概要
甲虫(甲虫類、鞘翅類)とは、甲虫目(コウチュウ目、鞘翅目、学名:Coleoptera)に分類される昆虫のこと。英語は「beetle」(ビートル)。コガネムシやカブトムシ、クワガタムシ、テントウムシなど、数多くの種類が含まれる。
非常に種数が多く、多様である。2017年時点で分かっているだけで36万種(全昆虫の1/3以上、全動物の1/4以上!)も存在し、地球の全生物、植物や菌類やバクテリアまで含めたすべての中で最も種類が多いとまでされている。
昆虫の中では脈翅類(ヘビトンボ、ウスバカゲロウなど)とネジレバネが近縁。特に後者はかつて甲虫とも考えられた。
「甲虫」という名前は、昔では甲羅を持った動物全般を指して亀も含まれる。また、「甲虫」と書くと、カブトムシとも読める。
特徴
成虫は名前の通り全身が甲冑に覆われるような虫。本体のほとんどの外骨格だけでなく、名前(ギリシャ語 koleos 鞘 + pteron 羽 で Coleoptera 鞘翅類)の通り前翅まで鞘のように硬くなるのが特徴。甲虫のこのような前翅は鞘翅(しょうし)・エリトラ(elytra)といい、普段では左右密着しながら中胸から腹部末端までピッタリ覆い被さる。
そのため、多くの甲虫の背面は「頭・前胸・前翅」の3パーツだけ見えるようになる(ハネカクシなど前翅が短く腹部がはみ出す種類もいる)。飛翔用の後翅は、普段では前翅の下に折り畳まれる(退化して飛べない種類もいる)。この特徴から、甲虫の前翅と後翅はそれぞれ上翅・下翅とも呼ばれている。
似たような特徴はカメムシやマルウンカにも見られるが、両方とも針のような口から、カメムシは硬化が不完全(後半が半透明)な前翅から、マルウンカは目立たない前胸(目と前翅がほぼ隣接)から甲虫と区別できる。
全身が硬くて防御力が高いが、多くが前翅に覆われる腹部背面だけ柔らかい。ほとんどの種類は飛行の際に前翅を全開するため、腹部が鳥などの天敵に狙われやすい弱点となる。これが地面に落ちて腹部だけなくなった甲虫がしばしば見られる原因でもある(ハナムグリのようにこの弱点を克服し、前翅を開かなくても支障なく後翅を出して飛行する種類もいる)。
幼虫はワーム状だが、芋虫のような腹脚はなく、また蛆とは異なり胸部の脚を持つものも少なくない。コガネムシやクワガタムシなどの幼虫は、いわゆる地虫である。
蛹は昆虫として典型的で、白くて柔らかく、翅や脚などが露出して成虫の形がよく分かる。
無防備のため多くが繭や地下などに隠れている(テントウムシのように外で隠れもしない例外もいる)。
また、ゲンジボタルやゲンゴロウ、ミズスマシの様に水中に生息域を広げたものも居るが、何故か水中で蛹になる種類は確認されていない。これらはすべて陸上に上がり、地中で営巣してから蛹化する。
主な種類
甲虫は非常に多様で、内部は科レベルのグループでも百以上に多く分かれている。
ここではメジャーなグループのみ列挙する。
- 広義のコガネムシ
- クワガタムシ
- クワガタムシ科のこと。コガネムシと同じタイプの複眼と足元に加えて、L字状に折り曲げて先端が開閉できない櫛状の触角が特徴。多くのオスがハサミ状に発達した大顎を持つ。
- テントウムシ
- テントウムシ科のこと。全身は半球体で触角は棍棒状。前翅は赤や黒、黄の地色に斑点を持つものが多い。
- ハムシ
- ハムシ科のこと。テントウムシやコガネムシと似ているが、触角は真っ直ぐで長い。種類により体が笠状に広がり棘が生えたりする。また、おかしな名前の種がいることでも有名である。
- カミキリムシ
- カミキリムシ科のこと。長大な触角と腎臓型の複眼が特徴。
- ゾウムシ
- タマムシ
- コメツキムシ
- コメツキムシ科のこと。体型はタマムシと似ているが、前胸がより縦長い。頭と前胸を地面に叩いて跳ねる能力を持つ。
- ホタル
- ホタル科のこと。縦長い体が黒くて前胸だけ赤いものが多い。腹部の末端腹面に発光器官を持つ。
- ゲンゴロウ
- ガムシ
- ガムシ科のこと。ゲンゴロウと似た水生昆虫であるが、よりシャープな体型で全身が黒い。
- ミズスマシ
- ミズスマシ科のこと。水面に住む水生昆虫。長い前脚と比べて中・後脚が異様に短い。複眼が上下に分かれ、それぞれ水上と水中に向く四つ目になっている。
