概要
腕虫。それはウデムシ目に分類される節足動物。
「虫」とはつくが昆虫(六脚亜門・昆虫綱)には属さず、クモやサソリと同じ脚8本で、鋏角類のクモガタ類(鋏角亜門・クモガタ綱)に属する。
150以上の種が知られ、世界中の熱帯地方を中心に広く分布するが、日本には分布しない。
このとおり種類は多いがウデムシ目はウデムシ以外に該当する存在がいないという固有の特徴がある。
名前について
日本語では「腕虫」と見たまんまの名前がついているが、学名は「Amblypygi(鈍い尻尾)」、英語は「Whip spider(鞭のあるクモ)」や「tailess-whip scorpion(尻尾のないサソリモドキ)」と呼ばれ、見事な"腕"を差し置いて別の視点から名付けられている。
英語名に反してクモとサソリモドキのどちらにも属さないが、どちらもウデムシの近縁であり、特にサソリモドキとの共通点が多い(物を掴む用の触肢・触角状の第1脚等)。一方、日本語では「カニムシモドキ」という別名があるが、カニムシとは言うほど似ておらず、特に近縁ですらない。
形態
体はせいぜい数cm以下だが、第1脚を広げると数十cmに及ぶ大型種もいる。
偏平な体と長い脚を持つ。触肢(牙と第1脚の間の肢)はよく発達して強大な鎌状の腕となっており、鋭い棘が生えている。腕が長い種類の方が一般に知られるが、実際は短い種類の方が多い。
クモガタ類なので8本脚であるが、そのうち第1対目が体長と比較にならないほど長く、触角のような感覚器に変化し、残り6本の脚だけで自立するのも特徴である。
なお触肢の間の口元(鋏角)にクモと似た牙を持つが、毒はない。
甲羅の先頭には8つ(中央2つ、左右各3つ)の単眼を持つが、視力はあまり良くなく、退化消失した種類もいる。
生態
陸棲で、クモ等と同様腹面の書肺で呼吸する。夜行性で昼間は物陰に隠れ、樹皮や洞窟で活動する。
肉食であることと禍々しい外見の裏腹に、性情は大変大人しい。普段は緩やかに歩くが、いざ逃走や捕食になると瞬間移動のように素早くなる。ただしずっと走り回るようなことはなく、瞬時に視界からいなくなる程度。
悪い視力の代わりに長い第1脚で獲物の位置を察しては、瞬発に飛び出して口元の牙と触肢でそれを捕食する。
求愛の際に婚姻ダンスをすることもあり、雌は卵を腹に、幼生を背に付けて保護する。第1脚で同種と交流し、洞窟で集団生活を送る種類もいる。またアシダカグモのように天井から逆さまにぶら下げて脱皮する。
寿命は数年以上、性成熟以降でも脱皮・成長し続ける。
人間との関わり
上記の生態に加えて毒も無く、人間に無害な動物である。むしろ人間にとっての害虫も積極的に捕食する益虫の側面の方が強い。
その異様な外貌から、日本ではヒヨケムシ、サソリモドキと並んで「世界三大奇虫」と呼ばれ、共に虫系ペットとして流通することがある。飼育は特に難しくはないが、長い脚を持つ上に天井から逆さまにぶら下げて脱皮するため、容器に充分な高度を確保する必要がある。
中ではタンザニア産で、黒い体に黄色い縞模様を持つ Damon diadema という種が特によく知られている。
海外では一時期、悪質な飼い主により逃げ場のない状況で過剰に刺激されてパニックで悶絶しながら反撃するウデムシの映像がネットで拡散され、風評被害を受けてしまったことがある。ほかにも後述のように映画やゲームでも凶悪だったり奇怪な存在として描写されることがあり、なにかと誤解を招きやすい。
どんなに大人しい生き物でも、過剰なストレスは精神を歪め攻撃的にさせてしまうもの。相手がどんな存在でもそのような真似は絶対にしてはいけない。それが悪い印象を助長させる行為なら尚更である。
各言語での呼び名
言語 | カナ表記 | 綴り |
---|---|---|
ヨーロッパの言語 | ||
イタリア語 | ラーニョフルスタ | Ragno Frusta |
英語 | ウィップスパイダー | Whip Spider |
オランダ語 | ズウェープスピン | Zweepspin |
スペイン語 | アラニャラティゴ | Araña Látigo |
ドイツ語 | ガイセルシュピネ | Geißelspinne |
ハンガリー語 | オシュトルラーブー | Ostorlábú |
フランス語 | アレニェドゥフエ | Araignée de Fouet |
アジアの言語 | ||
インドネシア語 | カラチュムティ | Kala Cemeti |
韓国語 | チェチクコミ / チェッチクコミ | Chaejjik Geomi / 채찍거미 |
タイ語 | メーンムムセー | Maeng Mum Sae / แมงมุมแส้ |
中国語 | 鞭蛛(ピェンチュー) | Bianzhu |
ベトナム語 | ニェンゾイ | Nhện roi |
ラーオ語 | メーンムムセー | Maeng Mum Sae / ແມງມຸມແສ້ |
アフリカの言語 | ||
スワヒリ語 | ブイブイムジェレディ | Buibui-mjeledi |
人工言語 | ||
アルベド語 | フベツキ | Fubetsuki |
オーレー語 | アヴオータキベーウエアオイ | A-vuootakibeeueaoi |
グロンギ語 | グゼルギ | Guzerugi |
ソルレソル | ファレソルラドレファレシ | Faresolla Dorefaresi |
ひんたぼ語 | エト゚メス | Etumesu |
フィクション・創作関連
- ベルバーワーム(仮面ライダーカブト)
- ウデムシがモチーフの怪人。
- ハリー・ポッターと炎のゴブレット
- 映画版ではウデムシそのまんまの姿の動物が登場するシーンがあるが、原作ではウデムシではなく実在しない架空のクモとされる。
- リベレーションズ2(バイオハザードシリーズ)
- ウデムシそのまんまの姿でウイルスによって著しく巨大化し繁殖してしまったクリーチャー。ウイルスの影響で狂暴になっており、生態に詳しくないプレイヤーに現実のウデムシへの風評被害を植え付けてしまった。
- リリアナ・ピナータ(Death end re;Quest2)
- バグゥモチーフはウデムシ。ウデムシを「さん」付けで呼ぶ位に好きで、ポケットの中に入れて持ち歩いている。