概要
聖典は『タナク』と『タルムード』。タナクとは『トーラー(モーセ五書)』『ナービーム(預言者・預言書)』『ケトゥビーム(諸書)』の総称である。
これらは「ヘブライ語聖書」ともいい、キリスト教においては旧約聖書と呼称される。
タルムードとはトーラー(律法)とは別にモーセが伝えたという「口伝律法」やタナクや口伝律法の解釈、それらを担ってきた古のラビたちの言葉・事績を集大成した書物である。テーマ毎に分類された6巻・63篇の大著である。
なお、世間にはタルムードに実際に書かれていない「偽引用」が多く流布されている(今この文章を見ている人の中にも、よそで見かけた経験がある人もいるかもしれない)。陰謀論的な悪意によるものだけでなく、好意的な内容であるものも出典不明なものが殆ど。
他の古典・聖典にも言えることだが、出典・引用箇所(巻・篇の情報)が明記されていない場合、また少なくとも記述があることを保証できる専門家を介したものでない場合、裏がとれない場合は下手に信用しないにこしたことはない。
エデンの園を追放されたアダムとイブの子のノアの時代に起きた大洪水を生き延びた人々による唯一神の教えの国イスラエルの民の歴史を書き、神の領域を侵そうとしたバベルの塔を作って神の報復を受けた話、アブラハムが神と『約束の地』カナンを与えるとの契約を交わした話、エジプトへの移住とその地での隷属、モーセ(モーゼ)に率いられたエジプトからの脱出(エクソダス)、モーゼがイスラエルの民を代表してシナイ山で神から十戒を授かったこと、『約束の地』カナンへの定着、ダビデ王によるイスラエル全土の征服、その後の分裂・衰退、新バビロニア王国の征服に伴う首都バビロンへの連行(バビロン捕囚)やローマ皇帝ハドリアヌスによるエルサレム神殿の完全破壊、後の追放令などをへて、ユダヤ人は世界へ離散(ディアスポラ)した。そのため、唯一神への絶対的帰依が最大の柱とされると共に、いつの日か『約束の地』へと戻る日を待ち望むことが教義の一つとなっている。
キリスト教が生まれる1200年以上前に成立し、現存する宗教なかではかなり古くからあるもの。
(現存する宗教で最も古いのはゾロアスター教。イランからパキスタン、インドでは現在も信仰を集めている。)
ユダヤ教からキリスト教やイスラム教等が枝分かれしたのであるが、ユダヤ教徒の選民思想的偏りを批判したのがキリスト教であり、そのため一時期までは根強いユダヤ否定をしていた。イスラム教は更にユダヤ教やキリスト教は神の教えの一部を間違って伝えているとして両者を批判。
「枝分かれ」という言い方をされることが多いが、イスラム教の場合、旧約聖書および新約聖書は捏造改竄の産物としており、キリスト教と異なり旧約聖書を聖典としては継承していない。
信仰者がユダヤ人に限定される民俗宗教のユダヤ教は、信仰者に条件を持たない普遍宗教であるキリスト教徒やイスラム教徒にくらべ少数派であったため、両宗教の信者に囲まれる事が多く、時には厳しい迫害を受けてきた。
ユダヤ教の教義では、ユダヤ人は神(ヤハウェYahweh)と契約を結んだ選民であるとされ、ユダヤ教を信じる人がユダヤ人とされる。古代イスラエルからの民族離散により、ユダヤ人はヨーロッパや中東各地に離散した。これをディアスポラと言う。(間違えやすいが解放をイメージさせるエクソダスとちがい、こちらは暗い思い出しかない)
離散した先の土地で始める。本当は農作か牧畜が主な仕事だったのだが、土地が手に入らなかったんだからしょうがない。のちにヨーロッパ世界に根を張る事になる。
これが今日の経済的影響力に繋がり、世界で起こる大きなことから些細なことまで黒幕とされる「ユダヤ人陰謀論」と呼ばれるジョークの始まりである。郵便ポストが赤いのもユダヤ人の仕業なんだ…
聖地はエルサレムであるが、エルサレムはキリスト教とイスラム教の聖地にもなっている。
本来はユダヤ教徒の聖地だったのだが、分派したキリストが活動した土地であり、ムハンマドが天馬ぶーラークで天上に行く際にエルサレムから飛び立った等の理由から、各々から聖地と崇められるようになった。まあ地上の楽園はそれだけ魅力的なのだろう。
