疾走する本能
Open your eyes for the next φ's!
概要
2003年1月26日から2004年1月18日までテレビ朝日系列で放映された平成ライダーシリーズ第4作目である。
メインテーマは「異種族(他者)との共存」。
怪人(オルフェノク)へと変わってしまった者たちの苦悩や変身ベルトの争奪戦、ハードな描写や草加雅人を始めとするとても単純には善悪を論じ切れない複雑でアクの強いキャラクター達が本作の特色として挙げられる。
本作は前作『仮面ライダー龍騎』同様、2001年に発生したアメリカ同時多発テロ事件の影響を色濃く受けており、そのため勧善懲悪に対して懐疑的な作風となっている。
前作『仮面ライダー龍騎』では「ライダーだからといって正義の味方とは限らない」という構図が話題となったが、本作では更に「ライダー=正義、怪人=悪」の図式をも排し、善悪二元論的な単純な価値観では割り切れない物語や、「正義とは何か?そもそも人間は守るに値する存在なのか?」「如何なる理由があろうと、戦うこととは敵対する誰かを殺すことに他ならない。では何を信じ、何のために”敵”を殺すのか?そして、その罪と責任にどう向き合うのか?」といった根源的なテーゼを直球で投げつけてきた作品である。
同時に「他人との相互理解の難しさ」「復讐と暴力の連鎖」「夢(信念)を貫くことのエゴイズム」「同じ夢を持っているのに立場や解釈の違いで起こる争い」といった、普遍的ながら極めて重たく解決の難しいテーマも盛り込まれている。
従来の本シリーズの中でも、登場人物の間で繰り広げられるドラマ性へ特に重点を置いた内容となっており、裏切りや欺瞞、行き違いや気持ちのすれ違いによる誤解、愛憎から発展する殺し合い、不信が不信を呼び泥沼化していく人間模様を多分に交えた人間関係が非常にドロドロとした物語が特徴である。
その作風故にリアルないじめや嫌がらせの場面も多く、登場人物達の凄惨な経緯や末路の描写など、朝の特撮ドラマでありながら昼ドラ並の重々しいストーリーが展開され、当時、賛否両論になった。
全50話、加えて劇場版『パラダイス・ロスト』を井上敏樹がすべて執筆していたこと、彼自らが執筆した小説版『異形の花々』ではより陰惨な描写が増えていることも有名。
また、物語性を重視し、怪人側の背景も描く構成となったのは、前作『龍騎』がライダー同士の戦いそのものに比重を置きすぎたことや、そのせいで怪人の扱いが弱くなってしまったことへの反省でもあったとのこと。
仮面ライダーシリーズで初めて「この番組はフィクションです」というテロップが流れるようになった。
物語
西暦2003年、九州で一人旅をしていた青年・乾巧は、旅先で知り合った美容師を目指す少女・園田真理とともに、自分達だけの世界を作ろうと企むオルフェノクと呼ばれる異形の怪人に襲われる。
真理は所持していたベルト・ファイズギアを装着して戦おうとするも、ベルトに拒絶され失敗してしまう。そこで今度は巧にベルトを着装させると、彼は仮面ライダーファイズに変身することに成功し、オルフェノクを撃退した。
オルフェノクがベルトを狙ってきたらしいことを知った二人はその後、クリーニング屋の菊池啓太郎と出逢い、事情を知った彼の勧めで東京にある彼の家で共同生活を始めることになる。
一方、東京で暮らしていた青年・木場勇治は、2年前に巻き込まれた交通事故によって両親を失い、自らもその後の昏睡状態を経て死亡したかに見えた。しかし、木場は病院で謎の蘇生を遂げる。
だが、昏睡していた2年間に彼を取り巻く状況は一変していた。両親の財産は親戚に奪われ、唯一の拠り所であった恋人すら従兄弟に奪われてしまっており、怒りと絶望から木場はホースオルフェノクとして覚醒し、従兄弟と恋人を殺害してしまう。
すべてを喪った上に自らの変容と罪に絶望し、自暴自棄になる木場。そんな彼の前にスマートレディと名乗る女性が現れ彼女からオルフェノクの組織・スマートブレイン社への勧誘を受ける。そして木場は、自分と同じようにオルフェノクとして覚醒した長田結花と海堂直也の2人と行動を共にするうちに、人類を敵視するスマートブレイン社の姿勢に反発し、人類とオルフェノクの融和を考えるようになる。
オルフェノクを憎み抹殺を試みる謎の青年草加雅人や最高幹部ラッキークローバーも参戦。
様々な立場の人間・オルフェノク達の信念と思惑が絡み事態は混沌を極めていく。
乾巧と木場勇治。2人の男を中心としたライダーズギア、ひいては人類の未来を巡る戦いが今、静かに幕を開けた。
総合的な評価
暗い、シリアス
