概要
原題:Jugendgedenken(独)
蝶や蛾の標本作りに熱心な主人公・「僕」は、隣に住むエーミールが持つクジャクヤママユの標本を盗み出し、破損させてしまう。取り返しのつかないことをした「僕」はエーミールに謝罪するが……
元々、この作品は『クジャクヤママユ(独:Das Nachtpfauenauge)』という題で1911年に発表された作品で、この『少年の日の思い出』は1931年に改稿されたもの。どちらもストーリーの流れは概ね同じだが、改稿作業に当たり、主人公・『僕』に設定されていた姓名が削られる(改稿前の『クジャクヤママユ』では、その名前がハインリッヒ(Heinrich)であることが言及されている)など数々の微細な変更がなされている。
ただし、現在原語版において全集などで入手可能なのは、改稿前のヴァージョンに当たる『クジャクヤママユ』が殆ど。ちなみに日本では、ヘッセのチョウを題材にした創作集『蝶(独:Schmetterlinge)(編:フォルカー・ミヒェルス(Volker Michels))』にて読むことができる。
2024年度(令和6年度)では、教科書検定に合格した全ての中学1年生向けの国語教科書(光村図書『国語1』・教育出版『伝え合う言葉 中学国語1』・東京書籍『新編 新しい国語1』・三省堂『現代の国語1』)にこの小説が収録されており、『走れメロス』『故郷』と並ぶ中学国語の定番教材となっている。
多くの日本人が初めて触れるヘッセ作品となっているが、本国ドイツではかなりマイナーな作品だったりする。
作中に登場する蝶と蛾
ヨーロッパでは蝶と蛾を区別しないので、作中では全ての種が蝶表記となっている。
皆さんご存知の潰された蝶。
ヤママユガ科の蛾の一種で、翅に目玉模様を持つ大型の蛾。日本には分布しない。
この小説が和訳された際に和名が付けられた。
下翅に黄色い模様をもつヤガ科(またはトモエガ科)シタバガ亜科に分類される蛾の一種。
日本国内では北海道・本州・四国に生息する。
現在ヨーロッパには分布しないとされており、作中に登場したものは以前は同種とされていたヨーロッパにも分布する近縁種のキララキシタバ(日本では北海道のみに生息)と推測される。
アゲハチョウ科の蝶の一種。
日本にも広く分布し、成虫は花の蜜、幼虫はセリ科の植物を食べる。
作中に登場したものはヨーロッパに分布する原名亜種のヨーロッパキアゲハと思われる。
オスが青い翅をもつタテハチョウ科 コムラサキ亜科の蝶の一種。
成虫は樹液を吸い、幼虫はヤナギ科の樹木の葉を食べる。
ヨーロッパに本種は生息しないので、作中に登場したものは近縁種のイリスコムラサキ(チョウセンコムラサキ)、またはイリアコムラサキ(タイリクコムラサキ)だと考えられている。