概要
1983年から小学館「ビッグコミックスピリッツ」にて連載が開始された漫画。
グルメ漫画および日本のグルメブームの中心となったと一般に言われている。
ストーリー
東西新聞文化部に勤めるグータラ社員山岡士郎と新人の栗田ゆう子がひょんなことから社の記念事業『究極のメニュー』作りを進めることになる。最初は士郎のだらしなさに辟易していたゆう子だったが、彼の持つ知識や生い立ち、様々な出来事を通じて良いコンビとなっていく。
当初は登場人物の抱える問題を食を通じて解決するストーリーだった。しかし途中で東西新聞のライバル社が『至高のメニュー』を発足させ、絶縁状態の士郎の父海原雄山がそれに関わってくると士郎と雄山の対決や親子の確執が物語の主軸になっていく。
内容
登場する料理の幅は非常に広く、和、洋、中、アジアなど様々な国々の料理が、高級、安価の別なく紹介される。食に関する安全や倫理の問題も多く取り扱い、バブル期以降の日本の食文化に一石を投じたと評価されることもある(後述)。
グルメブームや食品生産への批判をテーマにした話が多いが、食文化に限らず政治的な内容についても触れられる。歴史、産業、政治、環境問題など、非常に広い範囲の事象を取り上げ、『食』を通じてそれらに対する注意の喚起や問題提起を行っている。
常識に挑戦する破天荒なストーリングが魅力で、連載当時の日本に当然のものとして流布していた価値観(例えば「肉は柔らかい霜降り肉が高級」など)を批判することが多く、原作者の反権威主義的なスタンスが作品の大事な要素となっている(ただし、霜降り牛肉が高級とする風潮は、1980年代にアメリカ産の牛肉が日本国内で安く出回るようになった事に対する日本の畜産家の対抗策として打ち出されたものなので、連載初期の「美味しんぼ」における「霜降り肉批判」は「常識への反発」ではなく、当時の基準では「新しい流行への反発」の可能性もある)。
基本的に一つ一つのストーリーは1話完結型となることが多いが、前後編、前中後編の3話構成となっているものもある。「究極のメニューVS至高のメニュー」となる話や、作者が時事問題を(作者の見解で)取り上げるような場合は4話以上を跨ぐ場合も稀に見られる。
後期には「日本全県味めぐり編」がスタートしたが、これによって大幅に話数が増加、一巻丸々そのその県の郷土料理を食べ歩いて最後にチラッと対決なんて巻が急増した(参考までに、味めぐり以前で1巻が丸々同一体系のストーリーで占められるのは24巻「カレー対決」、38巻「ラーメン戦争」の二つと、複数のストーリーに分かれるが全話が山岡・栗田両名結婚式に絡む47巻、全話が金上社長絡みの50巻だけである)。
問題点
上述の通り、原作者の反権威主義的な捩じ込みが魅力となっている本作だが、全体的に批判が非常に過剰で、主人公を始めとした登場人物の殆どが社会人にあるまじき大人気ない人物として描写される。現実なら確実に愛想を尽かされたり、社会的信用を失ったり、訴えられてもおかしくない行動・言動が多数見られる。さらに店側に立つか客側に立つかで価値観が180度変わるような展開が多いが、そういう二重基準な態度を取る主人公側に対して糾弾される事は無く、その一方で他人がやると激しく糾弾する事も少なくない。作者の意見の宗旨替えによるものなのか登場人物の主張が突然変わることも多い。
また、作中で実在する企業や商品の名を槍玉に挙げており、この手法が反感を買うことも少なくない。明らかな誤りにより、何度か編集部や原作者名で謝罪文が発表されたこともある。
コスト面を軽視し、安価に美味しく仕上げようとする料理人の努力や工夫を「店側の怠慢」「儲け至上主義」と決めつけて糾弾する展開がよくある。作品内では「本物の材料を使えば飛躍的に美味くなる」という表現が度々使用されるように、味の素などを忌み嫌う反テクノロジー、天然素材至上主義の傾向がある。味勝負に持ち込んだ際はコスト度外視の材料を使って作った一回限りの料理の味で勝ち誇る展開が多い。
