概要
面積215万平方km、人口3217万5千人(2022年)、首都はリヤド。
世界の代表的な産油国の一つであり、サウード家がイスラム教と絶対王制に基づき支配する、現代ではまれな政教一致の専制国家。イスラム教の聖地であるメッカ、メディナを有する。
外交
G20の一員であり、中東の主要国として大きな影響力を持つ。
同じイスラム教国家でも、宗派・民族・国家体制の異なるイランとは不俱戴天の敵・・・だったが、中国の仲介で外交正常化に動き出した。
一方、同じくイランと敵対するアメリカとは経済・軍事の両面で親密である。建国を支援したイギリスとも友好関係。
サウジアラビアは無慈悲かつ強硬な外交でも知られ、自らを批判する勢力を許すことはない。カナダがサウジアラビアの人権問題を糾弾した際、サウジアラビアは断交も辞さない態度を見せ、米英が仲裁することになった。
しかし、サウジアラビアは軍事力及び人口資源において中東の大国であるトルコ、エジプト、イランには遠く及ばず、石油資源に極度に依存した体制をとってきた。このため近年では、シェール革命が起こったアメリカが急速に産油国への配慮をしなくなったこともあり中東における地位は揺らぎつつある。
日本は石油の調達をサウジアラビアに依存しており、経済的な関係を強化している。しかし文化面から王族と皇室の交流には慎重。
ウクライナ侵攻ではロシア側の行動を静観する立場をとっている。
そのウクライナ問題を受けてなのか従来の親米姿勢を一転して中国に接近し、上海協力機構の対話パートナー国の加盟申請しようとしている。
社会
サウジアラビアの国名が意味するところは、「サウジ=サウード家」の「アラビア」である。つまりサウード家による絶対王政であり、国政選挙が存在しない、現在では稀な国の一つである。三権分立も近代的な憲法もなく、サウジアラビアはクルアーンとハディース、スンナ(ムハンマドの言行録と慣行)をベースに統治が行われる。
近隣の中東諸国のうち、国家元首が「王」ではなく「首長」なのはサウジアラビアに配慮して王を名乗ることを憚っているという話もある。
1992年に制定された法律により、王を継承できるのは初代国王アブドゥルアズィーズの男系の子孫であると定められている。しかし一夫多妻が認められていることもあり歴代の王子の数はべらぼうに多く、故に王子だからといって安穏とはしていられない権力闘争も起こっている。
司法
裁判はアラビア語で進められ、被告がアラビア語を理解できなくても関係ない。そのため、イスラム教の戒律やサウジアラビアの法律に触れると拷問や極刑に処される可能性もある。現に聖地メッカにイスラム教徒でない者が変装して忍び込み裁判の結果処刑されたことも。そのため「イスラム教徒以外は絶対に近づかないように」と当局から勧告が出ている。
公開処刑がいまだに行われているのも特徴。家族の名誉を汚した者(主に女性)を殺すことで面目を保つ「名誉殺人」もまかり通っている。具体的には婚姻拒否、強姦を含む婚前・婚外交渉、駆け落ち、その他男女間のトラブルになった場合、女性がその親族から殺害されるというケースがある。
イスラム教においては、正式な裁判を経ない私刑行為、男女同刑とされている刑罰の不履行は違法とされており、名誉殺人は中東古来の風習という理解が一般的ではあるが現地の人々がイスラム教の戒律と混同していること、シャリーア上罪によっては被害者の性別で罪の軽重が存在することがそれを助長させているのではという主張もある。
なお、こうしたことは中東から遠く離れた地域であるインドネシアやマレーシアなどではほとんど起こることはない。
もっとも、こうしたことはサウジアラビアに限ったことではなく、中東のイスラム諸国の多くは同様である。また、他の国々はサウジアラビアからの経済制裁や軍事衝突を恐れ、サウジアラビアの政治状況を批判できないでいる。サウジ皇太子によるジャーナリスト暗殺事件疑惑に端を発したアメリカによる思い切った人権問題批判は、サウジアラビア中国接近への背景ともされている。
経済
経済のほとんどを石油に依存している。そのためサウジアラビアのGDPは石油の価格によって大きく揺れ動きやすい。国民生活は豊かであり、税金と呼べるものはザカート税(困窮者救済税)と消費税(15%)のみであり、それで医療費や教育費が無料なため、それゆえスウェーデン以上に国民の購買力が高い。サウジアラビア国籍を持つ者は手厚い福祉を受けられるが、外国人はそうでもなく、所得税が課される。(ちなみに、サウジアラビア国籍を取得するにはイスラム教への改宗が義務づけられており、信教の自由はない)
働かなくてもある程度生きていけるため女性の社会進出が進まない。それどころか男性でも働いてない人は多い。