平成ライダー初の怪人側の人間ドラマを描いた事で当初から波乱を呼んだ作品であり、怪人でありながら人間の心を持つ者と、人間でありながら悪事を働く者らが登場する等、『龍騎』同様にこれまでの仮面ライダーの常識を覆す作品としてニチアサ枠を飾った。
前述したように、その陰鬱さはただでさえシリアスで重々しいストーリーが繰り広げられた平成一期前半(『仮面ライダークウガ』から『仮面ライダー剣』)の中でもずば抜けており、アクの強いストーリーや劇中描写故に苦手な人もいたらしく、当時はBPOやテレビ朝日に「朝から重すぎる話を見せられて気分が悪い」「もっと子供に安心して観せられる内容を放送してくれ」等のクレームなど少なからず批判を喰らった。
そもそも前三部作や次回作が、一応子供向けという体裁で作られているためか、
- 大人でなければ理解できない場面や発言が多い
- 主人公の第一印象、口の利き方といった面で様々な問題がある
- コメディリリーフがいてコメディシーンも一応あるが、添え物程度であまり目立たない
他にも当時の子供たちにトラウマを与えたシーンも少なくなく、中でも草加雅人の最期はあまりに悲惨で、今も多くのファンの間で語り草となっている。
しかし戦闘シーンやライダー達の使うガジェットの演出が非常に華麗だったこともあり、実際のところは子供にも支持され、好調な売上を記録している。
当時の子供の憧れのアイテムであった携帯電話を始めとする日用電子製品をモチーフとしたギミック豊かなライダーや、上述で人間的に問題としながらもそれが同時に魅力にもなっている個性豊かな、味のあるレギュラーキャラ達(主人公らしからぬ無頼漢の中に純粋な格好良さを秘めた巧、ヒーローとは言い難い卑劣漢ながらも一概に悪人とも評し難い濃いキャラ性で人気を獲得した草加、副主人公としてストーリー上で大きな存在感を示してくれた木場、そんな彼らの裏で本作の数少ないコメディリリーフであると同時にシリアスでも良き狂言回しを務めた海堂直也など)の存在や、平成二期に入ってから公開された『仮面ライダー大戦』等の映画での活躍により、改めて注目された事で人気を高め、今では仮面ライダーシリーズの平成一期を代表する大人から子供まで広い範囲で愛される名作となっているといえる。
2021年に開催された「全仮面ライダー大投票」では仮面ライダー部門で奇しくもファイズらしく第5位、作品部門では第7位にランクイン。音楽部門でもオープニング曲である「Justiφ's」が第8位を獲得しているため、全部門でトップ10入りを果たしたことになる。
『仮面ライダー4号』という、本作そのものの続編と呼んで差し支えない作品(ただし語り部は仮面ライダードライブ・泊進ノ介)まで作られている。
本作のライダー
登場するライダーは本編では4タイプが、劇場版『パラダイス・ロスト』を含めると6タイプが存在する。
以下に示しているのは主にそのライダーに変身する人物であり、ファイズ、カイザ、デルタについてはベルトが奪われることで(敵を含め)他の人物が変身する場面もある。
なお、龍騎を除くそれまでの平成ライダーと同様に作中で「仮面ライダー」を定義するシーンはなく「ライダー」という呼称も使われていない。
また、本作の登場人物の特徴として、登場人物は主人公を筆頭に、全員が人間的に問題があること(上記の3人以外にも、気の強さから相手を罵倒する際は容赦なく時に言ってはならないことも言ってしまう少女、極度のお人好しであるが故に他人に利用されやすい人物、人類との共存を望んでいながらも裏では怪人として悪人を殺している女性、空気が全く読めず周囲の人間に常に火に油を注ぐような発言ばかりをする人物、ヘタレさが仇となって周囲の人間を危険にさらしてしまいがちな青年、オルフェノクを倒すために人間を利用したこともある人物など)、敵勢力に悪人とは言い切れない人物や悲しい過去を持つ人物や怪人となったことで狂ってしまった人物がいることが挙げられる。また人間側にも(人類のためとはいえ)目的のためなら手段を選ばない非道な人物や、ほぼ同情できない被害者も登場する。
登場人物
→仮面ライダー555の登場人物一覧を参照
各話リスト
話数 | サブタイトル | 登場怪人 |
---|---|---|
1 | 旅の始まり | スティングフィッシュオルフェノク |
2 | ベルトの力 | エレファントオルフェノク |
3 | 王の眠り | オックスオルフェノク |
4 | おれの名前 | カクタスオルフェノク、マンティスオルフェノク |
5 | オリジナル | スクィッドオルフェノク |
6 | 3人×3人 | - |
7 | 夢の力 | オウルオルフェノク |
8 | 夢の守り人 | オウルオルフェノク、スカラベオルフェノク |
