概要
知られる中で最古の化石は4億年以上の古生代まで遡り、1億年以上前の中生代から現生種そっくりなものも知られ、「生きた化石」として代表的な生物である。別名「剣尾類」(けんびるい)。
現存するカブトガニは、カブトガニ(種)、ミナミカブトガニ、マルオカブトガニ、アメリカカブトガニの4種のみ。古生物は80種ほど知られている。
種としてのカブトガニは日本沿岸にも生息しており、4種類でも最大級の大きさに成長し80cm前後までになる。
高度経済成長期による干潟の開発などで個体数が減り、現在絶滅危惧種となっている。
名前
漢字では、『鱟(學-子+魚、音読みは「ごう」)』、もしくは『甲蟹』、あるいは『兜蟹』と表記する。
英語名は「horseshoe crab」(ホースシュークラブ)で、直訳すると「蹄鉄蟹」である。「king crab」(王蟹)とも呼ばれるが、これはどちらかというとタラバガニを指す方が一般的。
分類
節足動物ではあるが、名前に反してカニどころか甲殻類ですらない。
カブトガニは甲殻類とは別の鋏角類に属しており、この類にはクモやサソリ等も属する。「カニよりクモやサソリに近い」というよくある紹介文はそういうこと。
触角と顎は無く、6対の肢を頭に持ち、そのうち第1対は鋏角であるという鋏角類としての証が見られる。
太古に絶滅したウミサソリとは基本構造が似通った近縁で、同じ節口類(腿口類)に分類され。なお、この類はかつて甲殻類と誤解され、鋏角類だと判明したのは20世紀以降である。
また大きさと生態は大きく異なるものの、名前が似ているかつ同じく生きた化石として知られるカブトエビという甲殻類と混同される事もある。
形態
化石は数cmしかない小型種がほとんどであるが、現存のカブトガニ類はいずれも数十cmほどの大型節足動物である。
体は前体と後体に分かれ(「頭胸部と腹部」ともいうが、実際は「頭部と胴部」に相当)、前体はドーム状の甲羅で、後体は原則として前体よりやや小さい。脚などの肢は全てが体の下で覆われて目立たない。
前体の背面には1対の複眼を左右に、1対か3つの単眼を中央に持つ。腹面は1対の短い鋏角と5対の丈夫な脚を持ち、ほとんどの爪先がハサミである。口は脚の真ん中に開く。
後体の背面は現生種では1枚の甲羅であるが、原始的な化石種では体節に分かれている。腹面は鰭のような肢が並んで、呼吸用の書鰓を付属している。
お尻には本群の特徴でもある細剣のような硬い尾が伸びて、学名「Xiphosura」や「剣尾類」という名はこれに由来する(Xiphos: 剣 + uros: 尾)。
現生種はいずれも外見はよく似て、細部の違いしかいないが、化石種まで範囲を広げると甲羅がブーメランのようなものや全身を球状に丸めるものまで知られ、飛び抜けて多様である。
透明な血液は酸素結合物質が銅のため、空気に接触すると青色に変わる。
生態
現生種は全て海洋生物で、干潟などの遠浅の穏やかな海に生息している。
肉食寄りの雑食性で、主な餌は二枚貝やゴカイなど泥に生息する小型海洋生物。
顎はないが、脚の付け根の棘を顎のように嚙み合わせ、食物を握りつぶしては中央の口へ運ぶ。
普段は海底を這い回るが、肢をひらひらさせて背泳ぎすることも可能。干潟にいる時は幅広い甲羅と花弁のような形の後脚を利して、泥に詰まずに前進する。
雄の前脚はフック状で、繁殖の頃にそれを使って雌の体にくっつける。
普段は水中で活動しているが、繁殖期が訪れると干潟や海岸に登って体外受精と産卵を行う。
化石種には海だけでなく、淡水に生息したと思われる種類も多く知られている。
分布
日本国内での現在の主な生息地は、瀬戸内海の本州沿岸の一部と九州の一部で生息が確認されている。
海外では北アメリカにアメリカカブトガニ、東南アジアにマルオカブトガニとミナミカブトガニが生息する。
人間との関わり
人間を攻撃するような生物ではなく、脚の爪や体の棘などの取り扱いに気を付ければ全く安全無害である。
