九怨
くおん
本当の恐怖は、覗いてはいけない。
物語はまず「陰の章」「陽の章」の二つのストーリーがあり、プレイヤーはこれを攻略(順番はどちらでもよい)してゆく。
二つの章は事件を異なる視点から見たもので、これらを攻略することで全貌が明らかとなる。
すると最後に「九怨の章」が追加され、これを攻略することでエンディングとなる。
3つの章は主人公が異なり、陰陽術の力が込められた「符」と、刀や扇などの獲物をもって怪物と戦う。
符には様々な効果があり、火の玉や冷気を発したり、式神を呼び出して異形の魍魎を打ち倒す。
魍魎から受けたダメージの回復は使い捨ての薬で行うが、足を止めて精神統一することで時間をかけて回復することも可能。
また、進行状況のセーブにも個数の制限がある道具が必要だったり、攻略のためのキーアイテムやヒントの記された書物、そしてカメラ視点の画面など、プレイステーション初のホラーゲームの代表作「バイオハザード」の影響を色濃く受けている。
はしぞろえ はしぞろえ 御簾に映った 唐衣
お化け葛篭に 鼓の音 桑の実つけた 華褥
絹糸紡ぐ まがいだま 静かに揺れる はしぞろえ
偏に響く きらい箸 はしぞろえ
夜な夜な聞こえてくる、鼓の調べと幼子の唄い声。
亡霊のように彷徨い歩く住人と、闇に蠢く魍魎たち。
その屋敷に足を踏み入れた者は、二度と戻ってくることはなかった……
【陰の章】
神主の家系の少女「浮月」は、仕える貴族に呼ばれたきり戻らぬ父を探すため、姉の暮葉と共に神社のある山の麓の屋敷を訪れた。
ところが中へ踏み込むと、どこからか「わらべ唄」が聞こえ、暮葉はそれに誘われるように一人で屋敷の奥へ向かってしまう。
姉を探して屋敷を歩く浮月が見たものは、あちこちに転がる死体と、赤い着物の双子の童子。そして狂暴な餓鬼……
襲われ、絶体絶命の危機に、屋敷の調査に訪れていた陰陽師「咲耶」に助けられる。
彼女は咲耶から身を守るための呪符を授かり、姉と父を探して魍魎の徘徊する屋敷を調査するが、生き残っていた者たちを襲う魍魎どもの中に、その姉に似た姿を見かける……
操作キャラクター
浮月(うつき)
声:久川綾
「陰の章」の主人公。蚕ノ社で神主を務める蘆屋道満の次女。赤い着物を纏い、何処か憂いを秘めた眼差しをした少女。消息を絶った父を探すために、姉の暮葉と共に藤原頼近の屋敷へと訪れた。母はずっと前に亡くなり、父の道満は仕事で留守がちなため、病に冒された姉の面倒を見続けながら山中の神社で暮らしていた。そのため今まで外の世界に出たことがなく世俗に疎い。以前、自らの不注意が原因で姉が怪我をしたことに負い目を感じている。
正式な陰陽師ではないが高い霊力をもち、父から術の手解きも受けているため、探索中に手に入れた呪符も難なく使いこなす。得物として小刀を使うが、攻撃範囲は狭い。
咲耶(さくや)
声:浅野るり
「陽の章」の主人公。若くも強い意志を持った陰陽師の少女。師である蘆屋道満の命に従い、3人の兄弟子と共に魍魎の棲家と化した頼近の屋敷を訪れた。実は陰陽師の一族・賀茂家の生まれで高い霊力を持つが、女性だからと軽んじる親兄弟への反発のため、民間の陰陽師である道満の元に身を寄せ、服装も男装寄りにしている。
得物として扇を用い、精神統一の際には「千妖万邪皆悉済除急急如律令」と唱える。
なお、賀茂家は実在する陰陽師の家系で、その一人である忠之は晴明の師を務めたとされる。
重要人物
暮葉(くれは)
声:高森奈緒
浮月の姉。妹と同じく赤い着物だが、こちらは平安時代の化粧の丸い描き眉をしている。とある事故以来病弱で身体は痩せ細っており、妹と同様山奥の神社に籠っている。浮月と共に父を探しに屋敷を訪れるが、何かに引き寄せられるかのように屋敷の奥へと姿を消してしまう。
