痛みを伴わない教訓には意義がない 人は何かの犠牲なしに何も得ることなどできないのだから
概要
月刊少年ガンガン2001年8月号から2010年7月号まで連載された漫画作品。
作者は荒川弘で、単行本は通常版が全27巻、カラーページを再現した完全版が全18巻。
連載当時のキャッチコピーは『最強ダークファンタジー』。2021年7月現在、全世界累計売上部数は8000万部を突破している。
2003年、2009年で二度のアニメ化やゲーム化、実写映画化など様々なメディアミックスが展開されている大人気漫画。
物語
幼い頃、亡くなった母トリシャ・エルリックにもう一度会いたいという想いから、錬金術において禁忌とされる人体錬成を行った兄エドワード・エルリックと弟アルフォンス・エルリック。しかし錬成は失敗し、兄は左足を、弟は全身を失ってしまう。エドワードは自身の右腕を代償にアルフォンスの魂を錬成して、鎧に定着させることに成功し、なんとか一命を取り留めることができた。身体と左足右腕を失うという絶望の中、兄弟は「元の身体に戻る」という決意を胸に、その方法を探すべく旅に出る。そして方法を模索する中で兄弟達は軍事国家アメストリスの裏側で密かに動く巨大且つ邪悪な陰謀の中へと足を踏み込むことになり、その阻止のために多くの協力者・仲間達と命懸けの戦いへと身を投じる事になる。
物語序盤は比較的ダークな作風で陰鬱な展開が多いが、物語後半ではエドワード達が倒すべき敵達の正体が明らかになるに連れて、憎みあうばかりであった人類同士が一致団結する形で共通の敵に立ち向かうなど少年漫画らしい展開へ進んでいく。
主な登場人物
など
詳細は【鋼の錬金術師の国家・組織・キャラクターなどの一覧】を参照。
世界観・用語
舞台
アメストリスという欧風の軍事国家。
海のない内陸国で、東西南北を(東は砂漠を挟んで)それぞれ隣国に囲まれている。
科学水準は凡そ現実世界の20世紀前半に相当する。
主な用語
- 錬金術
等価交換の法則に基づき、物質を変容させる特殊技術。
詳しくは【錬金術(鋼の錬金術師)】
- 魂
本作では生物の身体は肉体・精神・魂の三つで成り立っているとされ、魂と肉体のリンクが途切れることを「死」と呼ぶ。
- 賢者の石
「紅きエリクシル」「紅い石」など様々な呼称を持つ深紅の物体。環境により鉱石、液体、ゲルなど様々な姿をとる。その正体は人間の魂そのものの集合体であり、使用することで属性や質量保存則を度外視した強力な錬金が可能。エネルギーを完全に消費して使い切れば塵となって消滅する。
詳しくは【賢者の石(鋼の錬金術師)】
- ホムンクルス
賢者の石を核とした人造生命。七つの大罪に従った名称と性格を保有している。衣服の黒い部分は肉体と同一であり、身体を破壊されても賢者の石を使い切らない限り即座に再生するため、寿命も数百年単位と非常に長く老いることも無い代わりに生殖能力を持たない。
ただし、人間の肉体に無理矢理賢者の石を流し込んで作られた特殊なホムンクルスも存在し、これらは再生能力を持つものの不死ではない(再生能力があっても首切断など決定的な負傷で死ぬ)とされている。
2003年版では原作途中でこいつらの正体に触れねばならなかった為に、とんでもないどんでん返しが行われる事となる。
詳しくは【ホムンクルス(鋼の錬金術師)】
- 機械鎧(オートメイル)
作中に度々登場するサイボーグ技術。
手足の欠損などを補う節電義肢の一種であり、外見が無骨な鎧風。ただしこの技術は四肢に限定されたものであり、内蔵や中核神経など体幹を代替できるものは登場していない。
高額ではあるが、一般人や動物にも施されるなど、広く市井に普及している。
ちなみに一つ一つが専門の技師によって作られており、工業品というより工芸品的な趣がある。 その構造は極めて複雑かつ専門知識を要するためか、錬金術師でも機械鎧を錬金術で修復できない。
詳しくは【機械鎧】
余談・裏話
錬金術ブームの草分け
「こんな錬金術があるかい」
(単行本1巻カバー裏より)
現在ではすっかり定番となったファンタジー要素の一つ「錬金術」を世に広く流布し、連載開始から数年後に到来した『錬金術ブーム』の草分け的存在ともいえる。
