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盲目の錬金術師

もうもくのれんきじゅつし

荒川弘の漫画『鋼の錬金術師』に登場する短編エピソードの一つ。 第二期アニメ(いわゆる「FA」)ではブルーレイ特典エピソードとして映像化された。 連載前期の作品だが、その陰鬱な結末から本作屈指の鬱エピソードに数えられる。
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盲目の錬金術師とは、漫画『鋼の錬金術師』の短編エピソードである。


概説編集

掲載はファンブック『鋼の錬金術師 パーフェクトガイドブック』の巻末にて。

人体錬成に成功したと噂される錬金術師を知ったエルリック兄弟が、彼を雇う富豪・ハンベルガング家を訪ねて、その実態と真実に触れていく。


ガイドブックが2003年12月刊行と、コミックの巻数でいえば6巻(エルリック兄弟の修業時代)が終了し、その後長らく因縁を持つグリードとの邂逅を果たした時期であり、物語としてはまだまだ序盤である。

正確な時系列については不明だが、本編開始に前後するアメストリス国内を遍歴していた時期だと考えられる。


後にアニメ第二期『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』のブルーレイ版の特典として映像化された。



ストーリー編集

「人体錬成を成功させた錬金術師がいる」

その噂を聞き付けたエルリック兄弟(エドワード・エルリック/アルフォンス・エルリック)は、片田舎で暮らす没落貴族のハンベルガング家を訪ねた。

そこで主人に先立たれたハンベルガング夫人、その娘ロザリー、そしてハンベルガングを幾度となく救って来た敏腕錬金術師のジュドウが兄弟を迎え入れた。

単刀直入にジュドウへ人体錬成の成否を問うたエドワードだったが、ハンベルガング家の一同は目の前のロザリーこそその結果だと誇らしげに応答した。


アルフォンスはロザリーの遊び相手を買って出るが、うっかり自分の中身が空の鎧とロザリーに知られてしまう。しかし怖がるどころか興味深げにアルフォンスを観察したロザリーは、見返りに「自分の秘密」をアルフォンスに打ち明けると言い出す。

そしてアルフォンスの肉体を取り戻すため、錬成の秘密について夫人に食い下がるエドワードに対しても、エドワードの必死さが琴線に触れた夫人によって「我が家の秘密」を明かされた。


果たした、兄弟が見た秘密とは――?


登場人物編集

その他の人物については鋼の錬金術師の国家・組織・キャラクターなどの一覧を参照。


エルリック兄弟

主人公。ジュドウの噂を聞き付け、その真相を確かめるべくハンベルガング家を訪ねる。

最初はその方法を知るために必死に探りを入れていくが、やがてハンベルガング家が抱えるを目撃することになる。


ジュドウ・ハンベルガング

cv:速水奨

ハンベルガング家に召し抱えられている在野の錬金術師。

今は亡き当主に誠意的に仕える人格者であり、これまで幾度なく家の危機を知恵と錬金術で救ってきた。

その実力は国家錬金術師に匹敵するとされ、自身の研究の粋をハンベルガング夫妻の愛娘の蘇生のための「人体錬成」というかたちで結集させた。

結果、真理の扉によってを「持っていかれ」、盲目となってしまう。その痕跡として、目には火傷のような大きなが残っている。


ロザリー・ハンベルガング

cv:遠藤綾

ハンベルガング家の一人娘。

3年前に亡くなったはずだが、ジュドウの人体錬成によって蘇生されたとされる。

表向きは明るくお転婆な少女だが、その無邪気さとは反する思慮深い一面を持つ。

そして彼女には、人には教えられない「秘密」が存在する。


ハンベルガング夫人

cv:寺瀬今日子

現ハンベルガング家の当主代理。

夫を流行り病で亡くし、現在はジュドウの補佐を得ながら娘や使用人たちと慎ましくも幸せな生活を送っている。

ジュドウに対しては全幅の信頼を置いているも、彼女も人には打ち明けられない「秘密」を隠していた。


余談編集

特典映像でジュドウ役を演じた速水氏は、アニメ第一期(「旧鋼」)にてフランク・アーチャー役を担当していた。


関連タグ編集

鋼の錬金術師 短編

人体錬成

没落貴族


















※ここからネタバレを含みます。

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ロザリー・ハンベルガング(本物?)