余談だがこの「暮葉」という名は『O・TO・GI 百鬼討伐絵巻』の登場キャラ「碓水貞光」の使役する烏の名と読みが同じ(あちらは「暮羽」)であり、O・TO・GIの貞光は年端もいかぬ少女でかつ巫術に長けた異能故に疎まれている設定の為、本作との関連性を仄かに匂わせる物となっている。
蘆屋道満(あしやどうまん)
声:有本欽隆
浮月と暮葉の父で、咲耶たちの師の陰陽師。蚕の糸を用いた術を使い、その力は稀代の陰陽師たる安倍晴明にも匹敵すると噂される。しかし民間に伝わる術を使うため正統派からは邪道と蔑視されており、そのため都の官人陰陽師、特に京一番の術者と称される晴明には並々ならぬ対抗心を抱いている。頼近邸で浮月と再会するが特に気にすることもなく、屋敷のあちこちに不自然に置かれた葛籠(つづら)を調べている。
双子
声:柳沢三千代
赤い着物をまとい、男児とも女児ともつかぬ顔立ちの双子の童子。どこか不吉な気配を漂わせ、屋敷のあちこちに現れてはわらべ唄を歌っている。その度に魍魎が現れることから、屋敷の異変と関わりがあるようだが……
その他の人物
藤原頼近
屋敷の当主。屋敷の中で物の怪が現れたという噂が絶えないため、屋敷の裏山に住む道満に調査を依頼した。しかし、ゲーム起動時のムービー通り何者かに殺害され、死体はその人物と共に葛籠の中に入れられてしまう。そして……
絢子姫
声:笠原留美
頼近の娘。怪異にみまわれた屋敷の奥の部屋に閉じこもっている。
如叡
屋敷の一角にある薬師堂を管理する坊主。頼近の奥方をはじめ、病に冒された者たちを堂に隔離し、暴れる彼らを鎮めるために念仏を唱え続けている。
この藤原邸の異変は、他ならぬ道満自身が引き起こしたものだった。
以前から都の陰陽師に対抗意識を燃やしていた彼は、都一の陰陽師と讃えられる晴明を倒すための強力な術を欲していた。
そこで彼は、蘆屋と藤原の先祖がこの地に封印した「妖の桑の木」に目を付ける。
そうして神社と屋敷に封印されていた2本の桑の木を解放し、その力をもって「九怨の呪法」を発動。屋敷の住民を次々と魍魎に変貌させ、さらに弟子たちと、己の娘たちさえも術の贄とするべく屋敷へ呼び寄せたのである。
桑の木
藤原邸と道満の神社に封印されていた2本の神木。物語の100年程前、蘆屋の先祖秦氏(はたうじ)がどこからか持ち込んだのだが、当時何らかの災厄を引き起こしたらしく、秦氏と藤原家の先祖によって封印された。しかし此度、その子孫である道満の手で解放され、再び災いをもたらすことになる。
この木の化身こそが、わらべ唄を歌う赤い着物の双子の童子であった。
あどけない立ち振舞いながら、その本性は残忍かつ狡猾で、唄で魍魎たちを操り人を襲わせる。
(道満は唐国あるいは南蛮から不老不死を求めて持ち込まれたと推察しており、現存する中国最古の医学書とされる『神農本草経』でも、桑の木の葉は滋養強壮の薬に用いられ、不老長寿の妙薬として重宝されていた)
九怨の呪法
作品のタイトルでもある魔の呪法。桑の木の双子が屋敷の人々にかけたもので、「他の生物同士を蚕の繭の中で交わらせて、より強靭な生物を生み出す」というもの。これを九度繰り返せば新たな桑の木の化身となる(らしい)。
呪を受けた者は次第に精神に異変をきたし、他の生物との交わりを求めて周囲の生物(特に人間)を無差別に襲う「病人(やまいびと)」となってしまう。
また、ある程度高い霊力や高貴な血筋の者でなければ最後までは成功せず、途中で異形の魍魎となりはててしまう。
交わりの際にできる繭の絹糸もまた高い霊力を持ち、道満はこれを用いて術を行っていた。だが、九度の交わりの末に生まれる「新たな桑の木の化身」がどのようなものかは道満自身にも分かってはいない。
葛籠(つづら)
