概要
本来違う系統で、すなわち違う形態だった生物であっても、生息する環境(生態的地位、ニッチ)が同じなら似たような形態と機能に進化することがしばしばあり、これを収斂進化と呼ぶ。
動物でよく見られる現象。例えば鳥類、コウモリや昆虫の羽は同じ羽ばたく飛行器官であるが、それぞれ異なる飛べない祖先から進化したものである。オーストラリアの有袋類と、それ以外の大陸の哺乳類(真獣類)は、サイズや生態、生活様式の違いからくる生態系全体に対応関係が生まれている。
全体的な外見だけでなく、類似した用途ゆえに収斂進化を経た部位が特徴的な場合もあり、たとえばセミクジラとフラミンゴの口、ヒゲクジラ類とプテロダウストロとストマトスクスの口、オドベノケトプスとセイウチとジュゴンの口、ラクダとヘラジカの口、ドエディクルスとアンキロサウルスの尻尾、亀とグリプトドンと鎧竜の甲羅など、ツチブタとアリクイの口と舌と爪、ティラコスミルスとマカイロドゥスの牙などの例がある。
植物では、ハスは同じ水生植物の睡蓮と形態がよく似ていることからかつてはスイレン科に入れられていたが、遺伝子分析の結果、ハスは双子葉植物の中でも進化した部類のヤマモガシ目ハス科に属し、原始的な双子葉植物(スイレン目)であるスイレンとは全く系統が違うことが明らかになった。実際のところ、蓮と睡蓮の外見はよく似ているが、巨大な穴の空いた「蓮根」を発達させる蓮に対して、睡蓮は発達した水中茎を持たないなど、内部構造が著しく違う。
擬態等との違い
異なった生物がよく似る例に擬態がある。これは、例えば蜜を持たないラン科の花が受粉できるよう蜜のある花に似た形に進化したり、毒がない生物が、捕食されにくいよう毒のある生物に似た見た目に進化したりといったものである。
また、クモとウミグモのように、異なった生物が特に似た環境や擬態関係があるわけではなく、単に姿が偶然似ただけの例もある。
これらの現象は「別系統の生物が、同じような形に進化する」ことが収斂進化に共通し、しばしば収斂進化と誤解される。しかし、これらはいずれも似た環境がもたらす形態かつ機能上の類似ではなく、収斂進化とは似て非なるものである。また、擬態は片方(擬態者)が元の生物(擬態モデル)に影響されて似たものである点も収斂進化とは異なる。
すなわち、サメ、魚竜、鯨類の関係で説明されることが多いため勘違いされがちだが重要なのは『別系統の種であるにもかかわらず姿形が極めて似ている』ことではなく、『ニッチとそれを占めるために取った手段が同一である』ことだと言える。
そのため、下記にあるように例えば鳥類、有翅昆虫、翼竜、コウモリなどは姿かたちが全く似ていなくとも収斂進化であるし、ケラ科とツツケラ科は同じ直翅目と感覚的にはそれほど大きく隔たりのある種ではないが収斂進化である一方、ニッチが共通でないクモとウミグモは見た目がよく似ている別系統の種だが収斂進化ではない。
収斂進化した生物の例
- 「有翅昆虫(節足動物、昆虫)」と「鳥類(脊椎動物、爬虫類の恐竜から進化)」と「翼竜(脊椎動物、恐竜とは別の爬虫類、古生物)」と「コウモリ(脊椎動物、哺乳類)」- 動力飛行用の羽を持つ動物。
- 「モグラ(脊椎動物、哺乳類)」と「ケラ(節足動物、昆虫、直翅目ケラ科)」と「ツツケラ(節足動物、昆虫、直翅目ツツケラ科)」- 土を掘る用の前脚が類似。
- 「サメ(軟骨魚類)」と「クジラ・イルカ(哺乳類)」と「魚竜(爬虫類、古生物)」- 似た姿の大型水棲脊椎動物。
- 「ハリネズミ(真無盲腸目、モグラ等が近い)」と「ハリモグラ(単孔目、カモノハシ等が近い)」と「ヤマアラシ(齧歯目、ネズミ等が近い)」- 背面がトゲで覆われる哺乳類。
- 「フクロモグラ(有袋類)」と「サバクキンモグラ(アフリカトガリネズミ目)」と「モグラ(真無盲腸目)」- 似た姿の地下性哺乳類。