ジュドウが錬成した“本物のロザリー”。その姿はロザリーの同じドレスを着た、ロザリーによく似たミイラ状の肉人形

人体錬成でできたモノは肉体と魂の拒絶反応で直ぐに崩壊する事が多いのだが、この肉人形は定着した魂との相性が良かったのか、崩壊する事なく少なくとも作中の時点までそのままの状態で残っていた。触ると僅かにだが反応を起こす為に、魂は宿っており生体反応はあると思われるが、それを「生きている」かと問われると非常に怪しいところでしかない。食事などの生命維持に関しても不明である。

よく見ると眼窩は落ち込み、顔の輪郭も歪に形成されている。


つまりエルリック兄弟の前にいたのは偽物であり、本名は「エミ」と言う。

彼女は目を犠牲にしてまで人体錬成を敢行し、ハンベルガング家に忠義を尽くしてくれたジュドウにその失敗を悟らせない為に、孤児院から引き取られた養子である。

この事実は、ジュドウを除いた家人たち全員の暗黙の了解であり、エミもジュドウを慮る家人たちによって真実を入念に叩き込まれ、エミは生前のロザリーを精一杯演じている

それ故にエミは「自分はこの家の子になれない」という苦悩を抱えつつも、孤児院より遥かに裕福で善良な家人達に恵まれた現在の生活から離れる事もできず享受している。

そして夫人を含めたハンベルガング家の一同もまた、ジュドウの誠実さに幾度となく救われてきた恩を思い、彼の人体錬成は成功したという事にしている。

夫人がジュドウの人体錬成の産物の筈のロザリーを最初に紹介した際に、それを「成果」とは言わずに「結果」と濁したのはこの真実の為である。アルフォンスの正体を知ってエミが全く動じなかったのも、アルフォンスと同様の存在(ロザリーらしき者)を見ていたからである。


ちなみに作中では、エミはジュドゥが錬成した「ロザリー」の事を「本物のロザリーかは分からない」と評したのに対して、アルは「本物だよ」と慰めの言葉を言っていたが


そもそも人体錬成が失敗し、リバウンドを起こすのは術者が「人体の構成物」を用意しているのに「死者の魂」を用意していない、所謂材料不足が根本的な原因である(当然そんなものは真理の扉の中にも無い)

事実魂のない肉体のみの人体錬成は問題なく成功しているし、真理の扉にこそ飛ばされたものの、魂がキチンと存在する自身をそのまま人体錬成した場合は通行料は発生するがその対価さえあれば問題なく錬成出来ている)


じゃあ動いているのは?となるが大抵は真理の扉が手に入れた何者か(人体錬成を試みてそのまま真理に呑まれた成れの果て)の魂である、錬成されるのも真理の中にいる誰かのツギハギであるため、錬成されたナニかは大抵大雑把な人の形しかしていないし、場合によっては蘇らせようとした死者の特徴すらない(エルリック兄弟がトリシャを錬成した際は、彼女は茶髪なのにも関わらず黒髪の誰かになっており、魂はアルフォンスの物が使われていた)


つまり残念ながら間違いなくこのロザリーは肉体も中身の魂も本物のロザリーではない(実際に上記した通り、顔の輪郭などが明らかに異なる)。




結局、ジュドウの真実はエルリック兄弟の求めたものではなく、兄弟はハンベルガング家を後にした。

最後の見送りまで、エミは「ロザリー」を演じ、付き添いの執事もエミを「ロザリー」として扱っていた。



「みんないい人たちだね」

「ああ」





だけど、みんな救われねえ





本作屈指の鬱エピソード

この短編はハガレンのストーリーでも、本編のニーナとアレキサンダーの一件と並んで作中屈指の救われない物語として、ファンの間で語られている。


それまでバカ全開カバー裏ネタ特集や作者インタビューを載せておいた後に、こんなキンキンに冷やした氷水みたいなシリアスで陰鬱な話で巻末を〆られてしまえば、いやでも印象に残ってしまうというもの。


