概要
声優事務所『シグマ・セブン』所属。本名は『若本紀夫』(わかもと のりお)。愛称は「アナゴ」(代表作『サザエさん』の役名から)、「強力若本」(同名の胃腸薬『強力わかもと』から)など。一時は本名および若本紀昭(わかもと のりあき)を芸名としていた。
第二次世界大戦の終戦間もない1945年10月18日、山口県下関市で生まれる。しかし、出生した際は未熟児であり「最悪三日と生きられないだろう」と医者から匙を投げられていたと言うが、峠を越えてからは比較的健やかに成長し、その後の引越し先である大阪府堺市で育った。
早稲田大学進学後に少林寺拳法にのめり込み、卒業後は大学院への進学を視野に入れていたが、試験に落ちたことと家庭の事情から断念し、秋から就職活動を開始。大学から紹介してもらった会社で三次試験まで進むも、試験前にビル街を散策していたら気分が萎えてしまい(本人曰く「会社で一生懸命働く人たちを見ていたらなぜかやる気がなくなってしまった」)、そのまま受験を放棄してしまう。
そこで就職課に「ハラハラドキドキする仕事をしたい」と相談すると、警視庁の採用試験を紹介され、締め切り間近に書類を提出して採用された(当時は警察官不足のため毎月採用試験を行なっていた)。中野警察学校を経て警視庁に入庁、交番勤務から特別予備機動隊に配属される。当時は学生運動が過激化の一途を辿っていた時期であり、1968年に起こった『新宿騒乱事件』では機動隊側の最前線で攻防に加わり、その翌年の『東大安田講堂事件』でも鎮圧に出動した。
しかし、職場に馴染めず約2年の勤務を経て退官し、「日常生活レベルで国民を守る」を意義とした消費者団体『日本消費者連盟事務局』(日消連)の創立員の1人となるも、こちらも約2年後にある事情から上司を殴り飛ばした事で懲戒解雇となり(本人曰く「どうしても宮仕えというものが性に合わなかった」)、その後酒で泥酔した後に電車で帰る途中、シートで横になっていると上の網棚に置いてあった新聞が顔に落ちてきて、その社会面に書いてあった黒沢良主催の声優オーディションの記事を目にしたことが声優の道に進むきっかけとなり、受験したオーディションの特別合格を受けて25歳で声優の道に進んだ。
以上、異色中の異色と言える経歴を持つ声優の1人であり、機動隊出身時に修得した逮捕術や拳銃使用の知識を備える他、少林寺拳法三段、全日本剣道連盟三段の実力を持つ武道の実力者であり、挙句の果てには神道『禊流古神道神法教傳会』師範代、即ち神主の教育資格まで保持している。
活動
声優としては1972年頃から活動を始めており、渋さと鋭さを併せ持つ独特の低音から生まれる声質と語調、歌うような抑揚のある演技から知能犯などの悪役、爽やかな青年、影のある上官を演じることが多かった一方、アニメ声優では味のある二枚目・奇怪な三枚目を幅広くこなした。その後、脂が乗りきった頃にロバート・ネッパーの吹き替えを担当し、「ネッパー=若本」のイメージを作り上げた。
1992年に出演した『ドラゴンボールZ』のバイオロイド「セル」で大きな反響を呼んだが、2000年代に出演した『あずまんが大王』の謎の生物「ちよ父」を皮切りに、『ニニンがシノブ伝』の謎の生物「音速丸」や『金色のガッシュベル!!』の魔物の1柱「ビクトリーム」に『魁!!クロマティ高校』の「メカ沢新一」などギャグキャラとしての依頼が多数を占めるようになり、それに伴って知名度も上昇した。しかし、本人はあまりそうした扱いを好んでおらず、シリアスな役が来た時は「『やっとまともな役ができる』とこぼした」とされている。
だが、後に2023年のテレビ朝日の『Z世代が選ぶ!昭和アニメのスゴい声優50人はこれだ!』にて若本が選出され、そのエピソードを井上和彦が語ったところ「収録開始と同時に台本に無いアドリブを無茶振りされ、軌道修正を兼ねつつ応じるもドンドンとアドリブを振っていき、結局そのまま押し通された(要約)」と答えており、上記のギャグキャラクターを演じるのは自業自得な側面もある。
『投稿!特ホウ王国』や『人志松本のすべらない話』などのバラエティ番組やCMのナレーター活動も多く、CMでは80年代後半、外国車ディーラーヤナセの外国車のナレーションを務め、とりわけアウディの『道を拓くのは、いつもアウディ』はよく知られるフレーズとなった。近年では朗読などに焦点を当てたコンセプトCDも発売されている。ちなみに、同期の声優は銀河万丈、三ツ矢雄二、水島裕、玄田哲章、井上和彦など(ただし、声優活動ではほぼ同期生だが、芸能活動そのものでは若本は後輩に当たる)。
演じるキャラクターによって口調の濃さ(威厳あふれる声色・芝居がかった言い回し・ハイテンションなキャラ・ねっとり絡み付く独特の抑揚・奇妙な文節の区切りなど)を発揮し、先に述べた機動隊時代の経験を活かして「殴られた時に出る苦悶の声」(本人曰く「腹を殴られた時と顔を殴られた時に出る声は全然違う」)の演じ分けを的確にこなせる数少ない1人。何だかんだで純粋な演技力も高く評価しているファンも少なくないのだが、計算ボケ等は少ないが人としての器が小さいキャラを演じたところ、その演技力を原作ファン等に明後日の方向に評価されたこともあり、後述のように良い意味でキャラクターの方が若本に寄り添ってしまった例も少なくない。