一方で石油で得た収益を元手に他の産業の育成も行っており、長年に渡る育成政策の甲斐もあって石油が占める割合こそ大きいままではあるが工業(石油化学工業が中心)や農業も経済でより大きな地位も占めるようになった。石油による収益は莫大な外貨も齎しており、サウジアラビア政府はそれを世界各地で投資して運用している。
2016年には改革プラン「ビジョン2030」が発表され、観光産業やエンターテインメント産業、IT産業、半導体産業などの育成を目指すこととなった。
宗教
イスラム教は主に「スンニ派」「シーア派」の2つに分かれるが、サウジはスンニ派、中でもワッバーフ派を国教としており、それ以外の宗教の信仰は極めて制限される。例えば他宗教の聖典や宗教用具を持ち込むことができない。同じアブラハムの宗教の聖典である聖書でさえもである。
国旗に書かれている文字は、イスラム教に入信するときに唱える必要のある一文で、「アラーのほかに神はなし、ムハンマドはアラーの使徒なり」と書かれている。つまり国旗そのものがイスラム教と密接につながったものであり、半旗にすること・縦向きで掲示することが禁じられている。
ワッハーブ派
サウジアラビアの国教。スンニ派で最も過激とされ、スンニ派のハンバル学派に位置する宗派として紹介されることが多いが、スンニ派の代表的な他の法学派とも教義解釈が異なっている。
オスマン帝国統治時代のイスラム改革運動が起源とされ、思想的リーダーはムハンマド・イブン・アブド・アル=ワッハーブという人物で名称はここからきている。
ワッハーブは四学派の一つ「ハンバル派」のムスリム出身であり、彼はスーフィー実践者イブン・タイミーヤの影響を受けつつも、スーフィーを否定するに至った。
ワッハーブはサウード家(現在のサウジ王家)という支援者を得て、ワッハーブの教義解釈に帰依したサウード家は彼らとワッハーブ派に従わない他のムスリムを攻め、勢力を拡大した。
その渦中で他のイスラム諸国には一般的な聖者廟などの聖地をも偶像崇拝の産物として破壊し、ワッハーブの考える「本来のイスラーム」を実現しようとした。
しかし、彼の弟スライマン・イブン・アブド・アル=ワッハーブをはじめとするイスラム学者たちはこれを否定した。現代でもワッハーブ派を否定するスンニ派ムスリムがいる。
なお、サウジアラビアはISIL支援国家の1つでISILにもワッハーブ派の影響があるのではないかと指摘されている。ちなみにISILの母体はサウジアラビアと同じくスンニ派である。
女性
(西洋の価値観で見た場合)サウジアラビアは男尊女卑の国と見做される。女性は肌を露出することが厳禁とされ、外出することすら自由にできないため肥満が国家的な問題となっている。また、教育の機会が十分に与えられているとは言い難い。車の運転免許を持つことすら禁止されていたが、2019年から緩和された。
娯楽
ギャンブル、ポルノ、「偶像崇拝」とみなされる物品の所有・収集、魔術、イスラム教(特に国教であるワッハーブ派)やその開祖ムハンマド・イブン=アブドゥッラーフへの批判が禁じられている。また王家への批判も厳禁。
宗教警察が日々目を光らせており、戒律に反する事柄への弾圧は厳しい。例えば酒類に関しては、闇市場が存在しないくらい徹底されている。
昔に比べて大幅に緩和されたとはいえ、他国の常識では考えられない理由での処罰、国外追放などを行うことが度々ある。2013年にはUAEから来ていた3人の外国人男性を「イケメンすぎて女性達を惑わす」との理由で国外退去処分にして話題を呼んだ。このうち1人はイラク人のモデル兼カメラマンのオマール・ボルカン・アルガラであり、この騒動が縁で日本のイベントに呼ばれたりもしている。
また、インターネット上の検閲が行われており、宗教上好ましくないと判断された雑誌やアニメやゲーム、映画は発禁処分や配信停止となることもある。ポケモンもその1つであった。しかし年々緩和傾向にあり、日本のアニメも普通に放送されるようになったという。そして、アニメエキスポも開催されており、なんとラブライブ!のフィギュアも販売されていた(上記のように偶像崇拝は禁止なため、日本のようなことはできない)。現地の声優によって現地語版も作られているらしい。一番人気の日本アニメはキャプテン翼である。
ドリフトの聖地?
一部クルマ好きの間ではとてつもなくぶっ飛んだ、しかも日本のそれとは全くスタイルが異なるドリフト(いわゆる「サウジドリフト」)が行われる地としてその名が知れ渡っている。
しかしマナーは悪いらしく、最悪のドライバーが多い民族の9位にランクインするなど無謀な運転が多い。参考
渡航
2019年に個人旅行者への査証が解禁されたが日本からの直行便はない。
日本の外務省によると治安は安定しているが暑さを避ける夜型社会のため防犯は念入りに。
イエメン、イラク国境は越境攻撃の可能性があるため絶対に近づかないようにとのこと。