概要
昆虫のグループの一つ。「ガ目」「チョウ目」ともいうが、総称は鱗翅類。学名は「Lepidoptera」(レピドプテラ)。
そのうち Rhopalocera に分類される種類は「蝶」といい、それ以外のすべての種類は便宜上「蛾」と総称される。
17万5,000ほどの種が知られ、昆虫の中では甲虫(約36万種)の次に多い。完全変態昆虫の中ではトビケラに最も近縁である。
成虫は鱗粉を主に翅に持ち、その顕微構造は鱗と似た形をしていることで名付けられた(古代ギリシア語 lepídos 鱗 + pteron 翅/翼 で Lepidoptera 鱗翅類)。鱗翅類の翅は、この鱗粉で様々な色と模様を創り出す。
蝶と蛾
鱗翅類の昆虫は一般に「蝶」と「蛾」に呼び分けるため、これらが対になるイメージが強い。しかし実際、両者を明確に見分けられる目立つ特徴はなく(詳細はそれぞれの記事を参照)、そして系統的にも下記の通り、蝶はあくまで蛾の一角に過ぎない。
以下の系統図はメジャーなグループのみ抜粋して省略化したもの(実際は百以上のグループの蛾が存在する)。
┗┳━コバネガ
┗┳━コウモリガなど
┗┳━ヒゲナガガなど
┗┳━ホソガなど
┗┳━ハマキガなど
┗┳━ボクトウガ、スカシバガ、マダラガ、イラガ、メガロピゲイラガなど
┗┳━蝶
┗┳━メイガ
┗┳━カギバガ
┗┳━カレハガなど
また、ドイツ語の「Schmetterling」(シュメッターリング)やフランス語の「papillon」(パピヨン)のように、鱗翅類を一つの名詞で総称し、蝶と蛾に分けてない言語や地域も存在する。
同じ昆虫で似たようなケースとして、膜翅目の蟻と蜂(=蟻以外の膜翅類)が挙げられる。
生活環
幼虫
鱗翅類の幼虫はいわゆる青虫や毛虫などの芋虫である。3対の本当の脚は目立たなく、主に腹部5対(シャクガは2対)の吸盤状の腹脚で歩く。頭部は丸くて硬いが、胸部と腹部は柔らかい。6対の単眼、短い触角と頑丈な大顎を有し、草食で植物の葉などを嚙み砕くのが一般的。
なお、脚が目立つもの(シャチホコガ)や体が頑丈なもの(アリノスシジミ)、肉食に特化したもの(ハエトリナミシャクなど)も僅かにいる。
蛹
蛹は表皮が硬く、触角や脚、翅などすべての肢が体に密着して目立たない。茶色で、繭などで保護されるものが多いが、蝶では多くが隠れもしないまま茎や葉に付けて、派手な色や光沢を持つものもいる。蝶のこのような蛹は英語では「chrysalis」(クリサリス)という。
一般に「昆虫の蛹」といえば鱗翅類(特に蝶)のイメージが強いが、実際、鱗翅類の蛹は昆虫としてかなり特殊である(多くの昆虫の蛹は白くて柔らかく、肢が目立ち、常に繭などで保護される)。
成虫
「蝶」や「蛾」といえば一般にの段階を指す。全身が体毛に覆われ、複眼は艶消しで丸く、触角の形は種類や雌雄により棍棒状から糸状や羽毛状まで多岐にわたる。
原則として鱗粉が密生した2対の幅広い翅が最大の特徴で、その形・畳み方・模様や色などは種類により様々である。
種類により昼行性もしくは夜行性。大顎が退化する代わりに、渦巻き状に伸縮し、ストロー状の吻に変化した小顎で花の蜜などをすする。成虫の口が機能せず、禁食のまま余生を過ごすものも少なくない(カイコガ、ヤママユガなど)。
なお、前述した特徴から逸脱した例外もいる。例えばスカシバガやオオスカシバは翅の鱗粉を持たず、ミノガやフユシャクはメスの翅が退化し、原始的な鱗翅類(コバネガ)は成虫でも大顎を持って花粉などを食べている。
蝶といえば「触角は棍棒状・翅は派手で縦に閉じる・昼行性」、蛾といえば「触角は糸/羽毛状・翅は地味で縦に閉じない・夜行性」といったイメージが強いが、実際は両方ともそれに当てはまらない例外が存在し、特に昼行性で蝶に劣らないほど派手な蛾は随分と多い。
ハナバチやハナアブなどと同様、花を訪れることで花粉を身に付くため、授粉者としての役割を果たした主要な昆虫の一つでもある。