曖昧さ回避
- 原題は『旧約聖書』の第2章に当たる『出エジプト記』の英語名。
- 『OVERMANキングゲイナー』に登場する用語。本稿で解説。
- コンピューターRPG『ウルティマ』シリーズ第3作の副題、及び物語のカギを握る存在。
- 『太陽の牙ダグラム』の挿入歌『EXODUS(エキソダス)』。
- アメリカのスラッシュメタル・バンド。
OVERMANキングゲイナー
地球の自然回復を目的に建造された人類の限定生活圏である「ドームポリス」から脱出し、温暖な地域へと移住する行動の通称。
エクソダスの原題となる『旧約聖書』の『出エジプト記』では、「モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する物語」となっており、これに因んで題名の英語名となる『エクソダス(Exodus)』の名称で呼ばれる事になっている。
かつて地球が深刻なまでの環境悪化に陥った際、自分達の愚かさに気付いた人類は、環境の保全と回復を真剣に検討する様になった結果、砂漠や寒冷地といった過酷な環境下を限定に、人工居住区である「ドームポリス」を建設。あくまでも農業や畜産、漁業といった「食糧生産」の為だけに温暖な地域を利用していく事にし、人類の大半はドームポリスの中で生活していく事になっている。
しかし、永い時を経ていく中で自然環境が十分に回復したとされる中、ドームポリスでの生活は政府側の官僚主義的な効率的利益集約システム維持の為だけに利用され続ける事になっており、政府側からの一方的支配によってピープル達の抑圧感は高まっていった結果、やがてドームポリスでの支配体制から脱して外の世界へ旅立とうという機運が活発化。これがピープル達によるエクソダスへと繋がっていく事になった。
これに対し、支配層である政府側はエクソダスを最悪の場合は死刑にもなり得る「重犯罪」として扱い、また抑止や断念によってドームポリスへの帰郷を促す為の妨害工作へと乗り出す事になり、監視機構であるロンドンIMAやシベリア鉄道公社(通称「シベ鉄」)によるエクソダス推進派への容赦ない弾圧が行われる事になった。
エクソダスは推進派の間で「権力者からの支配に抗って自由を勝ち取る為の勇気ある挑戦」といった認識で強く賛美・美化され、また「エクソダス」と言う言葉自体が「現状を打破して前へと進む」といったポジティブな意味でつかわれる事も多い。
その為、ゲイン・ビジョウの様なエクソダスの計画・実行のアシスタントを行う「エクソダス請負人」と言う役職も存在する程である。
弊害
上記の内容からも、多くの人間がエクソダスを望んで実行する事になっているのだが、実際のエクソダスの実行はそんな甘い事ではなく、数多くの弊害が伴う事になる。
まず、温暖な地域へ向かうまでの道程はその環境下からも非常に過酷かつ困難で、ロクな準備もしないまま実行に移せば直ぐに食糧難等の問題に直面し、補給路が途絶する等に陥れば、エクソダスを断念して難民化してしまうか、最悪の場合はエクソダスを実行に移したピープル同士で食糧等を巡り殺し合いに発展するのも珍しくない。
また、仮にエクソダスを完全に達成させたとしても、その場の環境に適応出来てまともに生活出来るかも結局はエクソダスを実行した本人次第であるので、理想と程遠い現実から環境に適応出来無かった事で政府側へ帰順する道を選んでしまったり、あるいは裏世界に身を落として人として決して褒められない生き方をする事になる場合もあり(前者の場合、エクソダスを実行に移した以上、人権が守られる可能性は低い)、後者の選択を選んだ人間の中にはエクソダスの妨害・阻止の為の潜入・破壊工作を行う「逆エクソダス請負人」という専門稼業を行う者もいる。
何よりも、エクソダスは政府から基本的に「重罪行為」と認定されている物である為、エクソダスを実行すればロンドンIMAやシベ鉄からの容赦無い弾圧と追撃が行われ、捕まればその場で処刑されても文句は全く言えない物なので、常に命の危険が伴う物となっている。勿論、実行を移す前に計画を立てた段階でも重罪から免れる事は不可能である。
