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かいこ

鱗翅(りんし)目・カイコガ科・カイコガ属に属する蛾の一種。絹糸を取るために家畜化された昆虫。

概要

蚕(カイコ)とは、鱗翅目(ガ目/チョウ目)・カイコガ科・カイコガ属に属する昆虫の一種である。正式和名はカイコガで、カイコは本来この幼虫を指す名称だが、一般的にはこの種全般のことも指す場合が多い。学名Bombyx mori

幼虫は白い芋虫で最大6cm前後、末端付近(第8腹節背面)に短い尻尾のような突起がある。両筋の気門(呼吸用の穴)が黒く、通常は盛り上がる胸部に微妙な目玉模様を持つ。成虫は全身が白い毛に覆われ、を広げて4cm前後。

他のカイコガ科の種類と同様ずんぐりな体型で、雌雄とも羽毛状の触角を有し、体長を少し超える程度の翅を左右に畳む。ただし同科の仲間と比べて腹部(特にメス)がより肥大で、翅で飛ぶことはできない。

糸の元となる蛾であり、ミツバチと並んで家畜化された数少ない昆虫の一つでもある。

起源

カイコの祖先は、東アジアに生息する同属別種のクワコ(学名:Bombyx mandarina)であり、中国大陸で家畜化された、というのが有力な説である。これらの交雑種は生殖能力をもち、飼育環境下で生存・繁殖できることが知られているが、野生状態での交雑種が見つかった記録はない。

一方で、クワコはカイコガとは習性が大きく異なり、夜行性で活発に行動し、また群生することがない。これを飼育して絹糸を取ることは可能とはいえ非常に難しい。むしろ科レベルにおいてカイコとは異なる昆虫であるヤママユのほうが、絹糸を取るためにに利用されるほどである。5,000年以上前の人間が、どのようにしてクワコを飼い馴らし、カイコを誕生させたかは、現在も不明である

そのため、カイコの祖先は、クワコとは近縁だが別種の、現代人にとって未知の昆虫ではないかという説が流布している。しかし、遺伝子解析に基づいた数多くの研究はこの説を支持せず、カイコはクワコの内部系統に含まれ、すなわちクワコに起源することを示している。

一生

他の蛾と同じく完全変態の昆虫であり、幼虫成虫という過程を経て成長する。後述するように野生への回帰能力を完全に喪失しており、人間の飼育下でしか生育することができない(完全家畜化された)体になっている

これは地球上の動物では唯一の事例とされており、その昔、より多くの生糸)を得るために人間が身体を大きく改造しすぎたのが原因と言われている。

丸い形をした、黄色い卵として生まれる。

大体10日程度で孵化するが、寒さに耐性があり、冬は卵の状態で冬越しする。

卵が増えすぎて扱えきれなくなった際は冷蔵庫に入れて保存できる。

温度管理が出来なかった昔は、雪を入れた蔵や洞窟の中で卵を保存していたという。

幼虫

幼虫はクワ()を食餌として成長する。ある程度成長すると、十数時間程度の「眠」(みん、脱皮の準備期間にあたる活動停止期)を経て脱皮する。多くの品種の場合、5齢が終齢幼虫となる。

孵化したての1齢幼虫は、黒色で疎らな毛に覆われるため毛蚕(けご)と呼ばれ、また、アリのようでもあるため蟻蚕(ぎさん)とも呼ばれる。

2齢以降の脱皮後も毛は生えているが、大きくなる体と相対的に毛はあまり育たないため、芋虫のような姿となる。幼虫の体色や模様は品種によって様々であるが、通常は白く、頭部に眼状紋が入る。また2齢幼虫になるころに毛が目立たなくなるのを昔の養蚕家は「毛をふるいおとす」と考え、毛ぶるいと表現した。

白い体色が天敵に発見されやすいこともあって、幼虫は自然下ではほぼ一昼夜のうちに天敵に発見され、捕食されてしまう。また、腹脚(幼虫の腹の部分にある脚のような器官)の把握力が弱いため、樹木の葉や枝に自力で付着し続けることができず、風が吹いただけで容易に地面へと落下してしまう。さらに、餌がなくなっても逃げ出すことはおろか自力で餌を探し回ることさえできず、餌を食べ尽くしたら人間が補充をしてやらない限りほぼ確実に餓死する

蛹と繭

蛹化(ようか、蛹〈さなぎ〉になること。養蚕家は化蛹〈かよう〉という表現を使用することが多い)が近づくと、幼虫の体はクリーム色に近い半透明に変わり、を作るのに適した隙間を求めて歩き回るようになり、それまでに摂食した餌をすべて糞として排泄する。やがて口から絹糸を吐き出しつつ、頭部を∞字型に動かしながら繭を作り、その中で蛹化する。

絹糸は唾液腺が変化した絹糸腺(けんしせん)という器官で作られる。後部絹糸腺では糸の主体となるフィブロインが合成される。中部絹糸腺は後部絹糸腺から送られてきたフィブロインを濃縮・蓄積するとともに、もう一つの絹タンパク質であるセリシンを分泌する。これを全て吐き出さないとアミノ酸過剰状態になり死んでしまうため、幼虫は歩きながらでも糸を吐いて繭を作る準備をする。

