節足動物の中で、昆虫などを含む六脚類は甲殻類に最も近縁と考えられ、共に「汎甲殻類」としてまとめられる。
これは「昆虫は多足類(ムカデ、ヤスデなど)に最も近縁で、共に無角類/気門類としてまとめられる」という、形態の類似(1対の触角+3対の顎を持つ頭部、気管で呼吸するなど)に基づいた古典的知見を覆す新たな学説である。2000年代初期で台頭し始め、2010年代以降では定説となっている。
古典的な節足動物の系統(昆虫は多足類に近い):
┗╋━甲殻類(下記参照)
「無角類/気門類」
┗━六脚類(昆虫など)
新たな節足動物の系統(昆虫は甲殻類に近い):
節足動物
┗┳━鋏角類
┗┳━多足類
「汎甲殻類」
┗┳━甲殻類:フジツボ、カイアシ類、軟甲類(シャコ、エビやカニ、ダンゴムシなど)
┗┳━甲殻類:カシラエビ
┗┳━甲殻類:鰓脚類(ミジンコ、カブトエビ、ホウネンエビなど)
┗┳━甲殻類:ムカデエビ
┗━六脚類(昆虫など)
六脚類と甲殻類の類縁関係は、脳や複眼の構造なと、多足類に見当たらない細部かつ根本的な共通点に示唆される。これは遺伝子解析で更に掘り進められ、「六脚類は甲殻類の系統から派生したグループ」という予想外な関係性が判明した。
しかし同時に、「どの甲殻類が六脚類に最も近いのか」「六脚類はどのように甲殻類から進化したのか」などの新たな疑問も生まれてくる。
初期の研究では、淡水種が多い鰓脚類(ミジンコ、カブトエビ、ホウネンエビなど)が六脚類の系統に最も近いとされた。これと知られる化石記録を基に、恐らく4億年前のデボン紀の淡水には、鰓脚類と六脚類の共通祖先がいると思われた。海の甲殻類から淡水に進出して鰓脚類となり、そして六脚類はそこから進化し、上陸したものだと推測された。
しかし2010年代以降では更なる全面的な遺伝子解析により、むしろムカデエビという海底洞窟に住む甲殻類の方が六脚類に最も近縁という説が有力に。同時に六脚類の起源も、知られる化石記録より早期(おそらく4億8,000万年前のオルドビス紀)であることが示唆される。これによると、ムカデエビと六脚類の共通祖先は海洋生物であり、六脚類の祖先は淡水を経ずに海から直接に上陸した可能性が高い。
なお、(これはどの甲殻類にも言えることだが)ムカデエビと六脚類は形態も生態も大きく異なり、中間形態と言える新たな化石も見つからない。昆虫の起源に関する手掛かりは依然として少なく、謎は深まるばかりである。