ゾロアスター教
ぞろあすたーきょう
古代ペルシア(現イラン)においてザラスシュトラによって伝えられた宗教。紀元前1500年から紀元前600年頃の間に成立し、現存する宗教の中では世界最古のものの一つである。
現代のイランではイスラム教が多数派となったが、今もインドの西海岸ボンベイなどを中心にパールシーと呼ばれるゾロアスター教の信者がいる。
善悪二元論を特徴とし、聖典『アヴェスター』によると、宇宙の歴史は善神アフラ・マズダと暗黒神アンラ・マンユとの闘争であるとされる。
葬儀の方法は、「鳥葬」といって、遺体を決められた場所に放置し、鳥に遺体を啄まさせるという方法を採用している。教徒の間では、この方法が人間が自然に還るための手段として最適だとされているが、近年は衛生面からこの方法は不適切ではないかとも疑問視されている。
イランの慣習や伝統的なお祭りの由来には、少なからずゾロアスター教の風習が関わっている。
イラン神話とは切っても切れないものであり、イランの大英雄ロスタムの宿敵イスファンディヤール王子はゾロアスター教拡大のために戦う。また、英雄アーラシュのルーツにもなっている。
イスラム教を受容する前のペルシア人本来の民族宗教とも言える宗教であり、アケメネス朝の大王ダレイオス1世はゾロアスター教を信仰していたとされる(ただし、ゾロアスター教より更に古い、ゾロアスター教の原型となった宗教だとも言われる)。
ペルシア人が次々とムスリム化していく中でも、その信仰は細々と守られ続けた。厳格なイスラム共和政を敷くイランの現体制下にあっても、少数派として残ったゾロアスター教徒の信仰は基本的に保護対象となっており、イラン議会にもゾロアスター教徒用の議席が確保されている。
ゾロアスター教による"発明"
先述の善悪二元の世界観を基礎として展開する教えの中でも注目すべき特徴が以下である。
といった、他のメジャーな宗教や神話、果ては現代のファンタジー創作設定にも見られるような概念「天国」「地獄」「救世主」「最後の審判」を体系的に整理した教義で表した最初の宗教とされる。これらの画期的な概念は同時代、あるいは先に成立していたとされるユダヤ教にも影響を与えた。
※「死後の世界」やそこでの生前の行いに対する審判という概念自体は、これより更に古いエジプト神話(紀元前3100年頃~)のオシリスやアヌビス、メソポタミア神話およびその前身となるシュメール神話(紀元前4000年頃?~)に登場するイナンナの冥界下りの伝説などで先に表現されていたが、特定の単発エピソードに留まるものや他の話の「設定」との矛盾が多くまとまりに欠けていた。そのため、教義(≒世界観設定)として一貫したものを経典に載せて表現したのはゾロアスター教が最も早いというのが定説である。
少なくとも2022年8月現在、日本においては、少なくとも公表・公開されているゾロアスター教寺院は存在しないようである。
愛媛が生んだ明治の奇人「キムタカ」こと木村鷹太郎により、英訳からの重訳であるが、全体を訳した『アヹスタ経』上下巻が発表され「世界聖典全集」シリーズに収められた(外部リンク参照)。
ただし、本人はペルシャ学、ゾロアスター教の専門家ではない。
研究者による原典からの翻訳も存在しており、岡田明憲の『ゾロアスター教 神々への賛歌』『ゾロアスター教の悪魔払い』(平河出版社)、伊藤義教の『原典訳 アヴェスター』(ちくま学芸文庫、当初「筑摩書房 世界古典文学全集 第3 ヴェーダ・アヴェスター」として刊行されたもののアヴェスター部分の書籍化)があるが、これらは抄訳である。
2020年9月、ついに研究者による原典からの全訳書、野田恵剛訳『原典完訳 アヴェスタ ゾロアスター教の聖典』(国書刊行会)が刊行され、SNS上において大きな注目を集めている。
なお、同訳者によるゾロアスター教文献『ブンダヒシュン』の翻訳はネット上で公開されている(参考)。
青木健著『ゾロアスター教(講談社メチエ)』の巻末にはパフラヴィー語文献『ゾロアスターの教訓の書』の全訳が収録されている。
アフラ・マズダー ズルワーン アムシャ・スプンタ ヤザタ ダエーワ
MAZDA … 日本の自動車メーカー。「マツダ」の名前自体は創業者の名前からだが、スペルはゾロアスター教の最高神「アフラ・マズダー」から来ている。
フリードリヒ・ニーチェ … 「ツァラトゥストラかく語りき」の著者。ツァラトゥストラは教祖・ザラスシュトラのペルシア語での呼称をドイツ語読みしたもの。
- ゾロアスター教(Wikipedia)
- 『アヹスタ經』上(世界聖典全集. 前輯 第8巻)下(世界聖典全集. 前輯 第9巻@国立国会図書館デジタルコレクション
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