概要
先生の息子で、非の打ち所のない模範的な子供。だが僕(主人公)は彼を認めているものの、嫉妬している状態。僕が珍しい青いコムラサキを彼に見せたとき、彼は20ペニヒほどの値打ちがあるといったが、その後難癖(客観的に見てもっともな欠陥を指摘しただけで正当な評価だと主人公自身も認めていたが)をつけたため、僕は彼に二度と獲物は見せなかった(20ペニヒはノート2冊分の値段)。蝶に関する知識も豊富で、クジャクヤママユの孵化に成功するが・・・?
人物評
主人公は彼のことを「非の打ち所がないという悪徳」を持った少年だと評しているが、要するに主人公から見ていけ好かない、気に入らないというだけのことで、彼自身は作中では何も悪いことはしていない。
せいぜい主人公の見せた蝶の標本に対して辛辣な批評をしたり、主人公の謝罪に対して冷淡な対応をしたりしたくらいだが、前者については率直で正当な評価をしただけでもっともな欠陥だとは主人公自身も認めていたし、後者に関して言えば、長年かけて手に入れた大切な宝物を欲に目が眩んで台無しにした加害者に対して寛大になれないのは当たり前のことである。
また、彼は主人公が見せた蝶について金銭的な面から批評をしているため、主人公と比べて蝶に対して冷めている印象を持たれるかもしれない。
しかし、実際には目当ての蝶を手に入れるために多大な時間と労力を費やして卵から育てたり、その蝶の標本が破損させられてしまった時にはなんとか修繕しようと夜遅くまで頑張った様子が見られたりと、蝶に対する並々ならぬ強い思い入れと情熱を持っていることがうかがえる。
主人公は自分だけの基準で蝶を愛し、他人からの客観的に見た批評を受け入れられない(だから蝶を自分だけの宝物として妹たち以外には滅多に見せず、エーミールからの正当な評価に傷つけられた)のに対して、エーミールは個人的に蝶を愛しながらも同時に客観的に見た価値を理解しているのだ。
そんな彼が、自分が長年苦心して手に入れた標本を努力もせずに盗んで得ようとした挙句、蝶の愛好家とも思えない雑な取り扱いで修復不可能なまでに破損させ、その償いを手垢まみれの中古の玩具や高いものでもせいぜい20ペニヒ程度の標本の寄せ詰めといった他人にとってはおよそ何の価値もない代物で済ませようとする少年のことをどう思ったかは、推して知るべしといったところであろう。
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