概要
言語をその起源に基づいて系統別に分類したグループの一つで、かつてはセム・ハム語族とも呼ばれていた(後述の通りハム語派の存在が否定された現在ではこの名称は用いられていない)。その名の通りアフリカ北部からアジア・アラビア半島周辺にこのグループに属する言語の話者が広がっているが、同時にこの言語の話されている地域ではエジプト文明やメソポタミア文明が成立しており、後代にはアブラハムの宗教も誕生している事から世界的にこの系統の言語の影響が及んでいる。
小分類
アフロ・アジア語族に属する言語は、更にその系統の近縁性から以下のような語派に細分化される。これらのグループ名の一部(セム語派、オモ語派、クシ語派およびかつての「ハム語派」)については、旧約聖書において話者である各民族の祖先とされる人物の名から取られている。
【セム語派】
アラビア語、ヘブライ語、アムハラ語、マルタ語、アッカド語、アラム語など
中東に起源を持つ言語のグループ。
アブラハムの宗教と呼ばれる言語の典礼言語であるヘブライ語(ユダヤ教)やアラビア語(イスラーム)などを含むため、世界の他の言語への影響力が強いグループでもある。とりわけアラビア語はイスラームの伝播に伴い言語圏を大きく拡げており、アフリカ北東部からペルシア湾岸に至る広大な範囲で用いられている(その分方言差も著しい)。
なお、漢字などの一部を除く世界の大半の文字体系の源流と言われるフェニキア文字はこのセム語派に属する古代言語のひとつフェニキア語の文字である。
以下の各語派(すなわちセム語派以外)はその特徴の類似性からかつては「ハム語派」として1つのグループに分類されていたが、現在ではこれらの類似性は収斂進化の結果による偶然の産物であると判明しており、言語学的に意味のないグループ分けであったとされている。
【クシ語派】
ソマリ語など
アフリカ北西部の「アフリカの角」と呼ばれる地域を中心に話される言語のグループ。
【オモ語派】
エチオピア南西部の少数言語からなるグループ。
【チャド語派】
ハウサ語など
アフリカ中央部のチャド・ナイジェリア・ニジェールなどで話される言語のグループ。
【ベルベル語派】
アフリカ北西部のマグリブ地方を中心に話される言語のグループ。総称してベルベル語とも。
言語名はギリシア語で「何を言っているのかわからない異民族」を意味する「バルバロイ」から。さすがにあまりにもあんまりな呼び名であることから、話者からはこの名前で呼ばれる事は好まれていない。
【エジプト語派】
エジプトに起源を持つ言語のグループ。総称してエジプト語とも。
かつてはヒエログリフとしてお馴染みの象形文字や、それを崩して書きやすくしたヒエラティック、デモティックなどの文字が用いられていたが、4世紀の東ローマ帝国時代以降用いられている「コプト語」と呼ばれる変種(語彙や文法などにおいてギリシア語の影響が強い)ではギリシア文字をベースとした「コプト文字」と呼ばれるアルファベットが用いられている。
現在でもエジプトのキリスト教徒の一部が典礼言語として用いており、わずか数十人程度ではあるが母語話者も残っている。