概要
元々はアラビア語用の文字であり、イスラム教の広がりとともに中東を中心に使われるようになった文字。ヘブライ語で使うヘブライ文字や、ギリシア文字などの元になったフェニキア文字の親戚にあたる。後述の通り、アラビア語だけがこの文字を使っているわけではないため、アラビア文字を見かけても必ずしもアラビア語とは限らない。
アラビア文字は長母音などを除き原則として子音のみを表記するアブジャドと呼ばれるタイプの表音文字である。母音を表記しなくて読めるのかと思うかもしれないが、日本語でもktkr(キタコレ!)のように子音のアルファベットだけを並べたものが意味のあるスラングとしてちゃんと機能している通り、その言葉の意味するところを知っている者にとっては特に問題なく読み取れるものである。ただし、子供やアラビア語初学者向けの書籍や詠唱が重んじられてきたクルアーン(コーラン)等はシャクルという補助記号によって母音を表記する事がある。
また、クルド語やウイグル語のように一部の文字を母音用に転用する事で母音を表記できるようにした言語もあったりする。アラビア語に存在しない発音をそのような他言語で表記するための文字も作られている。
アラビア文字の最大の特徴は、常にラテン文字(ローマ字)の筆記体やひらがなの草書体のように続け書きが行われる(ブロック体や楷書体などに相当する書体が存在しない)点にある。そのため、しばしば文字の形を『みみずの這った跡のよう』と表現されたりする。
ひとつの文字に語頭形・語中形・語尾形・独立形の4種類の形がある。ただし多くの文字は4つの形が似通っている。前後に文字をつなぐことができるか否かによって4つのうちどれを使うかが決まる。後ろにつなぐことのできない文字が一部存在し、その文字は形が独立と語尾の2種類しかない。
言語例
現在
- アラビア語 (アフロ・アジア語族セム語派)
- ペルシア語 (インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派イラン語群)
- パシュトー語 (インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派イラン語群)
- クルド語 (インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派イラン語群) ※地域によってはラテン文字やキリル文字の方が優勢
- ウルドゥー語 (インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派インド語群)
- マレー語 (オーストロネシア語族マレー・ポリネシア語派) ※現在はラテン文字が多い
- ウイグル語 (テュルク語族カルルク語群)
- アゼルバイジャン語 (テュルク語族オグズ語群) ※旧ソ連のアゼルバイジャン共和国ではラテン文字表記が一般的だが、話者数の上ではアラビア文字使用者の方が多数
その他、タイやフィリピンなど東南アジアの一部イスラム少数民族の言語でも使用されている。
過去あるいは一時的、限定的な例
- トルコ語(オスマン語)、スワヒリ語:現在はラテン文字。
- スペイン語(モサラベ語):元々も現在もラテン文字だが、イスラム勢力が支配していた時代にはアラビア文字表記もされた。
- アルバニア語、ボスニア語:これらの言語は時代によって周辺の様々な有力言語の表記法を取り入れており、オスマン帝国時代にアラビア文字が用いられていた時期がある。現在ではいずれもラテン文字表記が一般的(ただしボスニア語ではキリル文字表記も併用されている)。
- 中国語:ふつう漢字だが、回族などムスリムの少数民族によりアラビア文字表記(小児経と呼ばれる)される例がある。
- ウズベク語、カザフ語、タジク語など旧ソ連中央アジアの多数の言語:ソ連時代にキリル文字に移行、一部はソ連崩壊後さらにラテン文字に移行。これらの言語でもイランや中国西域の領内に少数分布する当該民族の間では未だアラビア文字が使われている場合がある他、タジク語に関してはアラビア文字表記に戻そうという動きもある。