている以上、生野達は和久の件で目が青くなる特徴を把握したはずだが、その結果あるいは隠蔽痕である「青い目」または「抉られた目」が誰にも言及されないのは少々不自然である。作中でもかなり明確に青くなったので、流石に隠蔽もしていないのに捜査中誰も気付かなかったという事は無いだろう。
- 要因として考えられるのは以下の通り。
1.遺棄されてから約3ヶ月間も放置されていたため、遺体の腐敗に伴い、眼球は確認のしようがないほど原型を留めていなかった。
2.発見までに野生動物に食べられるなどで遺体が損壊して眼球が失われた
3.眼球は抉ったが野生動物による損壊として扱われた、またはその損壊に上書きされた
4.当時の試薬では青くなる反応が微弱だった、または時間経過で色素が失われた
5.検死で別の痕跡から死因を推定したため追及されなかった(実際、縊死とされた)
- 実際山に埋められた遺体が発見される原因は大抵は野犬が掘り返した(その後捕食されるなどで多少損壊する)結果であるが、その場合「発見時和久氏の遺体が損壊していた」という言及がされるはずである。それがされてないため、損壊は無かったのか、シナリオ上で言及し忘れたのか、結局発見当時の和久の遺体の状態は不明である。
- 仮に野犬に食われていたことになったのだとすれば、その真偽や隠蔽の有無はともかく、生野を救った幸運が一つ増える事となる。
関連タグ
ショウ・タッカー…漫画作品に登場する中の人繋がり。彼もまたベクトルは違えど、自身の研究の為に他者の人生を狂わせてきたマッドサイエンティストといえる。