注意点として、先述したとおりこの短編は「デビルズネスト編」がクライマックスへと向かっている最中に刊行されたストーリーあり、人体錬成の細かい設定についてまではきっちりと形成されていなかった可能性も考えられる。

その上で後年のお父様の言である、人体錬成の通行料は「人が思い上がらぬよう正しい絶望を与える」為のものとするなら、ジュドウの視力喪失は「自身が行った人体錬成の結末を知る事が出来なくなる」という点や、更に周囲の善意により真実を知る権利を奪われ騙され続ける」「一つの嘘の為に1人の少女の人生を犠牲にするという二次的な絶望まで発生している。

実際に、ジュドウがハンベルガング夫妻の為にロザリーの人体錬成を試みたのは事実なのだが、同時に「自分の理論が禁忌を超えられるか」という術師としての好奇心と功名心に負けたという、誠実さの裏に隠れた浅はかな野心をも炙り出している。

その証拠に、ジュドウは真理の扉を通った代償に目を奪われ、現実に帰った後に夫妻へ発した言葉が、「私の理論は完璧だと証明されたのですか?」という、野心に曇った言葉であり(ロザリーはちゃんと生き返ったのか?という意味合いもあったのかもしれないが)、故にその結果を自分自身で確かめる為の「視力」を奪われたものと思われる。

そして、彼が人体錬成を行おうとしている事を知った上で、それを止めずに支持した上、事実を隠蔽するハンベルガング家夫妻や他の使用人達も当然ながら同罪であり、そういった意味でも一家全員が人体錬成の結果による業を背負う事になったのは、やはり真理による「正しい絶望」だと言える。


ハンベルガング家の人々は確かに皆善良で優しい人達であった。しかしジュドウに黙っていたところで、当初の目的が果たされた訳ではなく、本人も諦めがつかない無間地獄しか無いのは目に見えており、不必要な優しさは単なる悪意より質が悪く、与えたところで相手をより不幸にする残酷なものであるという教訓も描かれていると言える。


無理矢理良かった点を挙げるなら、ホムンクルス達がジュドウの存在に勘付かず(そもそも片田舎の没落貴族にまつわる噂話に過ぎないので、基本的に中央で活動するホムンクルス達は純粋に知らなかったか、知っていたとしても精査していなかったのだと思われる)、人柱不足の為にロイ・マスタングを急ごしらえで人柱にした事で、プライドを消耗させられた事――が上げられるだろうか。


ただし、後に本編で明かになった設定を踏まえれば、上記のジュドウが錬成したロザリーの肉人形については、いずれは魂と肉体の拒絶反応で崩壊すると思われるので、彼等全員が目を背け続けた真実と向き合う時が来るとすればその時となるだろう。それがどのような結末となるかは知る由もないが。


作者の荒川氏曰く「閉鎖空間の中でいびつなバランスを保ってはいるけど、根本的な解決に至ってない、そんな救いようの無い話であるため読者に受け入れられるか不安だったが予想以上の反響で驚いた」とのこと


…あの屋敷の人々がみんな死に絶えて、建物が廃墟になったとしても、あのミイラは生き続けるのかな。物語の中でミイラがもぞっと動きましたが、亡くなった人はどんな錬金術でも決してよみがえりませんから、たぶんあの中には「何か」が入っているのだと思います。それが何であるのかは、私にも分からないのですが。

by荒川氏


先生、ホラー過ぎます。



関連タグ(ネタバレ)

共依存 現状維持


マジハールルジョン:第一期アニメ(いわゆる「旧鋼」)で登場したアニメオリジナルキャラであり、ジュドウ達とは別の意味で救われない人物であった。

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