- 「ウナギ・アナゴ等(魚類、ウナギ目)」と「タウナギ・トゲウナギ・トゲナシトゲウナギ」(魚類、タウナギ目)と「デンキウナギ」(魚類、デンキウナギ目、ウナギよりコイやナマズに近い)」と「アミメウナギ(魚類、ポリプテルス目)」と「ヤツメウナギ・ヌタウナギ等(無顎類)」と「ウミヘビ(爬虫類、蛇)」- 細長い体型の水生脊椎動物。
- 「カマキリ(=カマキリ目)」と「ミズカマキリ(半翅目、水生カメムシ)」と「ヒゲブトサシガメ・カモドキサシガメ(半翅目、サシガメ)」と「カマキリモドキ・トガマムシ(脈翅目)」と「カマバエ(双翅目、ハエ)」- 前脚が捕食用の鎌に特化した昆虫。
- 「カニ(=短尾類)」と「カニダマシ・タラバガニ等(異尾類、カニよりヤドカリに近い)」- カニ様の体型に特化した十脚目甲殻類。
- 「ダンゴムシ(節足動物、甲殻類、等脚目)」と「タマヤスデ(節足動物、多足類、ヤスデ)」と「マンマルコガネ(節足動物、昆虫、甲虫)」と「マルゴキブリ(節足動物、昆虫、ゴキブリ)」と「イレコダニ(節足動物、鋏角類、ダニ)」と「アルマジロ(脊椎動物、哺乳類)」- 背面の甲羅で全身を球状に丸める動物。
- 「アリ(膜翅目、ハチから進化)」と「シロアリ(ゴキブリ目、ゴキブリから進化)」- 主に地下で巣穴を作り、集団のほとんどが飛べない個体である真社会性昆虫。
- 「ハサミムシ(昆虫)」と「ハサミコムシ(内顎類、コムシ)」- 尾角がハサミ状の捕獲器となる六脚類節足動物。
- 「タカ(タカ目)」と「ハヤブサ(ハヤブサ目、タカよりスズメやオウムに近い)」- 似た姿の猛禽類。
- 「ペンギン(=ペンギン目)」と「オオウミガラス(チドリ目、チドリやカモメ等が近い、人為絶滅)」- 似た姿の飛べない海鳥。
- 「ティラコスミルス」(有袋類、古生物)と「サーベルタイガー」(食肉目・古生物)- 犬歯が著しく発達した肉食哺乳類。
- 「ハス(ヤマモガシ目、ヤマモガシやスズカケノキ等が近い)」と「睡蓮(スイレン目、ハゴロモモ等が近い)」と「アサザ・ガガブタ(キク目、キクやクサトベラ等が近い)- 似た姿の水生植物。
- 「ウツボカズラ(ナデシコ目、カーネーションやサボテン等が近い)」と「サラセニア(ツツジ目、ツツジやキウイ等が近い)」と「フクロユキノシタ(カタバミ目、カタバミ等が近い)」- 落とし穴式の食虫植物。
- 「カバ(単弓類、哺乳類、偶蹄目)」と「束柱目(単弓類、哺乳類、束柱目、古生物)」と「エステメノスクス(単弓類、獣弓類、ディノケファルス亜目、古生物)」- 見た目も似た半水生の単弓類。
- 「サイ(哺乳類)」と「角竜(爬虫類、古生物)」と「ディキノドン類(単弓類、獣弓類、古生物)」- 似た姿の角のある顔を持つ四足歩行草食動物。
- 「オオカミ(単弓類、哺乳類)」と「フクロオオカミ(単弓類、哺乳類、有袋類)」と「ゴルゴノプス類(単弓類、獣弓類、古生物)」- 似た姿の肉食単弓類。
生物以外のジャンル
生物に限らず、兵器やロボット・機械カテゴリーでも開発の過程で、違う祖先をもちながら、似たような兵器が登場することも、一種の収斂進化と呼べるかもしれない。
兵器やロボットは、使用用途から、設計が機能性や実用性を求めている。これらの能力を求めると、たとえ独立して開発していたものであっても、同じような形状にたどりつくわけだ。
ただしこれらは、同じ人間同士が開発するものであり、参考や盗用などによって発展したとも考えられる。
その場合「本来まったく異なるはずの種が、環境の適合という進化により獲得し、その獲得した特徴が似通っている」という収斂進化の概念とは完全に異なるものである。
二次元キャラクター特有のこういう現象は→外の人繋がりへ。
いわゆる全く違う作品なのに、見た目がそっくりになってしまった創作キャラの事。こちらも本来の概念とは異なる。