概要
節足動物門に分類される動物のこと。昆虫や甲殻類、ムカデやヤスデなどの多足類、クモやサソリなどの鋏角類が含まれる。
総じて「虫」と呼ばれるものが多い。
地球上のすべての動物の中で最も多くの種類が含まれる動物門であり、動物界の8割以上を占める110万種ほど知られている。それに加えて陸上・地中・海水・淡水の別を問わず、地球のあらゆる生物圏(バイオスフィア)に進出しており、端的に言うと地球上のほとんどの動物は節足動物である。節足動物の多様性は動物のみならず全生物の中でも突出しており、昆虫だけでも植物・真菌・節足動物以外の動物全種を足した数よりも多い。
多くの動物門と同様、知られる最古の記録は約5億年前の古生代カンブリア紀まで遡るが、その時代の化石においても、節足動物は個体数・種数とも既に動物界最多に誇る。また、シルル紀に登場した初の陸生動物(多足類)と、石炭紀に最初に飛翔能力を獲得した動物(昆虫)はいずれも知られる限り節足動物である。
特徴
体はキチン質の外骨格に覆われて体節に分かれるのが原型で、そこから頭部や胸部、腹部などのユニットを組み立てる。目は頭部に複眼と単眼の両方、もしくは片方のみを持つ。
名前(ギリシャ語の arthron 関節 + pous 脚で 学名:Arthropoda)の通り、関節に分かれた肢を持つのが特徴。これは移動用の脚だけでなく、種類や部位により感覚用の触角・摂食用の顎・呼吸用の鰓・攻防用の武器・繁殖用の生殖器などにも特化して可塑性が非常に高く、節足動物が前述した多様性を成し遂げた秘訣の1つとも言える。
成長に連れて脱皮をし、その度に古い外骨格が更新される。
かつては「痛覚は存在しない」とも考えられたが、少なくとも昆虫と甲殻類が痛覚を持つことを2010年代からの研究で判明した。
ほとんどの節足動物は体重1gにも満たない小型種だが、種によっては個体数が膨大なので物質循環に与える影響は大きい。ナンキョクオキアミは1個体の体重はせいぜい2g程度だが、およそ5億トンのバイオマス(単一種としては最大)を有し、南極圏の動物のほとんどはこれを餌にしている。
現生の個体のサイズでは深海にすむタカアシガニは脚を広げると4m以上、ロブスターは体重20kgに及ぶものがある。陸生のものではヤシガニが4kgを超える。南極大陸にすむ唯一の昆虫ナンキョクユスリカは体長2-6mmと昆虫としてはありふれたサイズだが、実は南極大陸最大の動物である(ペンギンやアザラシは純粋な陸上動物ではない)。古生物まで範囲を広げると、2m以上の巨体を持つウミサソリやアースロプレウラも知られている。
分類
動物界の中ではカギムシ(有爪動物)とクマムシ(緩歩動物)に近縁で、これらと同様に葉足動物から派生したグループと思われる。節足動物・有爪動物・緩歩動物・葉足動物という4グループは、まとめて「汎節足動物」という更なる大グループを構成する。
これらの動物は、かつて似たような体節構造を持つ環形動物(ミミズ・ヒル・ゴカイなど)に近縁と思われたが、21世紀以降では別系統だと判明した(環形動物はむしろ軟体動物などに近い。詳細は前口動物を参照のこと)。
節足動物は概ね次のグループに分かれている。4つの亜門が現存するほか、これらに属さない古生物のグループも多く知られている。
鋏角類(鋏角亜門)
体の区分は前体・後体の2部。鋏角を有し、顎と触角はない。4-5対の脚を前体に持つ。
多足類(多足亜門)
体の区分は頭部・胴部の2部。顎と1対の触角を有し、数多く(十数から千本以上)の脚を胴部に持つ。
甲殻類(甲殻亜門)
体の区分と脚の数は系統により様々。顎と2対の触角を有する。
- 軟甲類:カニ・エビなど、フナムシ・ダンゴムシなど、ヨコエビ・ワレカラなど、オキアミ、シャコ、他多数
- 鰓脚類:ミジンコ、カブトエビ、ホウネンエビ、アルテミアなど
- その他:貝虫、ウオジラミ、フジツボ、カイアシ類、ムカデエビなど
六脚類(六脚亜門)
体の区分は頭部・胸部・腹部の3部。顎と1対の触角を有し、3対の脚を胸部に持つ。
現存亜門に属さない古生物
- 恐蟹類(カンブリア紀~デボン紀)
- イソキシス類(カンブリア紀~オルドビス紀)
- フーシャンフイア類(カンブリア紀)
- メガケイラ類(カンブリア紀)
- アーティオポダ類(カンブリア紀~ペルム紀)
- マルレロモルフ類(カンブリア紀~デボン紀)
- ハイメノカリナ類(カンブリア紀)
- ユーシカルシノイド類(カンブリア紀~三畳紀)※多足類説あり
- 嚢頭類(オルドビス紀~白亜紀)※甲殻類説あり
系統樹
現生群のみ:
節足動物
┗┳━鋏角類
┃ ┗┳━ウミグモ
大顎類
┗┳━多足類
┃ ┗┳━ムカデ
┗┳━甲殻類:カシラエビ
┗┳━甲殻類:鰓脚類
┗┳━甲殻類:ムカデエビ
┗━六脚類:内顎類、昆虫
古生物メイン:
節足動物
真節足動物
┗┳━イソキシス類
┗┳━鋏角類
┃?━メガケイラ類
┃?━フーシャンフイア類
┃?━アーティオポダ類
┃?━マルレロモルフ類
大顎類
┗┳━ハイメノカリナ類
┃?━ユーシカルシノイド類
┣━多足類
┃?━嚢頭類
汎甲殻類
┗━甲殻類、六脚類