それまで、ガストのRPG『アトリエシリーズ』で取り沙汰される程度の地味なファンタジー要素でしかなかったが、アクション漫画独特の迫力と『錬成陣』『等価交換』『キメラ』『ホムンクルス』と言ったディープな要素がうまく絡められ、それまでの錬金術のイメージにはない「凄味」が表れることとなった。
事実、この作品のヒット後から各メディア作品で次々と錬金術や錬金術師を扱う現象が増えており、錬金術を一躍メジャーコンテンツに押し上げた立役者と言っても過言ではない。
が、それゆえに「錬金術」という単語そのものを本作オリジナルの要素と誤解したファンも多く生み出した。上述したように「錬金術」という単語や概念そのものは本作以前より存在していた(そもそもが史実上においても登場している)ものであるにもかかわらず、それを知らない一部のファンが他誌の別作で「錬金術」という単語が出ただけで本作の剽窃と勘違いして非難する事態が、一時的発生してしまった。
実際に、同時期の作品であった『武装錬金』(和月伸宏)も(使用する「錬金術」の設定が全く異なるにもかかわらず)その非難を受け、両作者がこれに関して互いに「問題は無い」という旨のコメントをする事態になっている。
錬金術というカテゴリの知名度を一気に押し上げたが、現在でも錬金術といえば「鍋に材料を入れて混ぜる」という描写がどのメディアでも一般であり、錬金術を戦闘や哲学に活用した本作は従来にイメージを超えた唯一無二の荒川弘の錬金術を構築したと言える。
その他
- 編集者
連載当時に本作を担当していた下村裕一氏は現在、月刊少年ガンガンの編集長となっている。
- 本誌への影響
テレビアニメ化を機に爆発的に人気が上昇。この影響で、ガンガンは発行数が16万部から40万部に増加した。
裏を返せば、ハガレン終了後の現在は(他に人気作「ソウルイーター」が終了していった事も大きいが)部数が大きく落ち込んでしまっている。
また最終回が掲載された2010年7月号は、通常の倍の部数で発売したものの、全国の書店で売り切れが続出した為に、同年9月号に最終回を再録する事となった。
この最終回は110ページと約3話分のページ数だった事から、9月号については定価に収まるようにする為に、紙の厚さを薄いものにし、なんとか定価に収めた。
メディアミックス
アニメ版
大きく分けて2回行われている。
2003年版
当時は原作未完かつ連載終了の目処すら立っていなかった時期のため、漫画版とは世界観や設定、ストーリーが一部異なっている。主人公の人造人間錬成の経緯を受けてか、特に終盤や劇場版においては、フリッツ・ラングの「メトロポリス」へのオマージュが強い。
- テレビシリーズ『鋼の錬金術師』
全51話。毎日放送ホスト・TBS・CBCおよび北は北海道放送から南は琉球放送までの地方のTBSのお友達約25局、アニマックスで放送された。
- 劇場アニメ『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』
2005年7月23日公開。
最終回からの後日談となる完結作で、1938年のナチス政権下のドイツとアメストリスという次元を超えた二つの地を舞台に、兄弟の絆と時空を謎の秘密組織の陰謀を描いた作品。
2009年版
- テレビシリーズ『鋼の錬金術師 FULLMETALAL ALCHEMIST』(略称『FA』)
全64話。2009年4月から2010年7月まで放送された。ネット局は『2003年版』と共通だが、アニマックスでは約3ヶ月遅れの放送となった。
原作漫画にほぼ忠実なストーリーとなっている。
- 劇場アニメ『劇場版 鋼の錬金術師 FULLMETALAL ALCHEMIST 嘆きの丘の聖なる星』
2011年7月2日公開。
原作並びにFAの最終回を迎えた後に公開された。
一応は原作45話(11巻)の時間軸にあった『語られざる物語』として制作されており、それまで原作で殆ど触れられていなかった「西の国境地帯」を舞台に、そこに渦巻く陰謀と「嘆きの丘(ミロス)」の伝説に迫った作品なのだが、原作やFAの設定とは食い違う部分も多く、全体的にオリジナル色が強い。また、主人公のエルリック兄弟を含めた原作キャラの出番や活躍が全体的に薄いのもあって、ファンからの評価はあまり高いとは言えない。
