概要
英語名から転じてビネガロン(vinegaroon)、ムチサソリ(whip scorpion)とも呼ばれる。
名前に反し(むしろ名前通りと言うべきか)サソリではなくクモやウデムシ・ヤイトムシ等に近縁で、特に細部は後者との共通点が多い(捕獲用の触肢・触角状の第1脚・酸性液体の噴射能力等)。
ヨーロッパ、オセアニアを除いて各大陸の熱帯域から100種以上知られている。日本ではウデムシやヒヨケムシとあわせて「世界三大奇虫」と呼ばれるが、海外だけに分布するウデムシやヒヨケムシとは異なり、サソリモドキは日本にも分布する種類がいて、アマミサソリモドキとタイワンサソリモドキの2種が確認されている。
形態
ウデムシやヤイトムシほどではないが、第1脚は触角状の感覚器で長く伸びている。ウデムシと同様体は上下に平たく、口元の鋏角はクモと似た牙を持つが毒はなく、甲羅に生えている単眼は1対を先頭に、3対を左右に持つ。また触肢(鋏角と第1脚の間の肢)はサソリの単なるハサミと違って3本の太い爪を持ち、尾はムチのような形状でサソリのような毒針ではない。ただし、原始的な化石種の触肢は前述したような棘を持たない。
微小で色薄い近縁であるヤイトムシと違って、体長は尾を除いても2~8cm程度の大型、全身の外骨格は黒くて丈夫である。外見は体を縦に伸ばして尾を足したウデムシとも言えるだろう。
生態
夜行性・捕食性・悪い視力・触角状の第1脚で周りを感知(残り6本の脚だけで歩く)・子供を負って保護するなど、ウデムシと似た性質が多い。尾はサソリのような武器ではなく、第1脚と同様センサーとして機能する。
そして触肢の3本爪は先端2本がハサミのように働くが、捕食では全ての棘で獲物をしっかりと囲みながら、付け根の歯車型の棘に押し込んで握り潰す仕組み。
ほとんどのクモガタ類と同様、口から消化液を分泌し、捕獲した獲物を弱らせつつ自分が食べやすいように、口外で獲物を直接消化しながら捕食するのだ(これには液状化しないと食べられないというクモガタ類の事情もある)。
危険を察すると触肢を広げながら腹部を高く上げて、尾の付け根から強烈な酢の匂いがする酸性液体を噴射。ビネガロンという英名はこの特徴に由来する(vinegar=酢)。
求愛
雄が触肢のハサミで雌の第1脚を掴んでキスしては、雌がまた触肢で後ろから雄の腹部をハグする。最後は交尾ではなく交接で、雄が精包を排出し、触肢でそれを雌の生殖器にぶち込む。
人間との関わり
無毒で大人しい性質ということもあって基本的には無害。しかし上記の噴出物は皮膚や目に有害な刺激性を持つので注意。直接皮膚に浴びるとかなりの熱があり、場合によっては火傷や皮膚炎、目に入ると最悪失明の危険性もある。
これらの事から、遭遇した場合は刺激しないのが大切だ。
一方で、その奇妙な容姿が注目されており、稀にペットとして流通する事もある。
虫王や虫皇帝等にも度々参戦し、強烈な酢酸攻撃でオオスズメバチやハラビロカマキリ、ノコギリクワガタ等を撃退した。
酢酸は大型のサソリやムカデはおろか、パラワンオオヒラタクワガタとヘラクレスオオカブト等にも有効で、戦意を喪失させる威力を誇る反面、ヒヨケムシやヤブキリ等には通用しないという話がある。