「俺の息子をバカにするな」
「父親だからだよ」
「必要とか理屈とかじゃないんだ おまえ達が何より大事なんだ 幸せになってほしいんだ」
概要
CV : 石塚運昇(青年時代は浪川大輔)/堀内賢雄(ゲーム『鋼の錬金術師 MOBILE』)
演 : 内野聖陽(実写映画版)〈お父様と1人2役〉
『鋼の錬金術師』の主人公、エドワード・エルリックとアルフォンス・エルリックの父親。身長180㎝ぐらい。トリシャ・エルリックを妻に持つが、正式には籍を入れていない。エドとアルの幼少期に突然出奔し、以後音信不通となっていた。
エドやアルと同じ金髪金眼に眼鏡をかけており、髪の色と同じ顎鬚を生やしている。一見すれば厳格そうな顔つきだが、その実は飄々としながらもどこか物憂げな雰囲気の紳士で、掴みどころがなく近寄りがたい不思議な人物。
ピナコ・ロックベルとは昔からの酒飲み仲間らしい。
ウロボロスの紋章を持つホムンクルスたちの首魁である“お父様”ともよく似ているが…?
正体
彼の正体は古代文明クセルクセスの民の生き残りであり、ヴァン・ホーエンハイムという人物の形をとった賢者の石そのものである。それ故にほぼ不老不死のような肉体を持ち、少なくとも数百年(クセルクセスが紀元前の文明であることを鑑みると二千年近く)は生きている。
このため、エルリック兄弟は古代人であるクセルクセスの民の末裔ということにもなる。
経歴
青年期には奴隷として扱われており、主人の錬金術師の元で下働きをしていた。当時は学も名もなく「奴隷23号」と呼ばれており、“お父様”はその時主人が23号の血液を使った実験で偶然に生成された存在であり、その出会いをきっかけに23号は数奇な運命を辿ることになる。
ホーエンハイムは“お父様”によってその名と卓越した学識を授けられ、師となった主人共々クセルクセス王に仕えるほど優秀な錬金術師となる。
しかし、“お父様”の真意には気付かず、その企みによってクセルクセスは一夜にして滅亡。クセルクセスの民は賢者の石にされ、クセルクセス一帯に描かれた練成陣の『真理の中心(厳密には“お父様”自体を中心にしていた)』にいた"お父様"とホーエンハイムに吸収されてしまう。これにより、フラスコの中でしか生きられなかった“お父様”は、ホーエンハイムと同じ姿の自らの意思で自由に動ける体を手に入れ、姿を消してしまった。
国の滅亡後は、砂漠を放浪していたところをシン国の行商人に助けられ、シンに渡る事になった。その後、誤った錬金術を使っていたシンに錬金術の正しい知識を伝え広め、東洋の錬丹術の祖である「金人」「西の賢者」と呼ばれ後世に偉大な人物として名を残している。
自身の体がもはや人外の境地に達していたことから半ば厭世的になっていたホーエンハイムだが、トリシャ・エルリックとの出会い、彼女との愛を通じて「人間であることの喜び」を取り戻す。そして“老いて死ねる肉体”に戻るための研究をはじめ、その過程で自らを不老不死にした“お父様”の更なる計画に勘付く。こうしてエドとアルが幼児の頃、その企てを阻止し彼との因縁に決着をつけるため、妻子のもとを離れて旅立つこととなった。
事情を知らない長男のエドからは「妻子を捨てたろくでなし」と捉えられ、絶縁同然の扱いを受けていたが、実際は妻にも子供にもメロメロなマイホームパパ。家を出る際に冷たい表情になってしまったのは「子供たちの顔を見たら泣いちゃうかも」という理由から子供たちに黙って出ようとしたところを偶然トイレに行く途中のエドとアルを見てしまい泣くのを堪えた結果、睨みつけるような表情になってしまいエドに長年誤解されてしまうハメになった。もしも涙を見せながら旅だっていればまた違った印象を息子に与えていたかもしれない…。
厳めしい印象を与える顔のわりに涙もろく、やや天然ボケな面もある。そして根はお人好し。
長い時間を生きてきただけに知恵と知識に長じ、錬金術においては作中最強の一角。
ちなみに、青年期の容姿は長男のエドに瓜二つであり、フラスコの中の小人(ホムンクルス=後のお父様)との初対面時には「物怖じしない性格」を気に入られたり、「君、頭悪いんだなあ」とバカにされて「ほっとけ!」「頭悪い言うな!」とキレたり(エドが「チビ」と呼ばれた時とほぼ同じ怒り方)するなど、性格的な意味でも血は争えない面を見せている。
お父様との関係