詳しくは【鋼の錬金術師FA】および【嘆きの丘の聖なる星】へ。
小説
執筆は井上真氏。
原作本編ともリンクしており、原作の世界観を尊重しつつマイルドな雰囲気で読みやすい作品が多い。『砂礫の大地』はアニメ化前にドラマCD化された他、旧鋼でも物語に取り入れられている。その他にもエルリック兄弟を始めとした主要キャラ達の過去、本編では語られていないキャラクター達のサイドストーリーなども盛り込まれており、ファンならば読んで損のない作品となっている。一方で、ホムンクルスを初めとした原作の核心部分には、おそらく意図的に殆ど触れられてはいない。時系列的におそらく本編開始前だと思われるエピソードも多く、リン達シン国のキャラクターも殆ど触れられず、彼等が登場する以前のエピソードでほぼ構成されている。
そういった点ではと2003年版同じ範囲のエピソードで構成されており、原作のスピンオフであると同時に、2003年版アニメのスピンオフ作品でもあると言える(実際に、一部の小説エピソードや小説のキャラクターが2003年版本編に逆輸入されている)。
現在では、ガンガンONELINEの小説コーナーにて無料で読む事ができる為に、この機会に一度読んで見るのもいいだろう。
表題作以外にももう一作載せられる事もあり、こちらはコメディ主体のドタバタ劇がメインとなっている。
第1作目。廃坑の町ゼノタイムを舞台に、エルリック兄弟が自分達の偽物とそれに関わる騒動に挑む。
- 『囚われの錬金術師』(2003年9月)
連続テロ事件と連続誘拐事件を調査するロイと、それに巻き込まれたエルリック兄弟の物語。
マスタングの代理で南部の視察に向かったエルリック兄弟が、『等価交換』を規律とする村の謎に迫る。
- 『遠い空の下で』(2004年10月29日)
故郷・リゼンブールを旅立って1年後の兄弟を描いた過去物語。
ダブリスの師匠・イズミの元に滞在する兄弟(単行本7巻)の下に舞い込んだ、とある『禁書』の情報と、ロイが追う合成獣事件の顛末を描いた物語。
ウィンリィのラッシュバレー機械鎧技師修行の奮闘記。
ゲーム
ゲーム作品も多く発表されており、その多くはオリジナル展開をメインとしたものが多い。
2003年版での系列
- 『翔べない天使』(プレイステーション2/)
- 『赤きエリクシルの悪魔』(プレイステーション2/)
- 『神を継ぐ少女』(プレイステーション2/)
- 『ドリームカーニバル』(プレイステーション2/)
- 『迷走の輪舞曲』(ゲームボーイアドバンス/)
- 『想い出の奏鳴曲』(ゲームボーイアドバンス/)
- 『デュアルシンパシー二人の絆』(ニンテンドーDS/)
※『翔べない天使』は2003年版制作直前のゲーム作品であるため、原作世界の出来事だと考えることもできる。
原作及びFAの系列
※こちらの作品群も、原作及びFAの設定とは食い違いや曖昧な部分も複数見られる。
- 『暁の王子』(Wii/)
- 『黄昏の少女』(Wii/)
- 『背中を託せし者』(プレイステーションポータブル/)
- 『約束の日へ』(プレイステーションポータブル/)
- 『鋼の錬金術師MOBILE』(スマートフォンアプリ/シナリオ途中でサービス終了)
実写版
山田涼介主演で実写映画版が製作され、ノベライズも行われた(作者は新泉司)。
全三部作。
第1作は2017年夏を目処に上映される予定だったが、同年12月までにずれ込んだ。
第2・3作は原作20周年企画の一環として2022年初夏に連続公開予定。
なお、かなり評判が悪い。
詳しくは【鋼の錬金術師(実写映画)】
舞台化
関連イラスト
企画・記念
- 「ハガレンモザイクアート」2009年7月20日 - 8月16日
鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST みんなでモザイクアートを作ろう! ~新章放送スタート!&8.26 DVD&Blu-ray発売記念!~ イラストコンテスト。