多足類の1グループ、体に無数の脚が並んでいる陸生節足動物である。
概要
胴体は硬い外骨格に覆われて多くの節に分かれ、通常は円柱状である。脚は前4節のうち後3節は1節に1対ずつ、その次の節は名前の「倍脚」を示す通り、脚は1節に2対ずつある。頭の左右には1対の触角と多数の単眼があり、無眼のグループもある。オス成体の場合、第7節の脚は生殖肢という器官に変化する。
英語名「millipede」は「千足」を意味する。脚数が最多のヤスデはIllacme plenipesによる750本だったが、2021年にオーストラリアで1306本の脚を持つ新Eumillipes Persephoneが発見され、記録が更新された。
無数の管足を持つヒトデなどの棘皮動物を除くと、この脚数は動物界最多である。体長は種によって様々、最大の現生種は30cmを超えるアフリカオオヤスデである。化石種まで範囲を広げると、2メートル以上にも及ぶ既知最大の節足動物の1つであるアースロプレウラも存在した。なお最多の脚を持つeumillipesは意外と小さく、体長は10cmに満たず、体の幅は数ミリしかない。
ムカデとの違い
同じく多足類であるムカデとよく混同されたが、両者は以下の特徴から区別できる:
特に体節当たり二組の脚を有する点はわかりやすい識別点である。
グループ | ヤスデ | ムカデ |
---|---|---|
胴体の形状 | 円柱状 | 扁平状 |
脚の付け根 | 腹側 | 両側 |
脚の対数 | ほぼ1節2対 | 1節1対 |
動き | 遅い | 素速い |
食性 | 主に腐植食性 | 肉食性 |
生態
土壌など湿潤な環境を好む。通常は腐敗した有機物・糞・落葉や菌類なとを食べるため、分解者の役割を持ち、土壌の栄養循環を維持する重要な一員である。草食や雑食、稀に肉食性の種類も存在した。危険を感知すると硬い体を円盤状に丸めて、体表から臭液を分泌して防衛することがある。
細長い体形と短い多数の脚は土壌中の狭い隙間を移動することに適応した結果である。浅い土壌中で暮らす種が多いが、中には地下数十メートルというような深い土壌や洞窟に生息するものもいる。不安定な隙間を進む際には体を180度ねじって前後の体節群で異なる壁面にしがみつきながら前進するというような芸当もできる。地中で生活する性質上、視力が退化した種が少なくない。
生殖口は体の前部付近に開口するため、交尾はお互いを抱き合わせるような体制になる。そのうちオスは生殖肢を使って精子をメスの生殖口へ受け渡す。孵化直後の幼生の脚は3対しかなく、成長(脱皮)に伴って体節と脚の数を増やしていく。このため脚の数は同種内でも個体によって大きな差がある。
例外として毛虫にそっくりなフサヤスデの体は柔らかく、毛束に覆われて臭液もない。交尾は行わず、オスは精包を排出してそれを網に包む、そのまま置いてメスが拾っている。
タマヤスデはダンゴムシのような姿を持ち、体を球形に丸めることができる(そのためダンゴムシと混同されることもある)。オスの生殖肢は体の後ろに付き、メスを掴めるように使われている。
人間との関わり
基本的に無害であるが、地域によって大発生することがあり、人によって見た目や臭液の匂いから嫌がれ、不快害虫の代表格である。海外には一部の草食種がしばしば農作物を食害することもあり、その場合は害虫として扱っている。国内においても大発生したヤスデが列車の運行を止めるといった事例がある(踏みつぶされると車輪が空転し立往生するため。小海線の事例がよく知られるが、指宿枕崎線でも発生している)。
爬虫類・ムカデ・クモやサソリなどと共に、海外の大型種はペットとして流通することがある。