なお、何もなしで放置されると幼虫は自力で繭を作ることができない(糸を袋状の構造に組み立てられない)ため、蛹化が近づいた幼虫は人間の手によって簇(しゅく)という小さく仕切られた器に入れられ、この仕切りに沿って糸を吐くことで繭が形成されていく。繭の色や形は品種によって異なるが、中央が少しくびれた白色の長楕円形が一般的である。ちなみに、この繭は複数の糸を何本も束ねているわけではなく、一本の長い糸からできている

繭が完成すると、内部の幼虫は丸く縮んで前蛹になる。この時、体内ではアポトーシス(プログラム細胞死)が起こり、体の構造が幼虫から蛹に作り変えられている。それが終了すると、脱皮して完全な蛹となる。この蛹のことを玉虫甲虫タマムシとは無関係)と呼ぶこともある。蛹は最初は飴色だが、だんだんと茶色く硬くなっていく。

成虫

蛹化してから10日前後すると、蛹の頭部が割れて内側から成虫が出てくる(羽化)。羽化すると、成虫はすぐに尾部から茶色い液(蛾尿)を出す。また、口から絹糸を溶かすタンパク質分解酵素を出して自らの作った繭を破って出てくる。

成虫は基本的に他のカイコガ科の成虫と同様な構造で翅もあるが、体がずんぐりとして大きく重いことや飛翔に必要な筋肉が退化していることなどにより、羽ばたくことはできても空を飛ぶことはできない。もし仮にカイコガの成虫が空を飛ぶとしたら、オオミズアオ辺りの大きさの翅が必要と考えられる。一般的に蛾は嫌われやすいが、このカイコガはぽっちゃりしているので可愛いという人も結構いる。

他のカイコガ科やヤママユガの種類と同様に口吻)が退化しているため何も食べることができず、交尾産卵を終えるとすぐに死ぬ。羽化してから死ぬまでの期間はわずか10日ほどで、短命で知られるセミホタルより短い

人間との関係

前述の通り、人間の管理下になければ全く生育することができない。ミツバチなどと並び、愛玩用以外の目的で飼育される世界的にも重要な昆虫であり、主目的は天然繊維の絹の採取にある。

絹の採取(養蚕)

から生糸)を生産する養蚕は、少なくとも5,000年の歴史を持ち、カイコガもまた有史以来、養蚕の歴史と共に各国の文化と共に生きてきた。

日本にも古事記に記述が残るほどの長い歴史を持ち、第二次世界大戦前には絹は主要な輸出品であり、合成繊維が開発されるまで日本の近代化を支えた。農家にとっても貴重な現金収入源であり、地方によっては「おカイコ様」といった半ば神聖視した呼び方が残っているほか、養蚕の神様(おしろさま)に順調な生育を祈る文化も見られた。また「一匹、二匹」ではなく「一頭、二頭」と数える。

伝説によれば黄帝の后・西陵氏が、庭で繭を作る昆虫を見つけ、黄帝にねだって飼い始めたと言われる。絹(silk)の語源も西陵氏(Xi Ling-shi)であるという。

前述の通り、繭は複数の糸を何本も束ねているわけではなく、一本の長い糸からできている。絹を取るためには、繭を丸ごと茹でることで糸をほぐし、より合わせる。茹でる前に羽化した繭は、成虫が繭から脱出する際に口から分泌したタンパク質分解酵素の働きで繊維が短く切断されているため、紡績には使用できない。

なお、繭は大抵1匹の幼虫によって作られるが、稀に雌雄のペアで作られることがあり、これを玉繭(たままゆ)という。玉繭から絹糸を取ると節のある糸となるため、以前は価値の低い物とされてきた。

食料として

絹を採るために繭を茹でる際に、中の蛹は熱にさらされ死亡するが、この蛹を家畜の飼料や釣りの餌にする他、長野県等では佃煮や炒め物などにして人間の食料とする。

もうちょっと山奥入るとなぁ、成虫も食べるんな。蛹の方言は「ひび」っていうんだけどなぁ、蛾の日本語は「ひひる」って言ったんな。多分関連すると思うんだけどなぁ。

栄養価が高いため、現代でも宇宙ステーションにおける軽量な食品としての利用が研究されている(漫画『テラフォーマーズ』に登場する食用蚕の元ネタ)。

文化の中の蚕

 古くから神聖視されると共に、『金色姫伝説』や『おしら様』といった様々な伝承が作られるなど、民俗的にも重要な位置を占め、また人間の営みのためだけに生まれ生かされる存在というある種の人の業を体現する生き物だからか、『九怨』『ウツロマユ』など、和製ホラーゲームの題材に挙がることがある。

実験動物

逃げることはなく、動きも鈍く、飼育もしやすいという事から、蚕は実験動物として使われることもある。昆虫における脳の構造や、フェロモンの効能の研究において、蚕が果たした役割は大きい。

カイコをモチーフとするキャラクター

また「もふもふでずんぐりとした身体」「人がいないと生きられない」などと言った要素から擬人化オリキャラの題材としてもなかなか人気が高い

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