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ヤズディ教

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やずでぃきょう

ヤズディ教(Yazidi)とは、イラク北部などでクルド人の一部が信仰している民族宗教である。

日本語ではヤジーディー、ヤズィーディー、ヤズィード派とも表記するが、原音でにはヤズディが最も近い。

概要

ゾロアスター教アブラハムの宗教の影響下で独自の発展を遂げた宗教。イスラム教の中ではスーフィー思想の影響を特に受けている。

マラク・ターウース(孔雀の天使)と呼ばれる独自の天使が特徴的。

クルド人のほとんどはイスラム教を信仰しており、クルド人の民族宗教でありながらクルド社会において少数派の宗教である。

ヤズディ教の信徒にとって、「ヤズディ」である事は、それ自体が民族的アイデンティティでもある。

日本人報道写真家・林典子氏に対してある信徒は「私たちはクルド人ではない。ヤズディは宗教であると同時に、独立した民族としてのアイデンティティをもっている」と話した。

特徴

太陽への礼拝など古代メソポタミア的要素を残すが、唯一の神を信仰する一神教である。

マラク・ターウースを筆頭とする七大天使の存在を信じており、マラク・ターウース以外のメンバーは、名前の語尾に「エル」がついている。

一人の神、アブラハムの宗教的な天使名、と異文化の影響を色濃く受けた宗教であるが、輪廻転生説やヒンドゥー教的なカースト制度を持つ。

またレタスを食べる事を禁じる戒律が存在する。

「ボクジック」という家の守り神のような存在も信じており、それを象徴するシンボルも家の中に掲げられる。

キリスト教やイスラム教は言うまでもなく、ユダヤ教やゾロアスター教も本来は布教を行なう宗教であり、メソポタミア神話の神も他地域で信仰されたりしているのだが、それらの影響を受けたヤズディは布教を行なわず外部からの改宗も受け付けない。

他宗教信徒との結婚も認められていない。

ヤズディ教徒のコミュニティはイラク以外の国々にもあり、その中にはオランダスウェーデンといった信教の自由が保障された国々もあるのだが、布教も改宗受付もしない事情からか情報発信が殆どなされていない。

個別の宗教施設などの公式サイトも存在しない。

ヤズディ教徒の人名は「ムスタファ」のようなムスリム的な名前、「ジョージ」のようなクリスチャン教徒的な名前双方が使われている。

イスラム教やキリスト教への改宗者の場合、出生時の(改宗前の)他宗教的な名前も引き続き持つ事になるが、ヤズディの場合、先述のように外部からの改宗を認めないため、もともとイスラム教的、キリスト教的な人名をどちらも子につける文化があるのだと考えられる。

異教徒からのヤズディ観

マラク・ターウースの神話に、『クルアーン』における、シャイターン悪魔)の頭目イブリースの描写と似た部分があることから、現地のイスラム教徒から悪魔崇拝者と認識されていた。

ただしヤズディ教義においてはマラク・ターウースは堕天使ではなく大天使である。

1919年に刊行された『Devil Worship The Sacred Books and Traditions of the Yezidiz』にはタイトル通りヤズディの聖典とされるテキストが収録されているが、20世紀に入ってから制作されたものと見られている。つまり、この本が出るちょっと前である。

こうした不確かで断片的なヤズディについての知識は西洋世界にも渡り、『我、埋葬にあたわず』『墓はいらない』『悪魔の花嫁』『魂を屠る者』といった作品が生まれた。

これらの古い作品においてマラク・ターウースは悪魔や邪神、ヤズディ教徒は邪教徒として描写されている。

『悪魔の花嫁』は日本語版の訳者が実在のヤズディ教徒への誤解を防ぐため、あえて表記をアレンジした。

ISILからの迫害

ISILシリアやイラクに侵入し、一定地域を支配し出すと現地のヤズディ教徒への迫害が始まった。

他のキリスト教徒同様、イスラム教への改宗を強要され拒めば殺害され、女性は性奴隷として売買されている。

参考資料

ミシェファ・レス、ヤズィーディーの黒の書』『キタブ・アル・ジルワ、啓示の書』:『Devil Worship』に収録されたテキストの日本語訳。

【連載・写真特集】イラクのヤズディ教徒たち(1)◆受け継がれてきたヤズディ教(ヤジディ教)の共同体:「アジアプレス・ネットワーク」サイト内のシリーズ記事。日本語で最もまとまったヤズディ教徒の現況報告。

林典子「イスラム国に「性的暴力」受け追われた少数民族「ヤズディ」の悲劇」

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