また、エクソダスを実行した者は、実行した本人だけでなく身内の人間や関わりの深かった者までもが、エクソダスの計画や実行をしていないにも拘わらず「連帯責任」に近い形で政府側からエクソダスの加担や黙認の容疑を掛けられてしまう事態になり、その者達に待っているのは決して穏やかな人生では無い。事実、ドームポリスのウルグスクで大規模なエクソダスが行われた際は、統括者であるメダイユ公爵が責任を取らされる形で公爵家を取り潰しにされており、かつて自分を捨てて家族にエクソダスされてしまったヤッサバ・ジンも、周囲から迫害の対象となり、まともに生きていくには政府への忠誠心を示すべくシベ鉄の一員になるしかなかった経緯を持っている。この為、「エクソダス」とは現実の犯罪と同様に自分の関係者に多大な迷惑や負担を掛けてしまう行為であるのも事実で、それ故にドームポリス内では身内にエクソダスをされてより生活苦になってしまった者達を中心に、エクソダスの反対運動を行う者も決して少なくない。
更には、劇中にて「ヤーパンの天井」では請負人のゲインによって都市ユニットごとによる大規模集団のエクソダスを実行に移しているのだが、都市ユニットの中にはエクソダスに関わりたくなかった反対派の人間達も大勢おり、彼等は五賢人を中心とする推進派の人間達によって「巻き添え」にされる形で無理矢理エクソダスを実行させられる事になっている。
当然、巻き添えを食った反対派の人間達は不満を抱いているのだが、巻き込まれた時点でシベ鉄からは「同罪」扱いされてしまっている事で結局はエクソダスを受け入れるしかなくなり、更にはメダイユ公爵の娘であるアナ・メダイユをも人質にして同行させている(本人は楽しんでいたが)為、無関係な人間を大量に巻き込んだゲインや五賢人を中心とするこのエクソダスは、もはや「犯罪」どころか「無差別テロ」に近いレベルとなっている。
また、ヤーパンの天井が関わった結果、同じドームポリスである「ガンガラン」が、シベ鉄のカシマル・バーレの作戦によって都市機能が破壊されてしまう事態となっている。実質難民となった彼等はヤーパンの天井に収納されているものの、当然自分達の生活が奪われる原因を作ったヤーパンの天井を激しく憎んでおり、カシマルのプラネッタを使った伝心作戦も重なって、ガンガランとヤーパンの天井のピープルによる暴動へと発展した結果、ヤーパンの天井側では、五賢人達が「目的はあくまでもヤーパンの天井によるエクソダスにある」のを理由に、請負人のゲインにガンガランのピープル達を始末させようと考える有様だった。
エクソダスの魅力に憑りつかれている推進派の人間達は、基本的にエクソダスに関して都合の良い部分しか見ていない傾向がある。
エクソダスが原因で不幸になった者も多い反対派側の人間の事も、「権力に飼いならされている臆病者」の様に見なし差別的感情を向け、自分達の身勝手なエクソダスが原因で政府側から関係性を疑われて肩身が狭くなったドームポリスに残っている人間達の事についても関心が非常に薄い。また、自分達の行動が原因で生活圏を奪われたガンガランのピープル達の事も、余計な食費の掛かる厄介者と見なす等、身勝手な認識をしていた。
推進派の中には、エクソダスを快く思っていない人間を邪魔者と見なすだけでなく殺害にまで踏み切ろうとするテロリスト同然の危険思想を持つ者もおり、主人公のゲイナー・サンガもエクソダス反対派の濡れ衣を着せられた上で両親を殺害されて天涯孤独の身となり、更にはその件が遠因で彼自身もエクソダスの冤罪を掛けられ、本当に実行せざるを得なくなる等、理不尽な経験をする事になっている。
後にゲイナーの両親を殺したのがガウリである事実が判明した後も、当の被害者であるゲイナーの居ない所でガウリやゲイン達の間だけで問題を「勝手」に解決されてしまう事になっており、両親を殺されその原因であるエクソダスに参加せざるを得なかったゲイナーの苦悩を理解していたサラ・コダマですら「エクソダス成就の為の必要な犠牲」として有耶無耶にしてしまい、その事へのゲイナーの不満が終盤での暴走に繋がる事態となっている。
聡明なアナが語っていた様に、本来最初に実行したミイヤの唱えたエクソダスというのは「自らが動き出そう」という「『自由』を重んじた主張」であり、決して「辛いなら逃げ出してしまえば良い」や「自分達が自由を得る為なら無関係な人間を巻き込んだり邪魔になるなら切り捨ててしまえば良い」といった「『身勝手』な主張」では無かったはずである。
しかし、永い時を経ていった結果、ミイヤの唱えたエクソダスの主張は人々によってそれぞれに都合の良い形で曲解される様になってしまい、結果的に現在のエクソダスは「自分達が自由になる為なら、他人の事などどうでも良い」というやり方になってしまっている。