9 | 社長登場 | スネイルオルフェノク |
10 | 謎のライダー | 〃 |
11 | 謎のベルト | - |
12 | 流星塾 | - |
13 | 敵か味方か | エキセタムオルフェノク |
14 | 巧の意地 | - |
15 | 落ちた偶像? φ's vs χ | - |
16 | 人間の心 | フライングフィッシュオルフェノク |
17 | 巧、復活 | フライングフィッシュオルフェノク、アルマジロオルフェノク |
18 | 九死に一生 | トードスツールオルフェノク |
19 | 純白の正義 | 〃 |
20 | 美しき刺客 | スコーピオンオルフェノク |
21 | 加速する魂 | スコーピオンオルフェノク、ドルフィンオルフェノク |
22 | 雅人の告白 | ワームオルフェノク |
23 | 偽りの友情 | ワームオルフェノク、シーキュカンバーオルフェノク |
24 | 闇への扉 | ラビットオルフェノク |
25 | 闇の実験室 | 〃 |
26 | デルタ登場 | フロッグオルフェノク |
27 | 流星塾分裂 | - |
28 | 暗黒の四葉 | - |
29 | 超絶バイク | - |
30 | 雅人の罠 | スティンクバグオルフェノク |
31 | 折り紙の涙 | ソードフィッシュオルフェノク |
32 | 絡み合う糸 | 〃 |
33 | 真理、死す | ライノセラスビートルオルフェノク、スタッグビートルオルフェノク |
34 | 真実の姿 | スタッグビートルオルフェノク |
35 | 復活の謎 | 〃 |
36 | 甦える記憶 | オクトパスオルフェノク |
37 | カイザの正義 | ピジョンオルフェノク |
38 | 彷徨える魂 | バーナクルオルフェノク |
39 | ファイズ2 | スロースオルフェノク、オクラオルフェノク |
40 | 人間の証 | オクラオルフェノク |
41 | 捕獲開始 | フリルドリザードオルフェノク、クラブオルフェノク |
42 | 折れた翼 | クラブオルフェノク |
43 | 赤い風船 | バットオルフェノク |
44 | 最後のメール | 〃 |
45 | 王の目覚め | 〃 |
46 | 新社長誕生 | コーラルオルフェノク |
47 | 王の出現 | アークオルフェノク |
48 | 雅人、散華 | - |
49 | 滅びゆく種 | アークオルフェノク |
50 | 俺の夢 | 〃 |
音楽
- OPテーマ『Justiφ's』
作詞:藤林聖子/作曲:佐藤和豊/編曲:中川幸太郎/歌:ISSA(DA PUMP)
劇場用アレンジとして「Justiφ's -Accel Mix-」が存在している。
- 1st挿入歌『Dead or alive』
- 2nd挿入歌『The_people_with_no_name』
アクセルフォームテーマソング。
- 3rd挿入歌『EGO〜eyesglazingover』
- 『existence〜KAIXA-nized dice』
仮面ライダーカイザイメージソング。「右脳」という空耳でおなじみ。劇中未使用。
- 『DELTA STRIP〜White Ring』
仮面ライダーデルタイメージソング。劇中未使用。
- 『Double Standard』
乾巧キャラクターソング。劇中未使用。
- 『Hang on』
菊池啓太郎キャラクターソング。劇中未使用。
- 『I wish』
園田真理キャラクターソング。劇中未使用。
- 『cross a river』
木場勇治キャラクターソング。劇中未使用。
- 『pray for you』
長田結花キャラクターソング。劇中未使用。
- 『夢のかけら〜Romantico』
海堂直也キャラクターソング。劇中未使用。
- 『My name is Smart Lady』
スマートレディキャラクターソング。劇中未使用。
- 『太陽の影 月の夜』
関連作品
劇場版
2003年8月16日公開。本作の単独作品。
本作から乾巧/仮面ライダーファイズと草加雅人/仮面ライダーカイザが登場。
2015年3月21日公開。仮面ライダーシリーズとスーパー戦隊シリーズのクロスオーバー作品。
本作から乾巧/仮面ライダーファイズが登場。
Vシネクスト
2020年2月28日公開、同年4月22日Blu-ray/DVD発売。『仮面ライダージオウ』の2号ライダーである仮面ライダーゲイツを主役とした作品。
本作から草加雅人/仮面ライダーカイザが登場。
スピンオフドラマ
2015年よりdビデオにて配信。『3号』の後日談となるスピンオフドラマ。
本作から乾巧/仮面ライダーファイズと海堂直也/スネークオルフェノクが登場。
