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「王様は人を殺します。」

概要

太宰治の作品でも代表作の一つに数えられる。

ギリシア神話のエピソードとドイツの著名な文学者、フリードリヒ・フォン・シラー(後書きでは「シルレル」と表記)による長詩「人質」がモチーフである。

太宰作品の中では初期、さらに後年ネガティブな作風が強まる中で、珍しく“人間賛歌”といえる明るい物語。著作権が切れている為、オンライン上で読む事が可能。


中高生の国語の教科書に載ることも多い。

モチーフとなったエピソードは当時は童話としても親しまれ、太宰の小学校(1916年入学)の頃,中学校(1923年入学)の頃には国定教科書にも載るほど有名だったが、現在ではほぼ本作に取って代わられている。

「躍り出る」という言葉があるが、この場合、ダンスをしながら現れるという意味ではなく、突然,勢いよくとび出すという意味なので、注意してもらいたい。


あらすじ

古代ギリシア時代のシチリア島。羊飼いの青年メロスは妹の結婚準備のために、シラクスの町を訪れたが、以前と違い町の人々の様子が酷く落ち込んでいる事に気づく。

そこでは人間不信に陥ったディオニスという横暴な王が悪政を敷き、人々を苦しめていた。

義憤に駆られたメロスは王の暗殺を計るも捕えられ、処刑を命じられてしまう。

しかし必ず処刑されに三日目の日没まで帰ってくることを条件に、シラクスで石工をしている幼馴染で親友のセリヌンティウスを人質にし、故郷の村に帰り妹の結婚式を行いたいと願い出る。

人間不信のディオニス王は無論、メロスが帰ると信じなかったが、これを機会に人間など信用ならない事を証明し、他人を信じる事のバカバカしさを市民に見せつけてやろうとの思惑からこれを許可する。

王宮に呼び出されたセリヌンティウスはメロスの願いを快諾し、そのまま王に捕らえられる。故郷の村への帰還と式の準備と結婚式に2日をかけたメロスは同時に妹夫婦に対し、自分の財産の全てを相続させることを約束する。3日目の朝、妹夫婦の幸せな姿を見届ると、その足でメロスはシラクスへ走りだす。

途中、川の氾濫、森での野盗の襲撃など数々のアクシデントに遭い、心が折れ掛けるも、親友との約束を守るべく最後の力を振り絞り、遂に三日目の日没に間に合う。

公開処刑場に飛び込んできたメロスはそこでセリヌンティウスと熱い友情の抱擁を交わし、市民たちは喝采する。それを見た王も改心し、二人を赦して称えた。


寸評

好青年が人間の善性を、シラクスの王が悪性を体現した分かりやすい物語。

単純な勧善懲悪に留まらず、メロスの心境の変化をつぶさに描いた内面の描写も注目すべき点だろう。

また物語を描写する文面も、時折メロスを賛じており、臨場感を強めている。


後世、分かりやすいネタとあって、様々な想像の源泉に用いられている。

走れよメロス

 一般財団法人 理数教育研究所が開催した「算数・数学の自由研究」作品コンクールに入賞した「メロスの全力を検証」において、「メロスはまったく全力で走っていない」という考察になり、研究結果が話題になった。


 メロスは作中、自分の身代わりとなった友人を救うため、王から言い渡された3日間の猶予のうち初日と最終日を使って10里(約39キロ)の道を往復する。研究ではこの道のりにかかった時間を文章から推測。例えば往路の出発は「初夏、満天の星」とあるので0時と仮定、到着は「日は既に高く昇って」「村人たちは野に出て仕事を始めていた」とあるので午前10時と仮定したらなんと、距離を時間で割った平均速度はずばり時速3.9キロ。


うん、歩いてるね!


 メロスは復路の日、「薄明のころ」目覚めて「悠々と身支度」をして出発し、日没ギリギリにゴールである刑場に突入する。

彼は北緯38度付近にあるイタリア南端の夏至の日の出がだいたい午前4時、日の入がだいたい午後7時と目星をつけ、考察を開始。復路では途中、激流の川渡りや山賊との戦いといったアクシデントがあり、これらのタイムロスも勘案してメロスの移動速度を算出した。


 その結果、野や森を進んだ往路前半は時速2.7キロ、山賊との戦い後、死力を振りしぼって走ったとされるラストスパートも時速5.3キロと、思った以上に「ゆっくりしていってね!」な移動速度が算出されてしまった。


走ってないじゃん。


ちなみに、フルマラソンの一般男性の平均時速は9キロ。

走るなメロス

TV番組で、アナウンサーの安住紳一郎が、明治大学の教学者斎藤孝教授と学生を前に、太宰治の「走れメロス」をテーマに授業をした。安住は、メロスの走る速度を“沈みゆく太陽の10倍の速度で走った”の表現について言及した。

太陽の速度は地球の自転速度であり、時速1300km。これは新幹線の44倍の速度、100m走だと時速0.02秒、メロスは世界最速の男ウサイン・ボルトより超速く、このスピードで走れば、周辺2km四方には衝撃波がおこり、凄まじい風と音で物は破壊される事が判明した。

相対性理論

理論上では、新幹線に100万年間停車せずに乗ると1秒先の未来に行くことができる。

上記の「新幹線の44倍の速度」をもとにするとメロスは2万2727年で一秒先の世界に行けることになる。メロスはタイムマシーンであった。

こんな時空を移動しかねないやつを走らせてはならない。

メロス!!!!走るな!!!!

