「明日の午後俺につき合ってもらおう、おまえに本物のスシがどんなものか教えてやる。」
演じた人物
映画版の俳優は佐藤浩市である。なお、映画版の海原雄山を演じた三國連太郎とは実際の親子であるが、映画の設定と同じく当時は不仲であった。さらに、三國はオファーを受けた際「主演を佐藤にして親子対決にすること」を条件にしており、製作会見でもお互いを「三國さん」・「佐藤君」と他人のように呼んでいたことや、佐藤の発言に三國が噛み付くなど険悪な雰囲気であったという。
概要
初登場時は東西新聞社入社2年目の27歳(※浪人と留年を繰り返していたため)。グータラでいい加減な昼行燈社員。趣味は競馬中継と料理(月刊アニメディア88年 キャラクターリサーチ参照)。
食べることにはめっぽう詳しく、非常に幅広い知識と料理に関する高い技術や審美眼、そして優れた味覚と嗅覚を持つ。
海原雄山の息子であるが、母のこともあって関係は悪く、当初は雄山との親子関係を周りに隠していた。また、「究極VS至高」において、雄山が「ライバル会社側の協力者」であることも少なからず関係していたと考えられる。
作品初期は傲慢な料理人やグルメ気取りの金持ちなどなんにでも噛み付く無頼でハードボイルドな男だったが、やがてグータラで適当な側面が強調され、全体的な雰囲気は丸くなった。
本人は面倒臭がるようなところも見せているが、食の知識と料理の腕を活かし、困っている人を助ける事に長けており、ゆう子を始めとした周囲から頼られる事が多い。
その知名度やキャッチーさからパロディのネタにされることも少なくないが、士郎が傲慢な料理人の鼻を明かすため「明日もう一度ここに来てください。本物の○○というものをお見せしますよ」と挑戦状を叩きつける流れは最早様式美。
グータラと周囲から評されているが、様々な知識に精通しているので決して無能でなく、最初から彼が担当していたら問題が起こらなかった場合も多い。
なお、料理の腕前や特に食に関する頭のキレに対して運動能力は低く、喧嘩も弱い。
その味覚と知識を買われ、東西新聞が創刊100年を記念した企画特集「究極のメニュー」の担当者となる。最終試験まで残り担当になった新入社員栗田ゆう子とコンビを組み、雄山がアドバイザーを務める帝都新聞の「至高のメニュー」等で幾度となく対決することとなる。
食や芸術に没頭して周囲を全く顧みなかった父雄山を憎んでおり、この親子対決もとい骨肉の争いが作品の主軸の一つをなしている。
作中では後にゆう子と結婚し、1男2女の三児の父となる。結婚後は自身の父との確執もあってか、まともな父親になれるか苦悩する様子も見られた。
また、作品が進むに従い、当初わがままな芸術家肌という描写が強かった雄山が、実は人格者であるという設定がでてきたため、それに反発する頑で子供っぽい面も強調されていった。
原作111巻でようやく親子和解に至り、以降は雄山を「父さん」と呼んでいる。それ以前は「親父(おやじ)」と本人のいないところで呼ぶこともあった。
美食倶楽部には当初出入りを避けていたが、物語が進むにつれ少しずつ足を運ぶ回数が増えている。倶楽部の面々からは復帰を期待されており、雄山と絶縁状態になってからも「士郎様」、「若」と雄山の正統後継者として見られているようである。
ちなみに結構モテるが本人はかなり鈍感。二木まり子からのかなり露骨なアプローチにも、全く気が付いていなかった。恋愛以外にも結構ヌケており、栗田さんに「あんまり細かいよりちょっと鈍いくらいが大物っぽい」と言われて丸め込まれてしまったりする。
作者の私見に基づいてか、作中でちらほら問題のある言動が見える。
- 1:生産者が苦労して確立した流通ルートをガン無視し、安全で良いものを休まず提供するのが当然と言い張る。
- 特に初期はブロイラーを工業製品のようだと批判するなど、とにかく「昔ながらの手仕事」を礼賛する節が強かった。ただ、これは当時の社会背景(今より公害がひどく、健康、環境汚染問題にシビアだった)も加味した上で評価すべき事物であり、ブロイラーも魚の養殖業も当時は抗生物質、防腐剤漬け(昨今は大幅に改善されている)であった。
- 2:旨いものじゃなきゃ食べ物じゃない!
