概要
アラビア半島から北アフリカに至る地域に広く住むアラビア語を話し、アラビア文化を受容した人々。分布が広範囲にわたり、多数の部族に分かれているほか、それぞれの地域で話されるアラビア語の口語(アーンミーヤ)も多様である。また、ステレオタイプな外見として茶〜褐色の肌で描かれることが多いが、実際には地域によって欧州人とさほど変わらないような色白の人からかなり色黒の人まで存在する。
代表的なアラブ諸国としてはサウジアラビア、イラク、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)などが挙げられる。近代になって汎アラブ主義を掲げてアラブ人としてのアイデンティティを強め次々と植民地から独立、建国していった。総本山たるメッカを領有するサウジを筆頭にコーランの言語であるアラビア語を操ることもあって宗教はイスラム教が多いが、エジプト・シリア・レバノンを中心に相当数のキリスト教徒も存在する。しかし汎アラブ主義はイスラム教との結びつきが強いので、アラブ人キリスト教徒はやや独自性の強い立場をとることがある。宗派も欧米のキリスト教とは大きく異なる教義を持つマロン派という独自の宗派である。一応カトリックかプロテスタントかといえば、カトリック寄りであるらしい(歴史的経緯を考えれば当たり前だが)。
特にイスラム地域だと「父称」といい姓の概念がなく、父方の親や祖父の名前を乗せて名乗ることが多い(これはアラブ人に限った話ではなく、回教文化圏ではよくあるパタンである)。ただし、地域によっては姓の概念を有するところもある。
なお、中東〜西・中央アジアのイスラム教徒が多い地域の民族や国家イコール皆アラブというわけではないことに留意されたい。たとえばイランやアフガニスタン・タジキスタンではイラン系(ペルシャ系)、トルコやウズベキスタン・アゼルバイジャンなどではトルコ系(テュルク系)、パレスチナを除くイスラエルではユダヤ人が多数派・支配的な民族となっており、彼らは本来的にアラブとは全く異なる民族である。
逆に、現在一般にアラブとして数えられることは少ないがヨーロッパの一角でEU加盟国でもあるマルタの人々はラテン化したアラブ人が起源となっており、現に彼らの話すマルタ語はアラビア語から派生した言語である。
アラブ人国家・地域の例
西アジア
サウジアラビア アラブ首長国連邦(UAE) イエメン イラク オマーン カタール クウェート シリア バーレーン パレスチナ ヨルダン レバノン
ただし、サウジやUAE、オマーンのようなオイルマネーで潤っている国ではインドやパキスタンなどから来た外国籍労働者がかなりの数存在し、アラブ人が支配する国といえど実際上の人口の大半をアラブ人が占めているとは限らないケースが多々みられる。特にUAE、カタールでは自国籍のアラブ人よりも圧倒的に外国人の方が多い。
先に述べた通りイランやトルコはアラブ人国家ではないが、地理的な近さもありこれらの国にも少数民族としてアラブ系が分布している。
アフリカ
アルジェリア エジプト スーダン チュニジア 西サハラ モロッコ モーリタニア リビア
このほかにもアラブ連盟の加盟国としてはアラブ人を含んだ混血によって民族が成立したコモロや、ソマリ人が多数ながらアラビア語も広く使われるソマリア、同じく公用語のひとつにアラビア語を指定しているジブチがある。
古くからアラブ人は貿易網を発達させており、また19世紀前半から中頃にはオマーンがアフリカ東海岸を支配していたこともあって、オマーンのアフリカでの拠点だったザンジバル島(現タンザニア領)をはじめとしてアラブ人のコミュニティが残っている地域が他にもいくつかある。
その他
西アジア・北アフリカ以外にアラブ人を主流とする地域はないが、移民としては世界各地に存在しており、特にアメリカ合衆国・ブラジル・アルゼンチン・フランスに多く、これらの国では数百万人規模のアラブ系が暮らしていると推計されている。