政治や歴史の話題では、しばしば原作者の個人的な政治思想(よく左翼的・反日思想と言われるが、下記の捕鯨問題のようにむしろ右翼的・自民族中心主義的な主張も少なからず見られる)が出てくるため、この作品、ひいては原作者の罵り倒す連中が増える原因となっている。例えば、「主人公が反捕鯨派のアメリカ人を騙して鯨の肉を食わせる」という話があるが、主要な映像配信サービスでは「美味しんぼ」の映像化作品版における話は欠番となっている。この捕鯨に関するエピソードでは欧米の反捕鯨運動がキリスト教の影響が大きいように描かれているが、実際のところ、クジラは敬虔なクリスチャンにとって、特に関心のある話題でない(捕鯨の記事を参照)。反捕鯨運動を扱った日本のフィクションとしては「美味しんぼ」の捕鯨に関するエピソードとほぼ同時期の「さよならジュピター」があるが、こちらでは「反捕鯨運動≒ヒッピーカルチャーの一種」として現実に即した描かれ方がされている。なお、雁屋哲は「グリーンピース(の日本支部)」を(勝手に)名乗っていた『太田龍』という人物の間にトラブルを起こした事があり、この事が本作におけるベジタリアンや自然保護運動の扱いに影響を与えた可能性がある(と言っても、この件に関して「どっちがより悪いか」を言うなら圧倒的に太田龍の方が悪い)。
政治関係以外でも作者の独善的意見が目立ち、例えばMac派の士郎がWindowsユーザーを激しく罵倒するシーンがあり、この回は全体的にMacを賞賛し、Windowsをけなすという内容になっている。そのせいでMicrosoftは「スピリッツ」誌上に掲載されていた同社の広告を取り下げており、これ以降「美味しんぼ」の世界は登場人物ほぼ全員がMacユーザーという状況になった。なお作者はMacユーザーで、かつ親指シフト派という相当のマイノリティである。
他にも細かい用語の誤用などもある。例えば、海原雄山のモデル(作中での設定は海原雄山の師である唐山陶人の師)とされる北大路魯山人の著作からの引用も多いが、現在では文庫化されていたり青空文庫に収録されている魯山人の著作でも、連載初期の時点では入手困難な場合があり(※)、その結果、不正確または誤解を招きかねない引用となっているケースも少なくない。例えば、作中に出て来る「魯山人風すき焼き」の元となった「魯山人が好んだ『すき焼き』」は、あくまでも魯山人が書き残した複数の「すき焼き」の作り方の内のひとつでしか無い(魯山人が書き残したレシピは同じ料理であっても時期によって変化している場合がある。稀代の食通・料理人であろうと、年齢や経験を積んだ事による嗜好の変化は起こり得る以上、当然の事である)。
※本作の初期のエピソードでは、現代では青空文庫などで読めたり文庫本で出版されているような魯山人の著作を、山岡が古本で入手して大喜びする場面が有る。要は、本作の連載初期は、劇画原作者として既に一財産を築いていた雁屋哲にとってさえ、本作の執筆に必要な資料を集めるだけで一苦労な時代だったのである。
これら問題になりそうな表現でも大体そのまま殆どの話が単行本に収録されているが、離乳食に蜂蜜を使用した回(読者やその周囲が実際に生命の危機に陥る可能性のある描写をしてしまった。本来、乳幼児に蜂蜜を与えると、乳児ボツリヌス症を発症する危険があるため、離乳食につかうのはご法度である)などは掲載が中止・単行本未収録となっている。
なお、52~53巻では単行本の収録話数が入れ違いになっているが、このために52巻時点では読者が知らされていない近城まり子の妊娠についての話が唐突に出てくる(発覚する話は53巻に掲載)。このため読者が公式自らのネタバレを食らうような仕様になっているのは秘密。
2014年4月、東日本大震災後の東北のエピソードで「福島第一原発の事故による被曝」を取り上げた話を書いたが、全く根拠のない作者の思い込みを真実であるかのように描いており、現地住民や関係者の怒りを買った(単行本では問題になった台詞が修正されている)。この発言等の問題点が令和時代でもX(旧Twitter)にて美味しんぼの作品のみならず、原作者自身に向けた批判(誹謗中傷)や発言問題の指摘が挙がるようになり、作品を知らない近世代の人達からも評価を下げる要因にもなった。
2016年3月では最終回の構想は浮かんでいるとブログで公開したと同時に連載終了をする意向を固めているがこの時の猛抗議が致命傷となったのか時事ネタをブログで書き込む活動へ変わってしまい、現状報告はなしに休載を続けている。
※:この「大人げない行動」はあくまで登場人物たち(を通した作者の意見)を通すために高圧的に振る舞うと言った意味で、連載開始当初は山岡はアウトロー気質・一匹狼感を漂わせており、どこか緊張感のある作風であった。だが、連載が進むにつれて山岡が急速にギャグキャラ化していき、「いい大人が何やってんだか……」という意味でも、ビッグコミック系の『釣りバカ日誌』ばりのコメディシーンの割合が増えていった。
