概説
食べ物として「肉」と言う場合は鳥獣のものを指すことが多く、魚介類の肉などとは区別される。
洋の東西を問わず、人間の好物のひとつである。
日本人と食肉文化
奈良時代より前においては、肉食は日本人にもごく当たり前の習慣だった。ただ神道由来の「ハレとケガレ」の観念から、「肉断ち」の俗信そのものは存在していた。
奈良時代に仏教が「国家の学問」として普及されると、仏教の「不殺生」の戒律が拡大解釈されることになり、先の「ハレとケガレ」の概念も手伝って、公での肉食は避けられていくようになる。
勅令によって「肉食禁止令」が発動した回数もかなりの回数に上る。禁止令が多く発令されたということは、それだけ肉を食べる者が多かったということでもある。
これにより、百姓や町人の多くは肉を口にすることが少なくなったが、山間で狩猟を生業にする者は野生動物の肉が日常食であったし、農村でも被差別部落の住民は牛馬の肉を食べるなど、肉食は生きていた（彼らの肉食は「ケガレ」の観念とも結びついて差別の要因にもなった）。
鎌倉時代になると新仏教運動が盛んになり、これらのなかには戒律を否定し、浄土真宗のように公然と肉食妻帯をする派閥も現れた。また、「薬食い」と称されて武士は(日常的ではないにしろ)肉食をしていた。
魚肉については禁止の対象となることはあまりなく、特に海に近い沿岸部では食べられていた。また、鯨肉（イルカ肉も含む）は、魚の一種とされた。鶏は、日の出を告げる神聖な鳥であるとして食べることは禁忌であったが、鶏卵については、無精卵からは雛が孵ることが無いことが知られるようになると、殺生に当たらないとして、食べられるようになった。狩猟された野鳥肉は、それなりに食べられていた。九州南部や沖縄では、肉食が盛んであり、養豚が広く行われていた。
江戸時代になってからも、しばらく肉食は下火であったが、江戸時代の終わりごろになると、適度な肉食は体に良いと知られるようになり、各地に肉料理の店ができ、町人たちも滋養強壮の栄養食という位置づけで牛鍋などを味わうようになった。また、江戸や大阪などの都市部では闘鶏が盛んとなり、鶏（軍鶏）の飼育が盛んになると、これの肉も普通に食べられるようになった（軍鶏鍋）。徳川慶喜などは、薩摩から贈られる豚肉が好物であったので、豚一様（豚肉が好きな一橋様の意）と渾名された。
肉食の完全解禁は明治時代を待つことになるが、洋食はすぐには一般化せず、江戸時代以来の和食に、肉を材料として取り入れる事が、まず行われた。その代表が牛鍋に端を発するすき焼きである。大正後期から昭和に入ると、中国料理や、西欧のカツレツを先祖にするとんかつなどが普及していく。昭和の時代には韓国料理や西欧以外の肉料理も取り入れられた。
こうして数多くの肉料理が誕生したが、まだ歴史が浅いため、レパートリーの試行錯誤が続いている。
ちなみに関東では豚肉が、関西では牛肉が好まれる傾向がある。これは関西はじめ西日本では農耕で力が強い牛が使われたことに関係する。一方で関東はじめ東日本では農耕には素早く動ける馬が使われていた（東日本では春から農繁期までの期間が西日本より短いので早く作業をする必要があった）。そのため関東等では馬肉が比較的ポピュラーだったのだが（現在でも山梨県や長野県では馬肉が郷土料理やお土産などで多いのはこの名残）、馬からとれる肉は少なかったため、代わりに明治以降は豚が使われるようになったためである。
