ヒッピー
ひっぴー
伝統的価値観や社会制度からの脱却を主張し、自然と文明以前の野生生活への回帰を説く人々。アメリカで1960年代に起こり、その後全世界に広まった。
脱却の対象となるのは、アメリカの伝統的価値観の主柱の一つと言えるキリスト教も例外ではない。
アメリカ・インディアン(ネイティブアメリカン)の霊性や、東洋の諸宗教、世界各国の先住民の文化を独自な形で吸収し、独特の世界観を作り上げた。
現在まで続くニューエイジ思想の水源の一つである。
1920年代のアメリカで流行に敏感なジャズ・ファンを「ヒップ(Hip)」、「ヒップスター(Hipster)」と呼ばれており、1940年代には主にアフリカ系アメリカ人の間で流行していたダンス「ジャイブ」を踊る若者たちの間で「飛んでいる」という意味のスラングとして「ヒップ」が使われていた。
1950年代に入り、いわゆるビートニクスの間でも「ヒップ」という言葉が使われており、例えば『吠える』(アレン・ギンズバーグ)や『ぼく自身のための広告』(ノーマン・メーラー)において「現代の感覚に敏感な人」や「本当の感覚を持った人」という意での「ヒップスター」についての言及があった。これが「ヒッピー(Hippie)」の語源となったと考えられている。ビートニクスは後述するようなヒッピー文化に大いなる影響を与えている。
1960年代後半に、おもに「正義なきベトナム戦争」反対を掲げるアメリカの若者の間で生まれた、反戦・反体制派を母体とするムーブメント、カウンターカルチャーで、西海岸(サンフランシスコのヘイト・アシュベリー地区が発祥地であるとする説がある)から全米へ、さらには海外にも波及した。
ビートルズ等のトップアーティストたちが牽引役として現われ、当時破竹の勢いであったゲーム会社Atariも多くのヒッピーを社員に迎えていた。
日本でもフーテンとよばれるヒッピー的な人々が現れており、アングラ演劇やフォーク、ロックなどのカルチャーの中心的存在となった。また、一般には学生運動(学園紛争)などの活動にも波及した。一方で自身を「フーテン」であったと称する中島らもは、「ヒッピーとフーテンは違う」と語っており、思想を背景に持つヒッピーと、ヒッピー「文化」の消費者に過ぎないフーテンは別物だと考えていた。
彼らは徴兵を拒否し、彼らが文明以前の、あるがままの生活とみなしたもの、自然や歌や平和、従来の性規範に囚われないセックス(自由恋愛を背景に持つフリーセックスや、同性愛・バイセクシャルなど)を大いに肯定し、コミューンを形成したり、定職につかず放浪するといった行動類型が見られた。
その一方で、精神変性や神秘体験のためにマリファナやLSDといった薬物(ドラッグ)の濫用も行われた。やがて、平和と平等を謳ったヒッピーもその数が増えると、既存社会に対抗する形で強力なリーダーのもとに閉鎖的な社会を形成する数々のカルト教団が誕生するという問題も起こった。
その象徴的事件が女優シャロン・テート殺害事件であり、平和を重んじていたはずのヒッピー集団が個人的な恨み(しかも、シャロンは完全なとばっちり)で胎児ごと惨殺するという事件は全世界に大きなショックを与え、ヒッピーへの敵視を強めた。
それ以後ムーブメントの牽引役となっていたミュージシャン・アーティストたちの死、そしてベトナム戦争終了による主要なカウンター対象の消失により、ヒッピー運動はやがて終息していくことになる。現代でもヒッピースタイル自体は存在するが、商品化・産業化されたものがほとんどである。
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