- ゴミムシ・オサムシ・ハンミョウなど
- オサムシ科のこと。多くは触角と顎が目立ち、脚が細長く、前胸と中胸の間がくびれるスマートな体型。腹部末端から防御物質を出す能力を持つ。
- ツチハンミョウ
- ツチハンミョウ科のこと。名前に反してハンミョウではない。頭部と前胸の間がくびれ、大きな腹部が前翅からはみ出した種類が多い。触れると水膨れを引き起こす防御物質を持つ。
- ハネカクシ
- ハネカクシ科(シデムシなどを除く)のこと。前翅が異様に短く、細かく折りたたんだ後翅をそこに隠している。
- シデムシ
- シデムシ科(もしくはハネカクシ科のうちシデムシ亜科)のこと。腹部末端がはみ出して、前胸もしくは前翅に黄色い模様を持つものが多い。脊椎動物の死体に集まって餌とする。
- カツオブシムシ
- ゴミムシダマシ
- ゴミムシダマシ科のこと。ゴミムシに似た種は少なく、テントウムシやハムシなどの他の甲虫類と外観が似かよる種が多くいる。幼虫はミルワームと呼ばれ、飼育動物の生き餌として用いられる。
- シバンムシ
- シバンムシ科のこと。主に赤褐色の粒状をした種が多い。乾燥植物質のものを好み、畳や壁紙、乾麺、ペットフードなどを食害する害虫である。
余談
世界の大型甲虫は神話(主にギリシャ神話)の英雄や神が学名の由来になったものが多く、主に真性カブトムシ族のカブトムシに使われる。また、一部の種は歴史に関連した小種名が付けられる。
- ヘラクレスオオカブト/アルキデスヒラタクワガタ:ギリシャ神話の英雄ヘラクレスとその幼名から。
- ネプチューンオオカブト:ローマ神話の海神ネプチューンに由来。
- サタンオオカブト:ローマ神話の農耕の神サターンまたは旧約聖書における悪魔王のサタンから。
- ヒルスシロカブト:ギリシャ神話の英雄ヘラクレスの息子『ヒルス』から。
- マヤシロカブト:生息地で繁栄したマヤ文明に由来。
- グラントシロカブト:アメリカの大統領ユリシーズ・S・グラントに由来。
- ティティウスシロカブト/ティティウスヒラタクワガタ:ギリシャ神話の最高神ゼウスの息子『ティテュオス』から。
- コーカサスオオカブト:別名のキロンオオカブトがギリシャ神話の賢者ケイローンに由来。
- アトラスオオカブト:ギリシャ神話の天を支える巨人(巨神)アトラスから。
- アクティオンゾウカブト:ギリシャ神話における自分の猟犬に食べられた狩人アクタイオンから。
- マルスゾウカブト:ローマ神話の軍神マルスから。
- ヤヌスゾウカブト:ローマ神話の双面の神ヤヌスから。
- アヌビスゾウカブト:エジプト神話の狗面人身の冥府神アヌビスから。
- ギアスゾウカブト:ギリシャ神話の巨人『ギアス』から。
- テルシテスヒメゾウカブト:ギリシャ神話のトロイア戦争に登場した官兵『テルシテス』から。
- ケンタウルスオオカブト/ケンタウルスミツノカブト:ギリシャ神話の半人半馬の怪物ケンタウロスから。
- ギガスサイカブト:ギリシャ神話の巨人ギガースから。
- パンカブト:ギリシャ神話の半獣の神パンが由来。
- アンタエウスオオクワガタ/アンタエウスミツノカブト:ギリシャ神話における英雄ヘラクレスに退治された巨人アンタイオスに由来。
- ダイオウヒラタクワガタ:古代マケドニアの王アレクサンダー大王に由来。
- ヒペリオンヒラタクワガタ:ギリシャ神話の光明神ヒュペリオンに由来。
- プロメテウスミヤマクワガタ:ギリシャ神話における人間に火を与えた神プロメテウスに由来。
- ゴライアスオオツノハナムグリ:旧約聖書に登場するダビデに倒された巨人ゴリアテから。
- ポリフェムスオオツノカナブン:ギリシャ神話の海神ポセイドンの息子『ポリュペモス』から。
- タイタンオオウスバカミキリ/ヒラタクワガタ:ギリシャ神話の巨神族の総称ティターンから。ヒラタクワガタについては学名のDorcus titanusに使われている。
- オオエンマハンミョウ:仏教における死者の裁判官閻魔に由来。
フィクション・創作関連
甲虫を主題にした作品
関連タグ
甲虫名タグ
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