この他、設定がいつの間にか変更され、矛盾が特に説明や補足もなく放置されている箇所も多いが、この辺は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のような超長期連載ではよくあることである。
実際に社会に与えた影響
- 有機農法の食材
- 有機農法食材は本作連載以前から存在したものの、当時バブル経済へと上り詰めていく最中で、大量生産から高付加価値へのシフトがあり、そうした有機農法・自然農法食材に人々が目を向ける転機のひとつとなった。
- ただし、高温多湿で病虫害が多く、かつ消費者の(虫食いや色むらなど外見面の)要求が厳しい日本では厳密な有機農法の実践は難しく、実際には「有機肥料を使っている」だけで有機農産物を自称する農作物が多かった。2001年に農林水産省の有機JAS認証制度が導入されたが、欧米ほど有機農産物は一般化してはいない。
- しかし、当時はあまり知られていなかったが、植物には動物でいう免疫系に当たるものが存在し、病害虫に曝されるとその機能が発動する。その際、発ガン性のあるリン酸塩類を作り出し蓄積してしまう。この為、農薬などで病害虫から護られたものより、結果として発ガン性の危険性が上がっている場合もある。
- 捕鯨
- 元々鯨肉はクセが強く、あまり万人受けしたとは言えなかったため、一般市場に流通することがなくなった昭和50年代以降の世代は、捕鯨が禁止されていることを知ってもあまり関心がなかった。しかし、本作で何度か捕鯨をテーマに取り上げた結果、捕鯨制限がその種の保護より、国際政治上の駆け引きの材料にされていることが周知され、反捕鯨は日本社会からいい印象を持たれなくなった。
- 本作の影響に加え2000年代以降はシーシェパードの過激な活動の影響で日本国内で反捕鯨運動のイメージが悪化。捕鯨が盛んな和歌山県、山口県を地盤とした二階俊博、安倍晋三ら有力政治家の意向もあり、2018年、日本は反捕鯨ありきとなっていた国際捕鯨委員会(IMC)を脱退することになる。
- 豆腐
- 1960年代後半から1980年代前半にかけて、スーパーマーケットで安価に売られていた豆腐は、凝固剤としてグルコノデルタラクトンや硫酸カルシウムが使われており、原料大豆あたりの生産量が多い(逆に言うとその分スッカスカ)ものが多かった。だが、1980年代後半から1990年代前半にかけては、まだ自家製豆腐の移動販売が地方に多く残っていたため、スーパーの豆腐はたちまち売れなくなってしまった。
- 結果、スーパーの側から“売れない商品”であるこれらバッタモン豆腐は発注されなくなり、自前の店頭販路をもたない製造事業者は転換を迫られた。この結果、現在はスーパーやコンビニエンスストアでも、にがり(厳密に言うと、その主成分である塩化マグネシウム)を凝固剤としている豆腐がほとんどを占めるようになった。
- 同時に批判された消泡剤グリセリン脂肪酸エステルは、自動製造工程での「巣入り」(タンパク質凝固による食品で、中に気泡などが入り込んでしまう状態。食感を著しく悪化させる)を防止するため、現在でも使用しているメーカーが多い。
- うま味調味料
- 本作でうま味調味料(当時は化学調味料)に対する誹謗中傷が行われた結果、一定の世代では味の素などを忌避したり、インチキ料理呼ばわりする傾向が現在でも見られる。
登場人物
- 山岡士郎(CV:井上和彦)
- 栗田ゆう子(CV:荘真由美)…結婚後は山岡姓だが、会社では旧姓をそのまま使う。
- 海原雄山(CV:大塚周夫)
- 富井富雄(CV:加藤治)
- 谷村秀夫(CV:嶋俊介)
- 荒川絹江(CV:水原リン)…旧姓は田畑
- 三谷典子(CV:佐久間レイ)…旧姓は花村
- 大原大蔵(CV:阪脩)
- 小泉鏡一(CV:加藤精三)
- 栗田信一(CV:池田勝)
- 栗田文枝(CV:佐久間なつみ)
- 栗田たま代(CV:堀絢子)
- 栗田誠(CV:堀秀行)
- 海原雄山の妻(CV:坪井章子)
- おマチ婆っちゃん(CV:遠藤晴)
- 中川得夫(CV:仲木隆司)
- 岡星良三(CV:関俊彦)
- 岡星精一(CV:若本規夫)
- 岡星冬美(CV:麻上洋子)
- 中松警部(CV:福留功男)
- 中松歌子(CV:斉木かおり)
- 針沢朝雲(CV:石森達幸)
- 快楽亭ブラック(CV:青野武)
- 快楽亭八笑(CV:丸山詠二)
- 二代目福々亭末吉(CV:林家こぶ平)