- 日常生活でのコスト意識がなく、町の定食屋でさえ一流の意識を求める。そのせいで、結婚してから、いきなりエンゲル係数が凄まじいことになるのだが…。その割に、美味いものは飽きると一刀両断している場面もあり、毎日毎日うまいものだけ食うのではないことも熟知はしている。
- 3:仲間内で妻の妊娠が分かった時、一人だけ子供が出来ないことを悩む女性に対して慰めるどころか、友達を仲間外れに。
- 谷村部長曰く「子供っぽさが抜けていない」。
- 4:Macの狂信者でWindowsユーザーを見下す。
- デスクにWinマシンが乗っているだけで人格否定、という大人げなさ。「Macを修理に出している間代わりにしていただけだった」とわかり和解したが、そもそもWindowsを貶したことは訂正しなかった…
等々、父譲りの性格に由来する発言行動を繰り返す。
まあ、よくも悪くも芸術家というのは一部に類まれな才能がある一方、視野狭窄で我が儘なものなのだ(ベートーヴェン、ゴッホ、三島由紀夫……)。ちなみに義兄との会話曰く、三島や太宰治のことは大嫌い、だそうである。
特にゆう子との結婚当初、ゆう子の作った朝食に一品ごとにケチをつけ(本人は悪気が無く、まるで当たり前のようにやらかした)、その姿は父の事を言えたものなのか大いに疑問が残る。(もっともこれに関しては、妻の方も、義父の例は極めて特殊だから、と容認しているのに自分がされたらキレる、というダブスタを平気でやらかしているのでどっちもどっち、な部分が過分にある)
また上述の要素も美味しんぼ自体話数が多いこともあり、(キャラ本人というより作者の意向により突然宗旨替えをすることも少なくないため)以前言ったことと矛盾はするが正論を言う場合もある。極論が目立っているだけとも言えるだろう。ファンから胸糞エピソードとして名高い五年目のパスタの様に他人事なら正論が言えると評された事もある。
ちなみに父親と比べると(街の食堂のメニューや郷土料理の一種としての)B級グルメや手抜き料理の類も意外に好んでいるし、明確な理由があれば化学調味料を使っている料理もきちんと評価している(ラーメンの回など)。過度な農薬、抗生物質や食品添加物に対しては父親同様否定的ではあるが…。
なお、海原姓ではなく山岡姓なのは母の旧姓を名乗っている為。海と山で相対するものとなっているのも特徴的である。
婚姻届に「山岡」と書かれていることや、結婚後ゆう子が山岡姓となっていることなどからもわかる通り、おそらく戸籍上でも苗字変更をしているようだが、詳しい経緯は不明である(一部の話で母方の親戚についての話が出てくることから、母方の親戚の元に養子縁組した説や、元々両親が内縁の関係で、母親の戸籍に入っていた説などがある。父の雄山曰く「法的にも義絶」とあるので、養子縁組した可能性は高い)。
演者にまつわるエピソード
テレビアニメ『美味しんぼ』で山岡士郎を演じた声優の井上和彦氏は、自身の声優業のキャリアを語る上で、今まで自分が演じたキャラの中で最も難しかった役だったと同時に二度目の転機となった役だったと語っている。
1979年に放送されたテレビアニメ『サイボーグ009』で、オーディションで監督の高橋良輔氏に見いだされる形で、主人公の島村ジョー役に抜擢された井上氏は、最初の転機を迎えて二枚目声優としての立場を確立し、その後も数多くのヒーローや二枚目キャラを演じる事となった。
しかし、ジョーのイメージが強すぎたせいか、その後も地球を守る役ばかりの仕事を何年間も演らされて、井上氏もいい加減飽き飽きしていた時に、当時別の作品で一緒に仕事をした音響監督の故・浦上靖夫氏の紹介と、原作者の雁屋哲氏の意向でオーディションなしで山岡士郎役に決まったという。