もっとも、幾度となく時の為政者が融和政策を取って平和的統治をしていた時期もあったのを忘れちゃいけない。悲劇だけが歴史じゃないよ。
イスラエルにおける宗派
ユダヤ教徒=黒服に髭を伸ばした人々というイメージがあるが、これは超正統派と呼ばれる人々のみに見られるもの。イスラエルでは主に4つの派閥に分かれている。
超正統派
上述の格好をし、トーラー沿った人生を最大の使命とする人々。極めて多産で、かつ低所得層であるためにイスラエルで深刻な社会問題と化しつつある。一部の超正統派は、イスラエル否定的。
正統派
キッパと呼ばれる円盤形の帽子を被っている人々。超正統派ほどではないが、トーラーの実践を重視する。超正統派よりも労働や徴兵に積極的で、街や公共交通機関でキッパを被った労働者や兵士をよく見かけることができる。
伝統派
特別な行事や戒律を習慣として受け入れている人々。日本でいう、正月にのみ参拝するような人に近い。
世俗派
戒律の実践に全く興味がない人々。豚肉を口にしたり、婚前交渉、同性愛、安息日でのドライブを平気で行う。特にテルアビブやハイファといった世俗的な大都市に多い。
ユダヤ教が問題になる理由
ユダヤ教じたいにも排他性はあるが、これは真理と非真理を明確に区別するタイプの「書物の宗教」には普通に備わるものである。
信徒と非信徒を峻別するのも同様。よく非難の対象となる「ゴイム」という蔑称であるが、これはもともと「民族」を意味する「ゴイ」の複数形でしかない(「豚」や「家畜」の意とするのは悪意ある俗説である)。
ユダヤ教が啓典宗教である背景から、ユダヤ教が認めないメシアを信じるキリスト教徒、旧約聖書を神の教えを改竄した産物とし、それを「訂正する」と主張するクルアーンを啓示とするイスラム教徒、および「偶像崇拝」者とみなされる多神教徒たちといった「諸国民(ゴイム)」は、少なくともそれ自体が否定語と転じていったのである。
「他宗教・他宗派を指す否定語」はユダヤ教の専売特許ではない。
世界中に離散してあらゆる地域で少数派として暮らさざるをえなくなり、時に大規模な虐殺行為にさらされたユダヤ人はそのアイデンティティを保つために強固なコミュニティと戒律を持つに至った。
尚、余談ではあるが、シオニストとユダヤ人では意味が違ってくるので一括りにするのは間違っていますのでその辺は勘違いしちゃいけないよ。
超正統派のユダヤ教徒はイスラエルを国として認めていないか、建国が早すぎると言う話も多い。(神ではなく人の手による強引な建国であるなどの理由で)
ご存知の通り、ユダヤ教が問題になる理由としては他のアブラハムの宗教の誕生に立ち会っており、その開祖たちとの間に軋轢も起こしていた事がある。
イエスの処刑にはユダヤ教側の祭司たちが関わり、処刑の際に民衆が言った「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」はキリスト教における反ユダヤ主義の典拠とされた。
イスラム教開祖ムハンマドに敵対的なユダヤ部族もアラビアに存在していたが、少なくとも布教などの権利が制限された形ではあるが基本的に「啓典の民」として社会に存在する事は容認され、同じ社会のイスラム教徒やキリスト教徒と共同で学術などに取り組む事も多かった。が、上述のイスラエル建国において、パレスチナ人(その多くはイスラム教徒)に対して迫害側に転じた事でユダヤ人・ユダヤ教徒そのものを敵・脅威とする反ユダヤ主義がイスラム教世界にも広がることになる。
関連項目
アダム 最初の人間
イスラエル エデンの園を追放されたアダムとイブの子のノアの時代に起きた大洪水を生き延びた人々の国
旧約聖書〔モーセ五書(トーラー)〈旧約聖書最初の五つの書〉:創世記Genesis、出エジプト記Exodus、レビ記Leviticus、民数記Numbers、申命記Deuteronomy〕 十戒 イスラエル 死海