🦋概要
蝶(チョウ)とは、昆虫の中の鱗翅目(ガ目・チョウ目とも)のうち、Rhopalocera(ロパロケラ)に分類される種類の総称、またはその成虫の姿のこと。
それ以外の様々な鱗翅類は便宜上「蛾」として区別されるが、系統的に蝶は蛾の一部であり、両者の見た目の区別も明確でない(詳細は後述)。
1万7,000以上と数多くの種が知られ、極地を除いて世界中の各大陸に分布する。
(イラストは順にオオゴマダラの卵+幼虫・蛹・成虫)
成虫は鱗粉に覆われる大きな翅と渦巻状に収納されるストロー状の口吻を持ち、華奢な胴体が体毛に覆われている。丸い複眼の間から長い触角が突き出し、その末端が棍棒状に膨らむものが多い。
この口吻は顎が進化した器官で、羽化した直後の僅かな間だけ左右に裂けており1対の顎であった名残を垣間見ることができる。
丈夫で肢が目立たない蛹はほとんどが昆虫として珍しく繭で隠れもせず、木の枝や葉などにくっついたまま蛹化する。そのためか独特な形や色を持つものが多い。蝶のこのような蛹は英語では「chrysalis」(クリサリス)という。蛹の付き方は種類により逆さまにぶら下げる(垂蛹 すいよう)・上半身を糸で支える(帯蛹 たいよう)・葉の溝に沿って付着するなど様々である。
幼虫はいわゆる芋虫であり、見た目は種類により無毛な青虫からふさふさな毛虫まで多岐にわたる。成虫と異なり、口には頑丈な顎を持つ。
🦋食性
原則として草食で、成虫はストロー状の口で花の蜜や樹液、果実の汁、水分などを啜る。ただし塩分などを求めて他の動物の糞や死体を求めることもあり、稀だが他の動物の流血を啜る種もいる。
幼虫は多くが草や木の葉を食べて、種によってある程度対象が決まる。花や茎、コケ、地衣類、落ち葉などを食べる種も稀にいる。
- 例:モンシロチョウはキャベツなど野菜の花、ナズナなどのアブラナ科植物。アゲハチョウはミカンや山椒などのミカン科の植物。ツマグロヒョウモンはパンジーやスミレなどのスミレ科植物。ヤマトシジミはカタバミの葉。オオムラサキはエノキの葉。
シジミチョウには、アブラムシやカイガラムシ、アリの幼虫などを食べる肉食性の種も存在する。
🦋蝶と蛾
蝶以外の鱗翅類は全て「蛾」と呼ばれ、一般には蝶と対になるように区別されるが、蛾はあくまで「蝶以外の様々な系統の鱗翅類」という便宜的で雑多な括りであるため、系統的には下記の通り蝶は蛾のごく一部である。種数から見ても、蝶は17万種以上知られる鱗翅類の中の数%程度である。
以下の系統図はメジャーなグループのみ抜粋して省略化したもの(実際は百以上のグループの蛾が存在する)。
┗┳━コバネガ
┗┳━コウモリガなど
┗┳━ヒゲナガガなど
┗┳━ホソガなど
┗┳━ハマキガなど
┗┳━ボクトウガ、スカシバガ、マダラガ、イラガ、メガロピゲイラガなど
┗┳━蝶
┗┳━メイガ
┗┳━カギバガ
┗┳━カレハガなど
ただ雑多な括りである蛾とは異なり、蝶は分類学的にも一つの系統である。しかし、見た目では蛾との区別が明確でない。
一般的には「触角が棍棒状・翅が縦に閉じる・色が派手・昼行性・繭を作らない」ものが蝶、「触角が糸/羽毛状・翅が縦に閉じない・色が地味・夜行性・繭を作る」ものが蛾と思われているが、どれもそれに当てはまらない例外が存在し、これらの特徴では判別できない。
一応、多くの蝶は色以外で前述した特徴を総合的に見て蛾と区別できるが、シャクガモドキはれっきとした蝶であるものの、繭を作らないだけで「触角が糸状・翅を縦に閉じない・色が地味・夜行性」などと蛾として印象的な特徴を全部揃っている。これにより、蝶と蛾を外見で完全に区分することはほぼ不可能である。
🦋種類
蝶の内部系統は大きく以下7つのグループ(科)に分かれ、ここで簡潔に述べる(それぞれの詳細はリンクのある記事を参照)。
