異形の花々
いぎょうのはなばな
『仮面ライダー555』の並行世界を描いた物語。正式名称は『仮面ライダーファイズ正伝 異形の花々』。
筆者は『555』全話の脚本を担当した井上敏樹。
元々平成でも一二を争う程ノリの暗い『555』をよりダークにした作品で、血祭り上等の暴力表現やエロくない性描写等の苛烈な描写が大部分を占める(使徒再生が生易しく見えるレベル)。
当然ながら子供向け特撮としての映像化は不可能であり、ハードな作品が多いVシネのレベルすら軽く超越してしまっている。
かなり人を選ぶ内容である為、pixivでも作品投稿数は記事作成時点でたったの2枚、それも内1枚がR-18Gという始末。
「正伝」と付けている辺り、子供向けという制限を無視し、実現できなかった構想をありったけ詰め込んだ、より井上が考える本来の『555』に近い作品と言って良いのかもしれない。
ポジションとしては小学館スーパークエスト文庫版の『ジェットマン』に近い(こちらも井上敏樹が筆者となっている)。
スマートブレインという巨大企業の下で、オルフェノクによる人類支配の実現という壮大な思惑が蠢いていたTVシリーズと違い、メインキャラクターの身辺にスポットを当てた物語に終始している。
バトルシーンも少なく、オルフェノクという存在の異常性に翻弄される人々の薄暗い人間模様がメインに描かれる。
パラレル作品ではあるが、オルフェノクの出血の有無、オルフェノクの生殖形態等、原作では明かされなかった設定も本作なりに踏み込んでおり、ある程度は設定が共通しているので、井上・ファイズファンにも読み応えのある一冊となっている。
長らく絶版になっていたが、講談社キャラクター文庫から2013年1月31日に後日譚「五年後」が追加された文庫本『小説 仮面ライダーファイズ』として復刊された。
- ライダーズギア
原作ではスマートブレインが王の護衛の為に作り出した鎧だが、本作では逆にオルフェノクを狩る為に人間が開発したという、G3やイクサの様な立ち位置になっている。とはいえ、必殺技や武器等大まかなライダーの設定はテレビ版とほぼ同じ。
また、「五年後」では仮面ライダーカイザが量産され、対オルフェノク組織によって運用される。劇場版におけるライオトルーパーと対照的なポジションと言える。
全く登場しないが、復刊前の表紙には村上社長、ラッキークローバーのメンバー、アークオルフェノクが描かれていた。
原作とは異なる人物が変身する場合がある。
使徒再生については言及されておらず、原作において使徒再生で覚醒した海堂もオリジナルとして登場する。
また、主役3人には文化系の才能があるという設定になっている(木場は建築、結花はガラス細工、海堂は音楽)。
乾巧 / 仮面ライダーファイズ / ウルフオルフェノク
我等が猫舌たっくん。「人類史上稀に見る程の猫舌」と地の文に書かれた。とにかくムキになり易い。こちらでは何とギターの才能があり、海堂と真理のお墨付きである(TV版に出演した半田健人氏もギターが趣味であり、歌手活動も行なっている)。
本作のウルフオルフェノクには噛みつき攻撃が追加されている。
本作のヒロイン。毒舌だが面倒見は良い。
火災で両親を失ったという点はTV版と共通しているが、その際に少年が助けてくれたとの事。
久しぶりに再会した流星塾の先生から「塾生全員の里親が何者かに殺されていた」という事実を明かされ、その真相を突き止めようとする。
愛すべき馬鹿。雑誌を通してメル友になった結花と恋に落ちるが…(HNは『正義の味方』となっている)
友人に裏切られて殺され、オルフェノクになったのは原作と同じ(だが、やはり詳細な設定が全く異なる)。人間不信だったが、真理に思いを寄せ、巧等との交流により心を開く。こちらでもマンションで共同生活を送っている。
一応、本作のラスボス。でもそんなに悪い怪人ではない。草加の方がよっぽどヤバい。
本作のホースオルフェノクには角を伸ばす能力が追加されている。
父親には生まれる前に逃げられ、母親は出産の際にショック死、金目当てに引き取ったガラス工芸職人の義父からはいない者として扱われ、その娘(TV版と同じく名前は「道子」)からは散々に迫害された結果自殺にまで踏み切る。オルフェノクとなって復讐を遂げて以降、急速に暴力の渦に身を落としていった。真理曰く「物凄い美人」。