- テルエ(CV:高山みなみ)
- テルコ(CV:吉田理保子)
- ジェフ・ラーソン(CV:中尾隆聖)
- 王士秀(CV:二又一成)
- 周香玉(CV:玉川紗己子)
- 北尾夏子(CV:佐々木るん)
- 北尾照一(CV:広森信吾)
- 栃川北男(CV:田中秀幸)
- 若吉葉(CV:大塚芳忠)
- すみ子(CV:潘恵子)
- 島高親方(CV:飯塚昭三)
- 近城勇(CV:難波圭一)
- 近城まり子(CV:島津冴子)…旧姓は二木
- 唐山陶人(CV:富田耕生)
- 唐山領子(CV:藤田淑子)
- 京極万太郎(CV:渡部猛)
- 花見小路辰之丈(CV:野本礼三)
- 板山秀司(CV:辻村真人)
- 周懐徳(CV:小林修)
- 宗芳蘭(CV:坪井章子)
- 曲垣先生(CV:吉田理保子)
- 嶺山知一(CV:銀河万丈)
実在の人物
実在する人物をモデルにした架空の人物(例:政治家の角丸副総理は金丸信元副総理がモデル、メディア王トレバー・コドラムはルパート・マードックがモデルの上名前もそのアナグラム)も存在する一方、許可を得て本当に実在する人物がそのまま登場することがある。
「鯛ふじ」先代店主(故人)。実在人物として最多の登場回数。
作中でも現実でも故人。唐山陶人の師匠(海原雄山の大師匠)の設定
- 白鳥製粉社長
実在する製粉会社社長。タスマニアからのそば粉輸入で知られ、ラーメン対決で再登場。
和食の鉄人。山岡・栗田が結婚直前に京都に飛ばされそうになった際、すっぽん料理を披露して窮地を救った。
食生活ジャーナリスト(故人)。山岡の知り合いという設定。上記の道場を紹介したり、ラーメン対決の面々が担担麺を巡る話で再登場し陳健一を紹介。
- 伊澤平一
仙台の勝山酒造社長(先々代)。仙台伊澤家11代目当主。無添加のソーセージを提供。後に日本全県味めぐり宮城編で再登場(同編には仙台伊達家18代(34代)当主・伊達泰宗も登場)。余談だがサンドウィッチマン・伊達みきおの父親の再従兄弟である。
また、「みやこ豆腐」など実在する店舗も多数登場する。
テレビアニメ
1988年10月から1992年3月まで日本テレビ系列局ほかで放送された。アニメーション制作はシンエイ動画。
2017年よりDVD及びブルーレイ完全復刊を果たす。
シンエイ動画作品であるからか近年はテレ朝チャンネルにて再放送されやすい傾向にある。
原作における山岡の過激な言動は相手を糾弾する形ではなく諭すようなマイルドな表現にされており、それに伴い相手側も自分の非を素直に認め態度を改める結末を迎える、山岡を振り回す周辺人物(特に大原社主やお局二人など)も原作と比較すると山岡への態度が懇ろである、過激だったり理不尽な言動の表現や展開を変更するなど、雄山との対立以外は全体的に抑えめの表現に改変されている。
元々は月曜19時30分〜20時の放送であったが、1989年10月以降は火曜19時30分〜20時に変更されている。また、1992年と1993年の12月には2時間スペシャル版が「金曜ロードショー」の枠を借りて放送されている。
なお、放送曜日が変更されたのは、系列局である読売テレビに枠を譲る羽目になったためだが、その枠を引き継いだのが、何と原作が本作が連載されている雑誌であるビッグコミックスピリッツに掲載されていた柔道漫画の『YAWARA!』だった。
Youtubeチャンネル設立
2020年10月にHDリマスターとして期間限定でYou Tubeに公開。当時、新型コロナウイルス感染症によるご時世で、外食があまりできない人に向けてへの配慮だと思われる。
主題歌
オープニングテーマ
- 「YOU」
作詞 - 平出よしかつ / 作曲 - 和泉常寛 / 編曲 - 大谷和夫 / 歌 - 結城めぐみ
- 「Dang Dang 気になる」
作詞 - 売野雅勇 / 作曲 - 林哲司 / 編曲 - 船山基紀 / 歌 - 中村由真
エンディングテーマ
- 「TWO OF US」
作詞 - 平出よしかつ / 作曲 - 和泉常寛 / 編曲 - 大谷和夫 / 歌 - 結城めぐみ
- 「LINE」
作詞 - 売野雅勇 / 作曲 - 林哲司 / 編曲 - 船山基紀 / 歌 - 中村由真
- 「気づかせたい」
歌 - Mika
関連項目
- 刃牙シリーズ…父子葛藤作品繋がり。初期は母の死などを恨み父と対立しているなど共通点も多い。
- デリシャスパーティ♡プリキュア…他局の食育アニメ繋がり。エピソードや台詞が一致する場面も多い。