大型種がメイン。多くが後翅に尾状突起がある。幼虫は盛り上がる胸部から臭い臭角を出して身を守る。550種ほど知られ、ナミアゲハやカラスアゲハ、アオスジアゲハなどが属する。
大型種がメイン。前脚が退化し、脚4本に見える。6,000種ほど知られ、オオカバマダラやオオムラサキ、モルフォチョウなどが属する。
小型種がメイン。翅の縁や体の毛が目立つ。幼虫は平たい楕円形で、アリと共生関係を結ぶ種類が多く、肉食種もいる。5,200種ほど知られ、ベニシジミやトラフシジミ、ムラサキシジミなどが属する。
中型種がメイン。大半が南アメリカ産で残りはオーストラリアや東南~東アジア、アフリカに産するが、日本にはいない。シジミチョウに似ているが、オスはタテハチョウのように前脚が退化している。1,500種ほど知られ、ミイロシジミタテハやアリサンシジミタテハ、ヒョットコシジミタテハなどが属する。
中型種がメイン。翅は単調で白や黄色の種類が多い。1,100種ほど知られ、モンシロチョウやスジグロシロチョウ、キチョウなどが属する。
中型種がメイン。ずんぐりした体型で、素速く飛ぶ。幼虫は食草の葉を巻いて巣を作る。3,500種ほど知られ、イチモンジセセリやキマダラセセリ、アオバセセリなどが属する。
中型種がメイン。南アメリカ産で、日本にはいない。夜行性・灰色で閉じない翅・糸状の触角など、どこからどう見ても蛾にしか見えないが蝶である。35種ほど知られている。
蝶は蛾から派生したグループであるため、どことなく蛾と似たシャクガモドキやセセリチョウが原始的と思われやすく、かつての学説でもこれらが最も起源が古い蝶と考えられた。しかし意外とそうではなく、後からの遺伝子解析によると下記の系統図の通り、むしろ蝶として代表的ともいえるアゲハチョウの方が起源が古いであることが判明した。
蝶
┗┳━アゲハチョウ
┗┳━シロチョウ
┣━タテハチョウ
🦋英名の由来
英語名「butterfly」(バターの羽虫)およびそれに類似する言葉を言及した文献記載は10世紀以前まで遡り、長い歴史にあることが分かるが、その由来は諸説紛々で明確でない。一例としてヤマキチョウの黄色型の雄による、バターが産する春と夏で草地を飛び舞うことによる、などがある。
🦋蝶のイメージ
花などと並んで美しい自然物として飛び抜けて知名度が高く、蝶や昆虫・自然が主題でない創作でも、高頻度に装飾やエフェクトなどの美しい物事のモチーフとされる。派手で死後でも簡単には色褪せない翅から標本として人気が高く、また幼虫とのギャップや目立つ蛹から、昆虫の不思議な完全変態を述べる際に常に代表格として取り上げられる。
派手でどことなく儚いイメージから、古くから世界各地の文化で色んな物事の象徴とされる。
平安時代では「死者の魂がこの世に甦った姿」とされ、弔いの詠にはしばしば蝶が使われる。それ故「名前を言うのも気持ち悪い」物だったらしく、日本語では元「カハビラコ」「カービル」(川にいるヒラヒラあるいは皮の張ったびびるもの)と呼ばれていた。後に中国語の「tie」を無理やり日本語の発音にした「てふ」が使われる。なおギリシャ神話においてプシュケも蝶の羽を持つ。
中国では「老齢」を表す耄耋(mao tie、マオティエ)との語呂合わせから、長寿=めでたいものの図像として「猫と蝶(mao tie)」の絵が好まれた。
ミャオ族の神話では蝶は人間の先祖とされており、生のシンボルとする国もあるようである。
物事が始まる予兆や変化の兆しと例えられることも多い様だ。
🦋蝶に関連する作品・キャラクター一覧
🦋関連イラスト
🦋別名・表記ゆれ
日本語:チョウ/ちょう 蝶々/ちょうちょ/チョウチョ/てふてふ 胡蝶/蝴蝶※1 夢見鳥
ドイツ語:Schmetterling/シュメッターリング※2
※1:中国語名でもある。
※2:実際は蛾をも含めて鱗翅類全体を指す総称であるが、慣行的に「蝶」と訳される。