前述の通り“お父様”はホーエンハイムの血液から精製させたホムンクルスであり、本来的な位置取りでは“親子”だが、共に成長したという意味では“兄弟”、知識を与え与えられの関係では立場を逆転させて“師弟”と、複雑に絡み合った関係を持つ。少なくともクセルクセスが滅亡するまでは良好な関係であった。
フラスコの中に居た頃の、感情を切り離す前のホムンクルスからは「血を分けた家族」とも言われており、賢者の石を半分分けられている事からも特別扱いされていたのは間違いない。
ゆえにホーエンハイムは、ホムンクルス(=お父様)が祖国を生贄に賢者の石と不老不死の肉体を得る計画を企んだこと、それを察知して止められずに同胞たちを賢者の石にしてしまったことを悔いていた。
約束の日においてセントラルの地下で対面した際には、ホムンクルスに名前と人格を与えた事、自分をお父様と呼ばせていた事を指摘し、「お前、本当は人並みに家族が欲しかったんじゃないのか?」と問いかけている(当人は「人間になりたいわけではなく、完全な存在に成りたい」と返しているが、実質家族が欲しいという言葉を明確には否定していない)。
原作ではこれ以降、徹底して敵として相対しているが、アニメ版では消え去る直前、願いを必死で叫ぶホムンクルスに対して悲しげな表情を見せている。
賢者の石との関係
彼の中には53万6329人分のクセルクセスの人々の魂が賢者の石となっている。
“お父様”が賢者の石を単なるエネルギー源としか捉えなかったのに対し、ホーエンハイムは一つ一つの魂を対等な存在と考えており、その長い人生の時間を使って53万6329人の魂全員と対話を完了させるという途方もない苦行を達成(しかもほぼ全員の名前を記憶)している。
ゆえに賢者の石の中の魂たちは全員ホーエンハイムに好意的であり、ホーエンハイムが最終決戦でお父様と相対した時には一丸となって彼の力となろうとした(一部お父様に奪われた石たちはお父様の中の魂に呼びかけて反抗し肉袋をズタズタにしている)上、長い旅の中でアメストリス中にばら撒かれた賢者の石達は自らの意思で自身の魂をトリガーにして逆転の錬成陣の基点となるなどの動きを見せた。
『ただいま、トリシャ』
最終決戦でエドの窮地を救うべく、自ら真理の扉へと旅立ったアルを帰還させるため、賢者の石を使い切って残った自らの命を犠牲にして扉を開けるようエドに進言するも、これを突っぱねられる。この際「クソオヤジ」と、初めてエドから親として認められてもいる。エドが錬金術の力そのものを対価にアルを救ったのを見届けると、その場にいた憲兵からリゼンブールまでの列車賃を借り、トリシャの墓前へと赴いた。
トリシャに息子達の報告をしながらも錬成痕の様な症状とともに体の崩壊が進行し…
『でも、やっぱり死にたくねぇって思っちゃうなぁ…本当、俺って…しょうがねぇなぁ…』
そしてピナコ・ロックベルが偶然墓の前を通りかかった時、そこには満足げに微笑みながら死んだホーエンハイムがいた。
『バカたれが…なんて幸せそうな顔して死んでんだい…』
アニメFAではピナコの発したこのセリフの後で、安らかな顔で眠るように亡くなったホーエンハイムをアップに第5期OP「レイン」がEDとして流れ出すという視聴者の涙腺をくすぐる演出がある。
最終巻の巻末では夫婦そろってリゼンブールの丘の上に立ち、後を息子たちに任せて安心しながら二人でこの世から去っている。
余談
鋼の錬金術師完結後にオンライン通販限定でハガチェスが販売されたが、ホーエンハイムはやはりというか将棋で言う王将『キング』だった。劇中でも最重要人物であり、彼の存在なくして物語は成立しないため納得である。
関連タグ
ホーエンハイム:正式名称である本項よりも、セカンドネームのみのこちらの方が多く登録されている。
マース・ヒューズ…作中に登場した父親キャラ。彼もまたホーエンハイムと同等なくらい妻子に深い愛情を持っていた。もし出会っていたら親バカ同士意気投合していたのでは?と読者から予想されることも。
もしかして:ホーエンハイム・エルリック
⇒03年版アニメのオリジナルキャラ。エルリック兄弟の父が原作ではまだ登場していなかったため製作された。顔や立ち位置こそ同じだが、少し痩せており人格や言動はヴァン・ホーエンハイムとは異なる全くの別人である。こちらではトリシャの旧姓は不明。
ライラ(鋼の錬金術師)…2003年度版アニメにおけるホーエンハイムの元恋人であり、原作におけるホーエンハイムとはある意味で正反対な人物。