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概要

中東とは、Middle East英語)から訳された地域名。この呼び名は西欧から見た距離感によるもの。近東より遠く極東よりは近い中間の地域を意味する。

現代では広くは西アジア及び北アフリカアラブ諸国が含まれる。今はあまり用いないが、近代において近東(Near East)というのは西欧からみてすぐ近くにある東の国、つまりオスマン帝国の領域を指した。すなわちバルカン半島小アジアシリア辺りを漠然と意味していた。中東というのは「その先」にあるアラビア半島からインド辺りまでをさしていた。現代ではそれら近東のトルコやシリア辺りを含めるというニュアンスでは「中近東」とも呼ばれるが、区別は曖昧で「中東」も「中近東」もほぼ同義的に使われることが多い。それはオスマン帝国崩壊により近東という語がほぼ死語になったことも背景にある。

オスマン帝国崩壊後も、イギリスそしてアメリカの軍事戦略上、中東という用語は継続して用いられた。より厳密な定義としては、1958年に米国務省がニューヨークタイムズに語ったものがある。ここではエジプト、シリア、イスラエルレバノンヨルダンイラクサウジアラビアクウェートバーレーンカタールを中東と呼んでいる。オクスフォード英英辞典では、「南西アジアと北東アフリカ。地中海からパキスタンまで及びアラビア半島」としている。

前述のとおり「中東」という言葉は「ヨーロッパから見て、近東より遠く極東より近い」という意味なため、日本人からすると多少不自然な単語ではある。欧州中心主義的な概念であると批判されることもある。現代の「中東」はどうしても英米の軍事戦略と関連する言葉ではあるが、フランス語やイタリア語でもほぼ同じ地域を「中東」に相当する語で呼ぶ(Moyen-Orient,Medio Oriente)。しかしドイツ語やロシア語では同じ地域を「近東」に相当する語で呼ぶ(Naher Osten,Ближний Восток)。国際機関では西アジアという語を一般に用いる。中東地域の報道でも「中東」という語は用いられるが、現地独自の用語には「アラブ世界」「アラブ諸国」といった表現もある。ただし、この場合トルコやイランなどアラビア語を用いない国々は含んでいない。

地理

民族としては、主にイランやアフガン辺りの「ペルシャ系」、イラクからアラビア半島辺りの「アラブ系」、トルコ辺りの「トルコ系」、北アフリカ辺りの「アフリカ系」に分かれる。国連区分でいう西アジアに含まれる国が多く含まれるが、東アジアから南アジアに至る諸国と完全に均質な「アジア」世界を形成している訳ではない。もちろん共通点も多いが、宗教・哲学・政治制度・経済システム等で異なる側面も多く、むしろ欧米と共通性が高い部分もある。

宗教ではイスラム教が多く存在しており、国教としている国も多い。一方かつてはキリスト教も普及していた地域であり、イスラム教伝搬以降も有力なマイノリティとしてエチオピア、レバノン、アルメニアなどを中心に独自の文化を維持している。さらにユダヤ教を主要宗教とするイスラエルが存在し、後述するイスラム主義と鋭く対立している。しかしこれら諸宗教はアブラハムの宗教として一定の思想的共通性を欧米諸国と共有している。

高度な工業に依存する国は比較的少数で、砂漠面積が広いためにオアシスや大河周辺を除いては農業も盛んではない。一方で石油やガスなどの鉱物資源は大変に豊富で、それらの採掘を基盤とした豊かな国々も多い。

歴史

歴史を始まりに遡ってみれば、中東地域は四大文明のうち、メソポタミア文明エジプト文明に行きつく。諸王国の興亡において両文明は交流と戦争とを繰り返し、ついにはアケメネス朝ペルシャという安定した統一帝国に至るので、併せて肥沃な三日月地帯とも呼ぶ。アレクサンドロス大王の征服によってギリシャを含む全体がヘレニズムという文化圏になる。これは、エジプト科学、アケメネス朝政治学、ギリシャ哲学などが一体化した先進的な文明である。ヘレニズム諸国の内紛を経て最終的にはローマ帝国ササン朝ペルシャが激突する舞台となった。両国の疲弊の機を見たイスラム教団は中東全域を征服し、ついにはイスラム帝国を形成するが、ヘレニズム以来の先進性はなお継続していた。

イスラム帝国の統一が崩壊した後、近世のこの地はトルコ系のオスマン帝国とペルシア系のサファヴィー朝がアラブ人の土地を奪い合っており、継続して自立できた王朝は多くない。さらに第一次世界大戦後には欧米が進出して勝手に植民地として分割しつつ、国民国家の概念も持ち込んで、中東は一気に近代世界に放り込まれた。現代は植民地からは独立したもののこの勝手な線引きをほぼそのまま国境として国家が成立している。このため、民族の境界と国境がある程度一致するイラントルコを除くアラブ民族の諸国では、国民国家意識が低い。むしろアイデンティティとしては広くは、全ムスリムの連帯と宗教復興を目指すイスラム主義やアラブ民族全体の連帯を求める汎アラブ主義、あるいはその逆の部族主義が強い。

汎アラブ主義を具体化したアラブ連合共和国やイスラム主義を武力で具体化しようとするイスラム過激派なども出現したが、地域全体の主導権を握るには至っていない。また部族主義を背景にした部族間の武力抗争が絶えないため民主主義の想定する言論による政党間競争も成立し難く、有力部族を背景にした絶対君主制の国家が多い。こうしてトルコアラブの春諸国のように民主化してもクーデターが起きやすい。石油の産出国が多いため、中東でなにか起こると世界経済が荒れる。

関連タグ

世界 地域

アジア アフリカ アラブ アラビア ペルシャ イスラム教

近東 中近東 極東 中東戦争 湾岸戦争 アラブの春

中東人 中東人名の一覧 中東風 中東風ファンタジー

中東に属する国・地域

エジプト パレスチナ イスラエル ヨルダン レバノン シリア トルコ イラク イラン クウェート サウジアラビア アラブ首長国連邦UAE) カタール バーレーン オマーン イエメン

アフガニスタン パキスタン中央アジアまたは南アジアに含むことが多い)

ジョージア アルメニア アゼルバイジャン(このコーカサスと呼ばれる地域の3国は中東に含まれる諸国として扱うよりは、中東・コーカサスと併称することが多い。外務省のように中央アジア・コーカサスという併称で扱う場合もある。)

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