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概要編集

アースロプレウラ(学名Arthropleura)とは、古生代石炭紀前期からペルム紀前期(3億3,500万から2億9,010万年前)にかけて生息したヤスデの種類(属)の一つ。和名は「コダイオオヤスデ」。


8種が認められ、そのうち Arthropleura armata(アースロプレウラ・アーマタ)が代表的で最も有名(ただし一部に関しては同種の個体差に過ぎない可能性もある)。


ウミサソリメガネウラと並んで巨大節足動物として有名な古生物であり、北アメリカヨーロッパ外骨格足跡化石が発見されるが、ほとんどが断片的で、特に頭部は2024年の発見までほぼ不明であった。



形態編集

ほぼ完全な化石は数cmの幼体しか知られていないが、その比率で足跡や成体の部分的な化石を換算すると、人間の高さを超えて、果ては2.5mに達すると推測されるものもいる。特に後者は2021年末に公表されたイギリス産の化石で、体長・体重(推定50kg)とも史上最大の節足動物として知られている(それ以前はウミサソリのイェーケロプテルスが最大だった)。


最大の特徴は、長い胴部の背面を負いかぶさり、横で3パーツに分かれ、表面に大小のコブが生えた30節ほどの甲羅(背板)。知られる化石もほとんどがこの甲羅由来の断片である。


他のヤスデと同様、ほぼ全ての体節ごとに2対のを腹面に持つ。脚は現在のヤスデよりも丈夫で節が多く、裏にはたくさんの棘が生えている。脚の間の外骨格はのように畳んで並んでいる。呼吸器がこの辺りにあると考えられるが、詳細は未だによく分かっていない。


頭部は長い間不明で、2000~2010年代では近縁種を元に左右にラッパ状の突起が生えていると推測された。2024に記載された幼体の化石で遂に頭部が発見され、前述したラッパ状突起は眼柄に突き出した眼であること、今のヤスデと同様7節の触角を持つこと、ややムカデに似た顎(前脚由来の毒牙ではなく、頭部由来の目立たない内蔵式大顎と短いヒゲのような小顎)を持つこと、そして頭部直後の体節(頸板)に脚を持つことが判明した。特に最後の2点は、ヤスデとして前代未聞の特徴である(近縁種や今のヤスデなら大顎は露出、小顎は退化融合、頸板に脚はない)。

アースロプレウラ

一昔前の復元図では上記のイラストのように、ムカデの毒牙やアリの顎を彷彿とさせる禍々しい口元を描かれることが多いが、これはヤスデであることすらよく分からなかった頃に推測されたものに過ぎない。


全体的には巨大で禍々しい奇虫というより、現生のオビヤスデを巨大化したものを想像する方が今のアースロプレウラのイメージに近いかもしれない。


生態など編集

断片化石がよく植物化石と共に見つかった状態から、長い間に石炭紀の緑豊かな熱帯雨林に生息すると考えられた。しかし足跡の生痕化石や比較的完全な体化石が生息時期では干潟海岸だった地層由来のため、実際は森林に依存せず、平坦で植物の密度が低い環境を主に生息した説が有力(前述の森林由来っぽい断片化石は、化石化の前に甲羅が水などによって森林の植物断片と一ヶ所に流されたものと考え直される)。


消化器の内容物は不明のため餌を正確に推定できないが、捕食器の欠如や足跡から示される緩慢な歩き方を元に、一般に草食であったと考えられる(かつてシダなどの胞子を含む腸の内容物と思われた化石が、後に化石の腸部に属さない混入物であると判明)。巨体のエネルギー源を維持するため、主食は栄養価の高い果実種子と考えられ、また巨体のため小動物まで捕食できた可能性もある。


巨大化について、かつては石炭紀の高い酸素濃度が主因と考えられた(現生の陸棲節足動物の大きさは大気の低い酸素濃度に制限され、呼吸器の構造上体が大きすぎると上手く酸素供給できない、という説を踏襲している)。しかし巨大なアースロプレウラは酸素濃度が現代と同じ程度だった時期にも生息するため、主因は別にあると考えられる(生息地の捕食者や競争者が少なかった・餌が豊かだったなど)。

ペルム紀での絶滅は競争者(爬虫類)の繁栄や、当時では赤道地帯だった生息地の乾燥化が原因だと考えられる。


分類編集

発見当初は断片な化石だけで、19世紀から20世紀中期では甲殻類三葉虫に近いものと考えられた。20世紀後期では多足類であることまで判明したが、どの多足類に近い/所属するについては不明確で、多足類における独自のグループとも考えられた。


21世紀以降では脚の配置や近縁種の発見により、ヤスデの種類として広く認められるようになった。近縁種とともに、ヤスデのうちアースロプレウラ類の一員として分類される。そして顎や脚の構造(今のヤスデほどには特化していない)により、アースロプレウラは知られる他のヤスデより起源が古く原始的であることも示唆される。


メディアでは編集

巨大節足動物として有名で、古生物図鑑のみならずドキュメンタリーゲームに登場することもある。しかし残念ながら、その復元像は旧復元を昇華させたかような凶悪なモンスターになりがちで、忠実にヤスデとして生物的に表現されたものは未だに少ない。また、情報がアップデートされないことと前述の不正確なビジュアルからか、誤ってムカデとして紹介されてしまうことも多い。


  • ウォーキングwithモンスター
    • 2005年リリース(日本語版は2006年放送)のドキュメンタリー。第2話(日本語版は第1話の末)にてアースロプレウラが登場。復元は実際の学説らしからぬ頭部周辺の構造はムカデで気性も凶暴。石炭紀の沼地に(当時蜘蛛と誤解釈されたメガラクネの予定だった)巨大蜘蛛を縄張りから追い払ったあと大型両生類プロテロギリヌスと闘争し、その末隣の倒木に体を貫かれて亡くなり死体を食べられる様子が描写される。
  • ARK:Survival_Evolved
    • 古生物がテーマのオープンワールドサバイバルゲーム。アースロプレウラは実物から大きくアレンジされた架空生物として登場。主に洞窟に出現。防具の耐久値を削る酸を吐き、攻撃するとこちらに反射ダメージを与えてくる。肉を手渡しすることでテイムできるが、近づくと敵対するので防虫剤やギリースーツを使用すべし。
  • Life on Our Planet
    • 2023年Netflix配信のドキュメンタリー。第3話にてオスのアースロプレウラが石炭紀の森林を徘徊し、メスに求愛交尾する様子が描写される。復元は全体的に現生のヤスデを準拠としている(脚の構造など現生のヤスデに似すぎたため逆に不正確になった所があるが)。

関連タグ編集

節足動物 多足類 ヤスデ

古生物 石炭紀 ペルム紀

ラディオドンタ類ウミサソリメガネウラ:アースロプレウラと並んで巨大節足動物としてよく知られる古生物。

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