交わりの途中で繭が破れぬように保護するため、道満が屋敷や神社のあちこちに置いた赤い葛籠。中には血布が仕込まれており、交わった回数によって一解呪、二解呪……の血布と変化する。
浮月と暮葉
デモムービーで藤原頼近を殺害した者は、暮葉その人である。
実は物語の約1年前、彼女は復活を遂げた桑の木の双子によってすでに殺害されていた。しかし、傍にいた浮月が遺体を葛籠に入れたことで、中にあった蚕と交わり蘇生する。
その後数ヵ月は何事もなく生活していたが、次第に交わりを求める飢えが強まり、また身体が朽ち始めたため、その度に浮月に持ってこさせた小動物と交わって飢えを凌いでいた。その中で、浮月によって崖に落とされた時の記憶が蘇り、次第に妹への恨みが募っていく。
(実際は双子が邪魔をしたことで、浮月は驚いて暮葉がしがみついていた縄梯子を手放してしまった)
そして1年後、父を探すために訪れた藤原邸で、双子に操られるまま、頼近、絢子姫、道涼……と優れた血筋や霊力を持つ者と交わり続け、あの日と同じく妹を崖に突き落とし、浮月とも交わってしまった。
この時点で浮月と暮葉の意識はひとつの身体に宿ったため混濁しており、ゆえに陰の章の後半の出来事は時系列が一致しておらず、話の流れが分かりにくくなっている。
こうして、元凶たる道満と双子の思惑通り、暮葉は八度の交わりを行い、呪法の完成まであと一歩となってしまった。
妹の身体を乗っ取った暮葉は父から真相を聞かされて絶望し、後には飢えに苦しむ浮月が残される。
一方の咲耶は奮闘し、桑の木の片割れを焼き滅ぼすも、正気を失った浮月が襲いかかり……
【九怨の章】
かろうじて正気を取り戻し、浮月は踏み留まる。
苦しむ浮月に咲耶は必ず助けると誓い、呪法を解く手段を求めて再び屋敷の調査に向かった。
そしてついに、都一の陰陽師・安倍晴明が頼近の屋敷に現れる……
安倍晴明(あべのせいめい)
声:米本千珠
日本史に名を残す稀代の陰陽師。本作では聡明な女性として扱われている。頼近邸の異変解決のため送った弟子が戻らなかったため、自ら異変を収めるべく屋敷を訪れた。強大な力を持つ式神「善鬼」「護鬼」を従え、「五帝龍王の神槍」を振るって魑魅魍魎を滅する。
精神統一の際には「四神」の力を用いている。
宴の終わり
魍魎どもをなぎ倒しながら屋敷を歩く晴明が見たのは、ボロボロに傷ついた咲耶と、彼女の前で嗤う桑の木の童子。そして化生と成り果てる前に自ら朽ちようとする浮月だった。
晴明は、桑の木を封じれば間に合うやもしれぬと、かつて木を封じていた「封魔の釘」を探して屋敷の地下に踏み入る。
そして目的の釘を手に入れた後、地下の祭壇で道満と対峙。死闘を演じることになる。
戦いを制したのは晴明だった。
無念の言葉を吐きながら、外道に堕ちた男は倒れる。
ところが、そこへ正気を失った浮月(暮葉)が現れて道満の遺体を持ち去り、咲耶の制止もはね除けて葛籠に入ってしまった。
「これで、あがり」
とうとう九怨の呪法が成り、双子の片割れは嗤う。
晴明は「黙れ」と封魔の釘を桑の木に打ち込み、不快なそれを消し去った。そしてやむなく槍を葛籠に向ける。
そこへ咲耶が割り込み、あまりに不憫な命運を辿った浮月の助命を乞う。
術の危険を説くも必死にかばう咲耶に、晴明は残った釘を全て渡し、その場を後にするのだった。
こうして、藤原頼近邸を襲った災厄は終わった。
夜が明け、屋敷の門が開く。
門から出てきたのは咲耶と、浮月のような顔立ちの幼児。その手にはひとふさの桑の実の付いた枝を持っている。
親も師も失った彼女たちは、安住の地を求めていずこかへ旅立つ。
……九怨の呪法の、本当の恐ろしさも知らずに。
(と、「九怨(kuon)公式完全攻略絵巻」の巻末にあるが、続編は今だ出ていない……)