カイガラムシ
かいがらむし
カメムシ目の中のカイガラムシ下目(Coccomorpha)に属する昆虫群、英語では『scale insect(鱗の昆虫)』と呼ばれるもの。現在知られているものだけでも7000を軽く上回る種が存在し、その生態や見た目は種によってまちまちである。1つの科どころか1つの上科に分類するのも難しいが、一応カイガラムシ上科(Coccoidea)にまとめるものとする。分類としてはキジラミやアブラムシに近い。
化石では前期白亜紀から存在しているが、この時点で既に多くの種類が存在していた経緯から起源はもっと古いとされる。
全て草食(一部には菌類を食べる種も確認されている)であり、口吻を植物に刺し1箇所に留まって主に師管からの汁を吸う。汁から濾された不要な分は甘露として体外に排出される。
多くの種ではメスが成長過程で脚を失い、1齢幼虫の時のみ脚で動き回れるパターンがよく見られる。体節や複眼すら消失するものもいる。例外として、コナカイガラムシ科や、ワタフキカイガラムシ科、ハカマカイガラムシ科の仲間などはメスでも動き回れる。
オスは成長過程で擬似的に蛹のような状態になる。だがカイガラムシは不完全変態の昆虫であり、これは蛹に似ているだけで厳密には蛹ではない。基本的には脚は残しており、成熟すると脚だけでなく翅も生やすものもいるが、中には成熟前までは脚を失くす種もいる。成熟したオスは食事を行わなくなり、交尾だけしてすぐ死んでしまう。
何にせよ、カメムシ目の中でもあまり動き回らないように特化した進化をしている。
ほぼ移動しないこの虫は、体表を『虫体被覆物』と呼ばれるカイガラムシ特有の蝋のような物で覆い身を守る。カイガラムシが主食とする汁に含まれる栄養は殆どが糖分であり、必須アミノ酸に乏しい。過剰な糖分は一部は甘露として排出され、一部は蝋状の分泌物として虫体被覆物となる。この分泌物が魚の鱗だったり貝殻だったりに見える様子から、この名前が付けられている。
甘露は蟻にとって魅力的な餌であり、時に蟻はこの甘露を出してくれるカイガラムシを保護する。
農作物を食害する他に甘露がカビの原因となるなど、害虫扱いが多い。代表的なものとしてイセリアカイガラムシは柑橘類を主にいくつもの木々が犠牲となる。封じ込めは難しく、農薬を使っても蝋のような虫体被覆物の所為で効果がかなり限定的になる。より効果的なものとしてはマシン油乳剤により窒息させる、植物の中に浸透するアセタミプリドを使う、寄生蜂やテントウムシなどの天敵を放つなどがある。界面活性剤も効果があるらしき話がある。
一方でカイガラムシ自体が侵略性植物に対する対抗手段として用いられるケースもある。
また、虫体被覆物が重要な資源となっている場面もある。コチニール色素はカイガラムシ産の色素としてもっともよく利用され、色のクリムゾンやスカーレットの語源はカイガラムシから来ている他、この色素が取れるカイガラムシは別名を臙脂虫と呼ぶ。他にもいぼた蝋を生み出すカイガラムシがいたり、シェラックを生み出すカイガラムシもいる。