日本での扱い
日本では生息地の開発によってその個体数を激減させており、環境省のレッドリストの中で絶滅危惧種に指定されている。
またその生態が生物の進化の謎の一端を解明する事に繋がるとして、一部の繁殖地は天然記念物にも指定されている。
ちなみに保護される前までは、個体数が多かった事と可食部分が少なく美味でなかった事から肥料の原料として畑に撒かれていたり、釣りや家畜の餌としてぞんざいな扱いをされていたようである
現在では絶滅危惧種になっている希少な生き物であり、文化財保護法や県条例により捕獲が禁じられている地域もあるため、本種を見かけても温かく見守って頂きたい。
また水族館でも飼育されているが、日本にもいる本種よりも寧ろ、大抵は上記の北アメリカに生息するアメリカカブトガニの方が数多く飼育されている。
笠岡市には「カブトガニ博物館」という世界唯一カブトガニをテーマにした博物館があり、施設自体の造形までカブトガニの形を模している。
現代での利用
近年その血液に細菌試験の突出した効能を示す酵素が発見され、医療機器の細菌汚染を確認する「LAL試験」で重宝されており、現代医療にとってカブトガニの血中の酵素は不可欠な存在になりつつある。
主にアメリカ東海岸で生産され、当局の許可の下で年間25万匹以上のカブトガニが捕獲される。
捕獲されたカブトガニから30%の血液を採取し、ある程度の療養をさせたのち海に還される。
しかしそれでも一定数が放流直後に死亡しているとされており、現在カブトガニへの負荷を減らすために人工的な高性能LAL試験薬の研究開発が進められている。
また福建省の一部などの中国南部から東南アジアにかけての地域では、カブトガニ類の卵と身の一部を食用として食べる習慣があり、屋台の飲食店で丸ごと網焼きなどにされている光景に出くわす事もある。
しかし、東南アジアのマルオカブトガニは季節によって毒を持つ事から要注意とされるている。
日本では希少な生物であり、多くの生息地が文化財保護法や都道府県条例により捕獲が禁じられている事もあり食用としての利用は難しく、推奨もされない。
主な種類
現存種
- カブトガニ(種)
- 尻尾の付け根に3本の棘を持つ(他の現生種は1本)。オスの前体正面に1対のくぼみがある。
- アメリカカブトガニ
- 他の現生種と比べてやや面長、尻尾は体より短い。
- マルオカブトガニ
- 尻尾は円柱状(他の現生種は三角錐状)で体より長い。
- ミナミカブトガニ
- カブトガニ(種)の近縁。前述した特徴を持たない。
化石種
- オルドビス紀
- ルナタスピス
- 前体は三日月型、後体は部分的に分節している。
- ルナタスピス
- シルル紀
- リムロイデス
- 前体は歯車のように棘が並ぶ。
- リムロイデス
- デボン紀
- ウェインベルギナ
- 分節した後体に3列のこぶが並ぶ。
- ウェインベルギナ
- 石炭紀
- ユウプループス
- 縁の棘が発達している。
- ユウプループス
- 三畳紀
- オーストロリムルス
- 前体はブーメランのような形をしている。
- オーストロリムルス
- ジュラ紀~白亜紀
- メソリムルス
- 現生種そっくりな姿をしている。
- メソリムルス
その他
引っ繰り返ると起き上がれなくなる……
……というようなことはないが、多少は苦労する。
ゲームソフトあつまれどうぶつの森でもネタにしており、捕獲した本種に触ると動画のような動きを見せてくれる。
関連項目
さかなクン:中学生時代、地元の漁協から網にかかった個体が何匹か学校の理科室に寄贈され、その世話をしている最中に偶然にも人工孵化を成功させる。
創作・フィクション関連
アンシェントドーザー(ダライアス外伝)
バトルレイダー、インベイディングホースシュークラブ(仮面ライダーゼロワン)
クロノフォス・ザ・トリデンロイド(ロックマンゼクスアドベント)
カブトガニ(マジック・ザ・ギャザリング)