いざ収録が始まろうとした時に、タイミング悪く井上氏がマイコプラズマ肺炎を患ってしまい、3週間ほど入院する事となる。普通ならそこで配役を交代するものなのだが、井上氏の退院を待つべく、『美味しんぼ』が2週間放送開始を遅らせるという異例の処置が取られた。その間は、放送前の特番を流す形で時間を稼いだという
しかし、いざアフレコでマイクの前に立つと緊張感から油断のないキリっとした声で演じたところ、音響監督の浦上氏から「ちょっと声がヒーローみたいにカッコ良すぎる。ピリッとするのは料理の時だけでいい」「ヨレヨレのスーツを着て、二日酔いで出社してくるようなダレた声で演じてほしい」とNGが出て、だらしない声を出す事に悪戦苦闘し、第3話ぐらいまでは井上氏としても中々しっくり来る演技ができなかったと振り返っている。その間、山岡士郎の気持ちを探るべくわざと二日酔いになってみたりもしたとのこと。
そんな中、浦上氏のボソボソと喋るような声を聴いて、『あれこそが山岡の喋りなんじゃないか?』と閃き、ようやく役を掴めたという。また、この経験から「演技は自分の中だけでこねくり回すのではなく、回りから引き込んでくるものなんだということを初めて学んだ」という。
山岡士郎を演じた事で、井上氏は二枚目半のキャラクターを演じる事も多くなっただけでなく、オンとオフがはっきりしたキャラクターを演じられるようになり、後にこれが2002年に放送されたテレビアニメ『NARUTO』のはたけカカシや、2008年に放送されたテレビアニメ『夏目友人帳』のニャンコ先生を演じる契機にも繋がったと語っている。
また、近年はそれを発展させたオンの状態のないオフだけの役というものも増えており、一番有名なのは『おそ松さん』の松野松造とのこと。それらはとても肩の力を抜いて楽しく演じさせてもらっているという。
関連イラスト
関連タグ
山岡みつ子、山岡しげる:『ミスター味っ子』の登場人物(アニメオリジナルキャラ)。同作の主人公である「ミスター味っ子」味吉陽一の幼馴染である姉弟。いわゆる名字系バラエティのキャラにあたるが、この姉弟の両親も「大手新聞社勤めで文化部に所属し食べ物の特集記事を定期(連載)担当している」とされている。ちなみにみつ子は時折、意外な食べ物知識や鋭い味覚を披露する事があるが、これは父親(ひいては祖父)譲りなのだとか。(このキャラが登場してた頃は、まだ士郎とゆう子の結婚は確定しておらず、子どもたちの設定も存在すらしてなかった。まぁぶっちゃければ山岡さんが大好きだった、アニメ版「味っ子」を作った兄ちゃんによる、その辺にいたオッサンっぽい、いつもの某社である。まぁ監督が監督なのでしかたがない)
高野聖也:『喰いタン』の主人公。こちらも食べ物や料理に妥協しない味覚と知識と技術を持つが、人間として非常識の面が多い。(仕事をやらない。失礼な発言で相手を怒らせる。非常識な行動で周りを振り回す等)
藤本浩平:『ラーメン発見伝』の主人公。こちらはラーメンを専門に知識と技術を持つサラリーマン。人間性は藤本の方がいいが会社員としてはグータラの山岡の方がマシなレベル。
井之頭五郎:『孤独のグルメ』の主人公。『注文して出てきた料理を黙々と食べる(ただし心の中ではめっちゃ喋る)』という『人の作った料理に辛辣な言葉を用いて文句や批評を行う』士郎とは真逆のスタンスであり、その料理に対する方向性は文字通りの水と油であるため、もし同じ飲食店で鉢合わせたらこうなると思われる。
艦隊のシェフ:主人公の上官で主計兵長の海原衛(事実上、舞台となる駆逐艦「幸風」の料理長)の本名は山岡とされ、当キャラの苗字変遷をモデルにしていると考えられる。