本作から海堂直也/スネークオルフェノクが登場。
2022年10月よりTTFCにて配信。『仮面ライダーゲンムズ』の正統続編となるスピンオフドラマ。
本作から園田真理とアークオルフェノクが登場。また、園田真理と同じ姿をしたスマートクイーンが新たに登場。
漫画
2019年9月27日より電撃マオウとTTFCにて連載。草加雅人/仮面ライダーカイザを主役としたスピンオフ作品。
余談
- 本作にはモルフォチョウとモアレ(黒い波みたいな模様)がOPのみならず、劇中では度々登場しており、『仮面ライダーディケイド』のファイズの世界でもファイズのアイコンとして使用されている程、本作の象徴になっている。
- 本編未視聴者には夢が物語の主軸だと勘違いされることが多い。7・8話や最終回の台詞が有名なため、それが一人歩きしてしまったものだと思われる。
- 『魔法先生ネギま!』の登場人物・犬上小太郎が仮面ライダー好きという設定で2003年が舞台という事からネギと一緒に見ていたのは本作だと思われる。
- 大の仮面ライダー好きとして知られ、後に『シン・仮面ライダー』の総監督を務める庵野秀明氏は平成ライダーシリーズの中でも本作が特にお気に入りであると公言しており、映画『シン・ゴジラ』にも本作の小ネタをいくつか仕込んでいる。また、庵野氏の妻である安野モヨコ氏の漫画『監督不行届』でも彼の555好きに関するエピソードが描かれた事もある。
関連イラスト
関連動画
関連タグ
特撮 仮面ライダー 平成ライダー 平成一期
フォトンブラッド オルフェノク
異形の花々 仮面ライダー913
乾巧って奴の仕業なんだ 駈斗戦士
仮面ライダーX:仮面ライダーシリーズ第3作目で5人目(4人目はライダーマン)のライダー、すなわち「仮面ライダー5号」で旧世代のメカニカルな仮面ライダー。本作が平成ライダー第4作目なのに「555」という一見すると紛らわしいネーミングなのはこの為である。
仮面ライダーアマゾン:旧世代4番目の仮面ライダー。ナンバリング的にはこちら。
仮面ライダーアギト、仮面ライダー響鬼(後半):プロデューサーと脚本家が同じライダー作品。
仮面ライダーキバ:脚本家が同じライダー作品、「主人公に重大な秘密があり、物語後半でそれが明らかになる」「主役ライダーの色彩が似ている」「2号ライダーの変身者は歪んだ正義を持つ人物で井上キャラの代名詞的存在」「白い3号ライダーは最初に開発された初期型で装備が少ない」「芳賀優里亜女史がレギュラー出演している」「怪人だけで構成された大企業や怪人の中でも特に強力な4人の上級怪人で構成された敵組織やラスボスである怪人の王が登場する」「仮面ライダー達のライダーシステムは怪人の王の為に開発された怪人用の装備だが、最終的には人間や善玉怪人が使用した事で怪人を倒す為の装備になった」「昼ドラ並の重々しい・暗いストーリーが展開される」「人間と怪人の共存がテーマ」「前作が小林靖子作品」「次回作がカードを使用するライダー作品」など共通点が多い。
仮面ライダー鎧武:10年後のライダー作品、「主人公はムキになりやすい一面もあるが、優しく正義感にあふれた青年」「黄色い2号ライダーの変身者は良くも悪くも我を突き通す性格」「主人公の仲間である影の主人公は基本的には温厚で優しい性格だが、良くも悪くも流されやすい上に独善的な一面がある」「黒いサブライダーの変身者は2号ライダーとはクラスメイト(チームメイト)の関係にあり、最終的には人間としても戦士としても大きく成長を遂げた」「ヒロインは気が強い性格の少女」「仮面ライダー達の変身ベルトや量産型ライダーを開発した悪徳大企業が登場する」「白い怪人の王が登場する」「陰鬱で暗いストーリーが展開される」「登場人物の全員が人間的に問題がある」「主人公とヒロインが1体の敵怪人に遭遇した際に主役ライダーが誕生した」「主人公の仲間がすれ違いなどで闇堕ち・敵勢力について主人公達と対立してしまう展開や2号ライダーとヒロインが死亡してしまう展開がある」「主題歌がJUSTから始まる」「前作が火属性の赤い龍がモチーフのライダーが主役の作品」といった多くの共通点がある。
仮面ライダーギーツ:次世代4番目の仮面ライダー。
仮面ライダーBLACKSUN:「人類と怪人の共存」がテーマの作品だが、こちらは『仮面ライダーBLACK』のリブート。
ニチアサ同期 | |
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30分前 | 爆竜戦隊アバレンジャー |
30分後 | 明日のナージャ |
平成ライダー
仮面ライダー龍騎 → 仮面ライダー555 → 仮面ライダー剣