歴史

元となったピタゴラス教団のデーモンとピシアスの逸話を語るギリシャの古伝説には大きく分けて二系統の説がある。

  1. 暴君はディオニュシオス2世で、ピタゴラス教団が触れ込み通りに立派なのか宮中で論争になったので追い詰めてみる実験を行い、事件後に仲間に入れてほしいと言ったが断られた
  2. 暴君はディオニュシオス1世で、実際に暗殺計画があったので死刑を言い渡し、事件後に仲間に加えられたかどうかは不明

1.はディオニュシオス2世から直接聞いたとされる話だが、2.よりも後の資料に孫引きの形でしか現存せず、そもそも当事者の一方の話を鵜吞みにしてよいのかという問題からか、その後の創作などでは2.がベースになることが多い。

本作のベースとなったシラーが参照した伝承は、2.の系統の流れを汲むがピタゴラス教団の解説がなく名前すら全然違う実はかなりの変わり種である。

その後もラテン語への翻訳の際にどちらが釈放された方で人質になった方かの情報が消えたり、さらに英語圏に導入される際に名前が取り違えられたりと変化を続けながらも明治初期に日本に入り、修身の教材や読み物として昭和期まで割とメジャーな伝説だった。

主に人質側が待つ間に焦点が当たり、王との問答を通して「友は必ず戻ってくる、万が一不慮の事故で遅れたとしても友の身代わりに死ぬなら本望」と信じて疑わない強さを示し、

また前述の2.の設定を基にしながらも暗殺を試みた相手に友情を求めたら暴君どころか器の大きな人物にしか見えないという配慮か罪の詳細をぼかしたり、王が仲間に入れてほしいとまでは言わず王の栄華はあっても友情を得られない我が身と比べ羨むに止める等のパターンが多かった。

その中で本作はシラーの詩をベースに一時釈放された側に光を当て、疲労で倒れる時には裏切りまでも頭に過る、王と同じ弱い人間ながら踏みとどまったからこそ暴君の猜疑心を溶かし得たという図式となっている。

元のデーモンとピシアスの古伝説は戦争の影が濃くなる中で児童劇としてピタゴラス教団の輪廻転生思想を強調して命を惜しまない文脈で用いられたり、「羅馬の武士」という敗軍の責任で処刑される将軍として翻案した劇があったりしたりと軍国主義教育に利用された反動からか、

戦後は本作の同時期に発表された村岡花子作の「友のいのち」が道徳教材に残る程度でほぼ本作に一本化されている。


余談

太宰文学の中では珍しい明るい話であるが、この話が書かれた経緯は、まさに人間の屑・太宰の本領発揮とでも言うべきものである。

  • 妻子をほったらかして温泉で遊びほうけ、費用が払えずにいたところ、
  • 太宰の妻に頼まれて彼を連れ戻しに来た友人を身代わりの人質にして「金を工面してくる」と言って逃げ出し、
  • そのまま数日経っても音沙汰がない。業を煮やした友人が、旅館と飲み屋に支払いを待ってもらって工面先に駆け付けてみたところ、将棋を指して遊んでいたというのである。一応、本当に金を借りに行ったのだが、相手に「金を貸してくれ」と言い出せないまま、この有様となったらしい。

これを知ってマジギレした友人に対し、「待たせる方だって辛いんだ」と逆ギレしたばかりか、この顛末を美談の小説に仕立てて発表してしまうのだから、神経太いってレベルではない。

オマエが走れ!


ただし、この「友人」とは、連日のように太宰と飲み歩き、「君は天才ですよ」「君なら芥川賞を取れるよ」と散々おだてるなどして「太宰治の腰巾着」と揶揄された事でも有名な作家の檀一雄(何故、そんなヤツに太宰を連れ戻しに行かせた??)。

「最後の無頼派」とも言われ、後に「火宅の人」(妻子をほったからして、女遊びをしたり、放浪を繰り返す作家を主人公にした小説)を書いただけあって、この一件でも太宰の妻に往復の交通費と宿代までもらって連れ戻しに来た筈なのに、当の太宰に誘われるまま、一緒に遊び歩いてツケを増やした末に、人質にされると言う始末。どっちもどっちである


とはいえシラーの詩の時点で本作の骨子は完成しており、小説という根本的な違い以外の大きな違いは

  1. 主人公が政治がわからぬ牧人と石工
  2. 山賊を王の差し金かと疑う
  3. 倒れたメロスに悪い夢が過る
  4. 処刑の現場に王が立ち会っている
  5. セリヌンティウスも疑ったことを謝罪
  6. メロスが裸になっている

程度で、太宰の経験の反映自体は大きくはないと思われる(おそらく3・5のあたりか。

しかし、2・4・5に関しては同じデイモンとピティアスの伝説を題材にしたジョン・バニムの戯曲に似た箇所があるという指摘もある)。


熱海事件が本作の経緯であるというのは檀一雄による推測であり、本作とデーモンとピシアスの古伝説の知名度の差が天と地ほどに開いた現在とは違い

当時の大前提としてこのギリシャの古伝説は明治以来連綿と教科書に載り続け、本作の二年前にも村岡花子による童話も発表されている有名説話の1バリエーションに過ぎなかったことも考慮に入れる必要があるだろう。


とは言え、作中の冷静に考えると「ん?」となるような展開や台詞や地の文に関しては「壇一雄を見捨てて逃げた経験が反映されている」と仮定すると納得出来るモノが有ったりするので、真実は読者各自の胸の中にこそ有るのかも知れない。


意外と知られていないが、この物語をモチーフにしたパチスロが存在する。


関連タグ

文学 小説

太宰治 古代 ギリシャ


蒼き流星SPTレイズナー(バンド「Airmail from NAGASAKI」によるOPの曲名が「メロスのように」)

雛苺(2ch全AAイラスト化計画):何故か今作の序文を改変したコピペがある。

ダモクレスの剣:王がどんな心構えで人間不信に陥ったか

椎名真冬:彼女にとって本作はBLの基本らしい。


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