概要
動物が昆虫を食べること。広義の肉食に含まれる。動物が虫(昆虫以外も含めて)を食べることは野生動物では普通であり、人間が虫を食べるという文化も古くから普通であった。(ちなみに、そもそもサルから進化したヒトの唾液には不十分とはいえ昆虫の殻を消化する成分が含まれており、意外にも昆虫食に向いている。)
食用昆虫にはタンパク質と脂質が相当含まれていて、前近代に不足しがちだったこれらの栄養を補う面があったとされる。
日本の長野県周辺のほか、中国、ベトナム、タイの各一部地域、中南米各国、アフリカなど世界各地で昆虫食文化が発達したが、畜産の発達で良質なタンパク源の食肉が安く豊富に手に入るようになったこと、キリスト教とイスラム教の文化圏であまり食べられなかったこと(イスラムではバッタのみ可)などにより、昆虫食は廃れる傾向にある。この結果、世界の大半で昆虫食はなじみがなく、心理的に忌み嫌われるようになっている。ディストピアものでも昆虫が主食の世界がしばしば描かれる。
前近代には食用昆虫の養殖はあまり行われていなかったが、現代では食用昆虫は家畜や魚より養殖が簡単で環境負荷が低いという説がある。また、大規模な設備が必要ないので宇宙食にもなるとも見られている。
2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が推奨を行った事で、食糧危機への対応として注目を集めた(現実的にどうなのかについては後述)。
昆虫は甲殻類アレルギーを持つ人が食べるとアレルギー反応を起こす可能性もある。野生の昆虫を捕獲する場合は農薬や殺虫剤で汚染されていないか配慮する必要がある。昆虫自体が毒を持つ種類もある。ただ、身近な昆虫の場合、どの種類が毒を持つか無毒かは大体判明している。
実際に食べる場合は昆虫をある程度絶食させてフンを出させるか腸自体を除去し、トゲや針などの食べられない(食べにくい)部分を取り除いて、病原菌や寄生虫を防ぐため十分に加熱して食べるのが基本である。
なお、昆虫食の流行により、かねてより指摘されている「昆虫カタストロフィ」の問題とからみ、乱獲されてますます数が減ってしまわないか心配する向きも見られる。
代表例
アリ イナゴ イモムシ ガ(カイコ) カメムシ カミキリムシ(テッポウムシ) コオロギ ゴキブリ コガネムシ ゲンゴロウ セミ ゾウムシ タガメ ハエ ハチ バッタ
イナゴの佃煮/ハチノコ(成虫のクロスズメバチ含む※)/ざざむし(カワゲラ/トビケラの幼虫)/カイコのさなぎ…日本の伝統料理。
※長野県及び岐阜県南東部で食用の習慣があり、わざわざ養殖したり、愛好家集団が休日に採集したりしているが、このハチは長野県に隣接する静岡県では茶の害虫駆除の役割をもつ益虫なので、越境して採集に来る愛好家に対し茶農家が警戒している。
飛蝗…移動能力が発達したバッタが異常発生する現象。大量発生したバッタは固く肉が少なく食用には向かないが、飛蝗により飢饉が発生するためそれでも食べることは多かった。
昆虫以外
サソリ クモ ムカデ :「昆虫」でなく節足動物。エビやカニは高級食材の一方で陸生種は不評。
カタツムリ(エスカルゴ):陸生の巻貝。フランス料理で一般的な食材。
日本での取り扱い
戦前の日本ではイナゴ、はちのこ、カイコのさなぎ、カミキリムシの幼虫(テッポウムシ)、ザザムシ、セミ、ゲンゴロウなとが食べられていた。
ただ、当時でも日本中で食べられていたわけではなく、イナゴなどの昆虫は非常時にしか食べない地域、非常時でも食べない地域もあった。
戦後には昆虫食は下火になるが、現在でもイナゴ、はちのこ、カイコ、ザザムシは一部で食べられていて食品として販売しているところもある。
インターネットの普及で一部の着色料にカイガラムシなど昆虫が使用されていることが知られるようになり、「検索してはいけない言葉」にも入ったりした。テレビ番組では世界のゲテモノ料理特集や、罰ゲームとして取り上げられる事が多かった。
2020年代からSDGsの目標のひとつ「飢餓をなくす」の一環として昆虫食(主にコオロギ)はクローズアップされており、環境負荷の低さから「食料危機の解決策」と注目もされ、敷島製パンによるコオロギの粉末を練り込んだパンや菓子、無印良品の「コオロギせんべい」などの商品化が報道され、最近のバラエティ番組やYouTuberの動画では普通に食べてみて「美味しい」と表現したり、味の詳細を真面目に(「食べてみたら不味かった」ということも含めて)伝える食レポが多くなっていた。芸能人でも井上咲楽や川栄李奈らが昆虫食が好きである事を公言した。
こうして、昆虫食定着の流れが加速昆虫食定着の流れが加速…しなかった。2023年、徳島県の学校で希望者に昆虫食をさせたことが拡散され炎上。もともと現代日本で虫嫌いの人が多いのに加えて、さらに政治的立場が異なるはずの大手メディアがそろってSDGsゴリ推し宣伝をしている異様さが認知され始めた時期、昆虫食推進と畜産業へのネガティブキャンペーンが一体であったことにより、「畜産肉を食うやつは非国民、ぜいたくは敵だ」「貧乏人(あるいは全国民)は虫を食え」のディストピア飯推進キャンペーンと受け取られた。この件でかすかに芽生えていた大衆的支持を一気に失った。
もともと小さいので腹に溜まり辛い上逃げやすい昆虫の生産効率の悪さからくるコスパの悪さは如何ともしがたく(生産コストは同等の食肉との比較で10倍以上)、環境負荷の低さにも疑問があり、畜産の代替としては否定的な見解も多い。
食用昆虫の通年生産には気温を一定に保つため保温や冷房が必要だが、推進論者の主張はこれを無視していることが多い。また昆虫養殖のメリットとして残飯の利用も可能というのが挙げられるが養豚でもそういった取り組みは行われている。
極端な意見だが、10倍のコストがかかるのであれば昆虫食を諦めてその10倍のコストを用いて他の食肉産業を増産させる方が現実的であるとも言える(10倍までいかずとも数倍増産できるだけでもかなりの食糧問題は解決できるため)。
したがって畜産の代替などひもじい戦時下の代替食のようなものではなく、食道楽向けの高級珍味路線への再編が求められるだろう。
注意点
上記のように日本ではゲテモノ食という扱いをされている昆虫食であるが、最近では忌避感が強すぎるあまりに「昆虫は人間が食べるものではない」のような過激な意見も見られるようになってきている。
前述のように世界では少ないながらも一般的に食べられる国もあり、日本国内でも蜂の子やイナゴなど一部の昆虫に関してはある程度流通・普及している為、上記のような発言は世界の国々だけでなく同じ日本人の食文化すら否定しかねない。
というか、日本も世界では食べられる国の少ない蛸やワカメ、ゴボウなど一般的に食べている国であるなど、とても人(他国)の食文化の事を言える立場ではない。
ゴリ押しのようなマーケティングなど日本で行われている昆虫食の普及のさせ方にも問題があるのは確かであり、それらやそもそもの虫の見た目の気持ち悪さなどもあって忌避感や嫌悪感が出るのは仕方ないのだが、だからといって昆虫食という文化そのものの否定はしないよう注意が必要である。