虫
むしまたはちゅう
「虫」と「昆虫」はしばしば同じ意味の言葉と誤解されるが、「昆虫」(英語:insect)とは専ら昆虫綱に分類される節足動物を指す分類名であり、広義に後述の「虫」(bug)全般を指す言葉ではない。
昆虫を多くは指し、ほかにもダンゴムシ、ムカデ、ヤスデ、ミミズ、カタツムリ(デンデンムシ)、タニシなども虫として扱われているが、人によって認識は異なる。
一昔前では「人・獣・鳥・魚・貝以外の動物」とされ、すなわち爬虫類や両生類も「虫」に含んでいたが、現代では爬虫類・両生類を含めて脊椎動物全般を「虫」と呼ばないのが一般的である。
しかし現代における「虫」の定義は曖昧であり、「虫」と呼ばれる生物に特有かつ全般的に当てはまる共通点は存在しない。ただ、概ね次の傾向が見られる。
1. 海より陸を中心に栄えた、脊椎動物以外の動物(いわゆる無脊椎動物)が多く該当する
これには節足動物が多く、特に陸上と淡水で栄えた昆虫は言うまでもなく「虫」として代表的なグループである(海棲はウミアメンボなど僅かしかない)。昆虫と同じ六脚類の内顎類(トビムシなど)や、限定的に陸棲の多足類(ムカデやヤスデなど)も昆虫と同様全て「虫」と呼ぶ。
ただし他の節足動物になると、種類や生息環境により呼び分けられる。甲殻類では陸棲のワラジムシやダンゴムシなどは「虫」と呼ばれるが、海棲のものが多いエビやカニは淡水棲や陸棲でも「虫」とは呼ばない。鋏角類では昆虫と同じ陸上に栄えたクモガタ類(クモやサソリ、ダニなど)はもちろん、海棲のウミグモも見た目がクモと似るためか「虫」(ユメムシ)と呼ばれるが、海棲のカブトガニは生息環境とかつてカニのような甲殻類と誤解された経緯もあって、「虫」と呼ばない。
節足動物以外で「虫」と呼ばれる陸棲無脊椎動物では、カギムシや陸棲の蠕虫(後述)、陸棲巻貝であるカタツムリやナメクジなどが挙げられる。
古生物のみ知られる無脊椎動物のグループも、ハルキゲニアなどの葉足動物や、三葉虫などの化石節足動物を始めとして「虫」と呼ばれるものが多い(日本語名は学名のカタカナ転写が一般的だが、中国語名は「○○虫」となりがちである)。ただし前述した例とは異なり、これらは基本的に海洋生物であったと推測される。
2. 体が前後に長く、肢が目立たない無脊椎動物が多く該当する
いわゆる「蠕虫」(ワーム)。これには環形動物(ミミズやゴカイなど)、扁形動物(ヒラムシやプラナリアなど)、ヒモムシ、線虫、ハリガネムシなど数多くのグループが該当する。
前述した節足動物でも、芋虫や蛆のように脚が退化的な種類であればこれに含まれる。
全般的に「虫」と呼ばない二枚貝だが、貝殻が退化し軟体部が蠕虫状に進化したフナクイムシが存在する。
なお、前述した条件を満たしているものの、ヒトデやウニと同じ棘皮動物のナマコは「虫」と呼ばない。
3. 寄生性の動物が多く該当する
いわゆる「寄生虫」。前述したハリガネムシから甲殻類のシタムシまで、様々なグループ由来の動物が含まれる。
ただし水棲貝類やカニなど全般的に「虫」と呼ばないグループの場合、寄生性だとしても見た目は同グループの仲間と大して変わらなければ、「寄生虫」より「寄生○○」と呼ぶようになる(「寄生貝」のハナゴウナ、「寄生蟹」のピンノなど)。
動物はクマムシが有名。他にもワムシやコケムシ、ホウキムシ、甲殻類の貝虫などが挙げられる。
一般に「虫」とは呼ばないサンゴやイソギンチャク、クラゲなどが属する刺胞動物だが、ヒドロ虫(ヒドラなど)という微小な種類があり、サンゴを構成する小さなユニットを「珊瑚虫」と呼んだりする。
動物ですらない単細胞の微生物だが、繊毛虫(ゾウリムシやラッパムシなど)・鞭毛虫(ミドリムシや夜光虫など)・肉質虫(アメーバ)・有孔虫(ホシズナなど)のように、原生生物(動物・植物・菌類以外の真核生物)であれば「虫」と呼ばれるものが多い。
細菌などの原核生物は「虫」と呼ばないが、スーパー耐性菌(従来の薬剤では死滅しない強力な細菌のこと)は英語では「superbug」(スーパーバグ、"超級虫")と呼ぶ。
漢字の「虫」の字は本来、単に動物を指す文字であった(蟲のモデルは蜷局を巻いた蛇)。哺乳類は「毛虫」(もうちゅう)、鳥類は「羽虫」(うちゅう)、魚類や爬虫類は「鱗虫」(りんちゅう)、カメや甲殻類などの節足動物は「甲虫」(こうちゅう)、そしてヒトは「裸虫」(らちゅう)と呼ばれていた。
哺乳類である蝙蝠、貝である蜊と蛤も虫偏である(貝類に貝偏が付かないのは、貝が本来お金に関する漢字であることによる)。蛸、蛙、蝦、蟹も虫として扱われ、蛇も「長虫」といわれている。そのため、蛇や竜によく似た「虹」にも虫偏がついている。
虫と呼ばれる動物たちは地球上のあらゆる生態系に多数が棲息するため、人類も必然的に彼らとは密接な関係にある。過去には虫を食用にする(昆虫食)文化が広く存在し、またノミなどの寄生虫は人類にとって身近なものであった。
古来の日本人はセミやスズムシの声、空を行き交うトンボに四季の移り変わりを感じ、戦前の日本では蚕を育てて絹を生産する「養蚕」が盛んであった。
ところが、現代のコンクリートやアスファルトで覆われた大都市では小動物が激減しており、季語となっている「虫の声」も聞かれなくなった。「夏の風物詩」であったセミの声もなじみがなく、「うるさい」として嫌う人が増えている有様である。日常生活で目にする虫はハエ、ゴキブリ、蚊、ダニなどの「衛生害虫」「不快害虫」に限られがちになっている。そういった虫は発見するやいなや殺されてしまう事が多い。それでも種多様性が高く比較的見栄えのする蝶や甲虫などを中心に、野山での昆虫採集などを愛好する人々もいる。
一方で、農業の世界では、現代に至るまで人類と虫たちとの密接な共生関係が続いている。まずあげられるのは、蜂や蝶などの受粉昆虫との関わりで、蜂蜜を生産するミツバチを家畜として飼育する「養蜂」という営みもある。
またミミズや線虫の多く棲息する土は、良質な作物を育む。もちろん葉や植物の汁を食べてしまう芋虫やアブラムシなどの害虫もいるが、こういった害虫を食べてくれるトンボやカマキリなどは「益虫」として農家にありがたがられる。
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※虫の形をした"憑き物"で、厳密には異なる。
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