失語症であり、普段は手話や筆談で会話している。啓太郎と恋に落ち、彼との子を身ごもるが…
生前は動植物や母の彫像を作り上げる程ガラス工芸の類まれなる才能があった。
ムードメーカー。バス事故で命を落とし、オルフェノクとして復活したが、事故の生存者を救出する好漢として扱われており、「良いオルフェノク」の鑑の様な人物。こちらでも音楽の道を断たれている。
本作では巧との絡みが多め。
「勿論その友達ってのは女なんだろうな?美人でスタイルも良くて直ぐやらせてくれる女だったら付き合っても良いぞ」というセリフは伝説。
原作以上に陰湿・残忍・非道な人物として描かれており、「母親になってくれるかもしれない存在」である真理に対して暴力に及び、思いを遂げようとする。
その末路は因果応報というには余りに凄惨なものだった。加筆された「五年後」でもそれは変わらない。
ここまで歪んでしまったのはキャンプ中に起こったゴムボート水難事故で助けを求めた母親に我が身可愛さから切り捨てられ、流星塾生からはいじめに遭うなどの凄惨な人生を歩んだが故。
真理や草加と同じ施設出身の女性。健康的な美人。真理とは親友の間柄だが…
桑田家
10歳当時の真理を引き取った里親で、夫の正志と妻の礼子の二人家族。
郊外の森の奥に豪邸を構えており、何らかの実験をしていた。
躾は厳しく、真理からは距離を置かれていたが、本心では娘を思って行動していた。
ある時、何者かによって殺害され、流星塾に戻った真理は正志の兄を名乗る人物からファイズギア(作中では「ファイズツール」表記)を託される事になる(この事からファイズギア開発に関わっていたものと思われる)。
TV版と共通して上条晴子、犬飼彰司が登場。また、増田先生に当たる人物として新たに石橋が登場している。
全員、あるオルフェノクの襲撃に遭って死亡してしまう。
「五年後」に登場する、オルフェノクに敵対する組織(「オルフェノク対策委員会」)の兵隊達。血液を真っ黒いタールの様なエネルギー溶液に置換している。
文字通り血も涙もない連中で、魔女狩り同然のオルフェノク退治に明け暮れている。
オリジナルキャラ。「五年後」の事実上の主役。
オルフェノクの殆どは湧き上がる殺人衝動に抗えず、頭がおかしくなっている。
海堂や木場等は例外中の例外であり、多くのオルフェノクはケダモノの様な咆哮を上げて暴れ回る単なるモンスターと化している事が多い。まあ原作も大概そんなもんだが。
尚、原作とは姿が違うらしい面子や原作に無い能力を使う面子もちらほらおり、この作品のウリの一つ。
ナメクジのオルフェノク。真理に変質的な視線を向ける肥満体の変態親父が変身。長い舌と溶解液が武器。
ファイズのクリムゾンスマッシュで吹き飛ばされた。
公園で真理と木場を襲った牛のオルフェノク。鉄球を振り回して暴れ回る。
最後はファイズに滅多斬りにされて倒された。
全身を岩の様な装甲で覆ったコガネムシのオルフェノク。
タックルと猛毒の唾液でオックスオルフェノクを倒したばかりのファイズを甚振るが、突然現れたカイザにハチの巣にされた。
女性を襲おうとしていたカマキリのオルフェノク。
ホースオルフェノクに倒される。
木の上から突然現れ、結花を襲撃したサソリのオルフェノク。
こちらでは尻尾が生えているという設定。
「五年後」に登場した象のオルフェノク。歩き回るだけでバイクを横転させる程の巨体の持ち主だが、何者かにより呆気無く倒された。
ノベライズ どうしてこうなった 俺の知ってるのと違う お茶の間の良い子号泣シリーズ 鬼畜ヒーロー R-18G
パラダイス・ロスト/仮面ライダー913:同じく『555』のパラレル作品。
パラダイス・リゲインド:こちらは本編の正当続編だがVシネマ作品であるため規制が比較的緩くこちらに近い作風となっている。
講談社キャラクター文庫:前述通り、このシリーズから出版された『小説 仮面ライダーファイズ』はこの作品に後日談を追加したもの。このシリーズの他の仮面ライダー小説作品もこのリンク先を参照されたし。
小説仮面ライダー龍騎:同じく井上敏樹・著。当作以上に原作から設定が乖離している。
小説仮面ライダーアギト/小説仮面ライダーキバ/レンズの中の箱庭:こちらは井上敏樹が監修した小説ライダーシリーズ。当作程ではないが、これらも原作から乖離した設定が多い。