メイン画像はエルサレム神殿の西壁の遺構である「嘆きの壁」である。
概要
アブラハムの宗教が信仰する唯一神そのものを祭る神殿であり、破壊されてなお一部分である嘆きの壁はユダヤ教において重要な聖地である。
建設と破壊
エルサレム神殿はこれまでの歴史で二度建設されているが、いずれも破壊されている。
ソロモン神殿
ダビデ王によって発案されるが彼の代では成らず、ソロモン王により完成される。
伝承によると、そこはかつてアブラハムが神が命じるまま息子イサクを捧げようとし、止められた岩があった場所である。
その岩とされるものは現存し、イスラム教ではムハンマドがそこから天馬ブーラークで駆け上がった場所とされる。
第二神殿
キュロス2世により、バビロン捕囚から開放されたユダヤ人の人々がソロモン神殿と同じ場所に再建。ダビデ王の子孫、ユダヤ総督のゼルバベルが指揮にあたった。
第二神殿復興には預言者ハガイ、イドの子ベレクヤの子ゼカリヤ(新約聖書に出てくるゼカリヤとは別人)、大祭司ヨシュアなどが主導となって神殿復興をしていくことになる。
ダレイオス1世の治世、サマリヤ人は神殿復興へ協力を願い出たが、ユダヤ人はこれを拒否。サマリヤ人は憤慨し、神殿復興を妨害するようになる。
ヘロデ王により増築され、この時の第二神殿は「ヘロデ神殿」とも呼ばれる。
ローマ帝国のウェスパシアヌス〜ティトゥス帝の時代に破壊された。
発端は属州総督による神殿の宝物の持ち出しであった。換金して都市の開発や整備に充てるためであったが、ユダヤ人たちが快く思うわけもなく、急進派が決起し、暴動は規模を増してしまう。
シリアからの援軍もユダヤ人達に倒されてしまったため、皇帝は本格的に鎮圧に乗り出す。
エルサレムは火を放たれた事で結果的に落城したものの、残党はマサダ等に逃れ篭城した。
ローマ軍は兵糧攻めという策を取り、外界との行き来を隔絶させられたユダヤ人達は餓死し、鎮圧された。
最後に残った者は奴隷にされるよりも、と集団自殺を選んだという。こうして一連の戦い「ユダヤ戦争」は終結する。
その後
ハドリアヌス帝の時代に廃墟と化したエルサレムは復興される事になったが、「アエリア・カピトリナ」に改名され、しかも神殿跡には異教の主神ユピテルの神殿が建てられることになった。
このことは当然ユダヤ人たちの怒りを買い、メシアを自称するバル・コクバに率いられた反乱を引き起こす事になる。
この反乱もまた鎮圧される。
キリスト教公認後、コンスタンティヌス1世帝が母の巡礼をきっかけに「エルサレム」に名前を戻したが、神殿が再建されることはなかった。
キリスト教において、旧約に定められた生贄などの儀式は役割を終えており、巨額の費用を割いてまで儀式を行う場である神殿を再建する理由は無かったのである。
かといってユダヤ人に神殿を建てる事を許すこともなく、それどころかエルサレムへの立ち入りも許されなかった。
立ち入りが可能になり、神殿再建の計画が出たのは皮肉にも多神教徒である皇帝ユリアヌスの意図によっててであった。
しかしこれも火事と、それに続くユリアヌスの死により立ち消えになってしまう。
岩のドーム
神殿の跡には、現在、イスラム教第三の聖地「岩のドーム」が建っている。ここにある岩はイスラム教開祖・預言者ムハンマドが天馬ブーラークに乗った際、ここから天上に駆け上がった場所とされている。
イスラム教の勢力がエルサレムを獲得した後、ウマイヤ朝の時代にここを覆うように岩のドームが建設された。
クルアーンとイスラム教伝承は、聖書とユダヤ教の伝承と内容が違っており、この岩はアブラハムがイサクを捧げようとした場所とはされない。
イスラム教ではアブラハム(イブラヒム)はメッカのカアバを建設しており、カアバは(日本語文献だと)「カアバ神殿」と書かれる事もあるが、カアバは「神殿」ではない。
イスラム教では地上にアッラー(アラー)が住まう神殿がある、またはあった、という認識をしない。
当然ながらエルサレム神殿もまた、アラーの神殿ではない。
第三神殿
西壁だけが残され、「嘆きの壁」と呼ばれるようになった後も、ここはユダヤ教の最重要聖地である。
前述の通り、ここは聖地であるだけでなく、トーラー(モーセ五書)に定められた儀式を行うために必要な場所でもあった。
ユダヤ教徒の中にはここを聖地として完全な姿にもどそうとする人々がいる。
第三神殿建築を目指すグループである。しかし神殿の敷地には今「岩のドーム」がある。
ではどうするか。破壊である。破壊して更地にし、そこに第三神殿を建てよう、というのである。
とはいうものの、ユダヤ教はかつて起こった神殿破壊を神罰と捉え、神殿がなくても機能する宗教へと変化を遂げており、この計画に賛成するユダヤ教徒はごく一部(俗に超正統派とよばれる人たち等)である。
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