50代でブレイクするまでの苦労から「声は息=呼吸が伴わないと(表現が)薄っぺらくて誰も聴いてくれない」「『生きている声』が出せないと声優なんて出来ない」という境地に辿り着き、武道の丹田練気、神道の祝詞などを通じた独自の呼吸訓練を毎日6時間行っている。
紆余曲折を経て得た天職であるためか、声優という仕事にこだわりを持っており、大御所としては珍しく「声優と俳優は別物」と考えている。声優には舞台や音楽などの副業を行う者もいるが、若本は「舞台に立った経験はあるが、声優に活かせるようなものはなかった」と語っており、『声優たる前にまず俳優たれ』という業界の主流とは正反対のスタンスを持っている。
ただ「俳優であれ」と主張する大御所の言説の本質は、プライド以上に「舞台などで意識的に身体を動かす経験がないと、その時々の声の出し方がわからないままアフレコをしてしまう」という意図が強い。つまりこの点を人生経験から理解して仕事に活かしている若本に舞台は必要のない体験だったとも言えるだろう。
しかし、「職業に貴賤なし」主義であり、諸々の事情で名前をそのまま出すのが憚られる方面、いわゆる18禁作品では複数の別名義を使い分けて対処している。どういった名前かは、あくまで別名を使用しているため詳しく記すのは避ける。
ただし、自分以外の役を覚えるのは苦手らしく(本人曰く「自分のキャラだけで精一杯で余裕がない」)、『戦国BASARAシリーズ』では自分が戦ったキャラクターの名前すらほとんど憶えていなかった。この事については、あるオーディオコメンタリーで岩浪美和に「自分の戦ったキャラくらい覚えてくださいよ!」とツッコまれた。
基本的に仕事は選ばない、断らないものの2010年代半ば頃から幅のある演じ分けが難しくなってきており(“どう演じようとしても「今の若本の癖」に寄ってしまい「昔の若本」が出せなくなっている”とか)、2022年以降は自身の年齢を考慮し新規の仕事は受けず、CMやナレーション、既存のキャラクターのみに限定すると宣言した。若手に対する事実上の世代交代とも評価できる。
だが、2024年発売予定のテレビゲーム『レナティス』にて、新規に海藤無限を演じる事が決定した。この展開に一部のファン層からは「『今の若本の癖で問題ない』と判断した場合は別なのか?」とも「制作サイドからの熱烈なオファーがあったからか?」とも驚かれている。
また自身の本を出版し、その後週刊誌(週刊文春)のインタビューに応じ、先述述べた通りこれまでの出来事を語り、若手声優や後輩は元より声優志望者に対してこの世界は厳しいから覚悟しろよとコメントしている。
主な出演作品
アニメ
イラスト無し
睚弥三郎@からくりの君 | 岡星精一@美味しんぼ | 鳥居耀蔵@大江戸ロケット |
ランディ@ウィザードリィ(OVA) | 一人惑星破壊男モリヲ@ギャラクシーエンジェル | ヘルムート・バーンステイン@銀河疾風サスライガー |
坂本龍馬@まんが日本史 | 緒形剣一郎@さすがの猿飛 | |
ジョージ@デュエル・マスターズ | エドウィン・ブラック@対魔忍アサギ※比留間京之介名義 | 水角獣@超神伝説うろつき童子※比留間京之介名義 |
ドラゴバースト@爆闘宣言ダイガンダー | オノ・リキ@氷河戦士ガイスラッガー | |
アイアン木場@高校鉄拳伝タフ | ミディアム・ザ・フィンガーネイル@マルドゥック・スクランブル | エドウィン・ブラック@魔界騎士イングリッド※比留間京之介名義 |
蘭堂ヒロ@魔境伝説アクロバンチ※若本紀昭名義 | ミロク帝@魍魎戦記MADARA(OVA) | サブ@ストップ!!ひばりくん!※若本紀昭名義 |
ガーゴイル@吉永さん家のガーゴイル | ウッド・チャック@ロードス島戦記(OVA) | ダーム@イース 天空の神殿〜アドル・クリスティンの冒険〜 |
アニメ神頼みシリーズ(OVA)若いチンピラ | ヤマサキ・ヨシオ@機動戦艦ナデシコ |
ゲーム
※1:月下の夜想曲、ギャラリーオブラビリンス、Xクロニクル、奪われた刻印、Harmony of Despair、Grimoire_of_Soulsに出演。
※2:初起用はシリーズ外の『CAPCOM VS. SNK』で、以降『IV』『V』にて日本語音声を担当。『6』では続投せずキャスト変更になっているが、ワールドツアーモードにて彼に関係する思念体の声として出演。
特撮
アイアロン@ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦!ベリアル銀河帝国 | アークキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王 | レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王 |
ミイラのゼイ腐@天装戦隊ゴセイジャー | ||
吹き替え
など
海外アニメ
ナレーション
投稿!特ホウ王国
など
CM
ヤナセ
アフリカン・カンフー・ナチス予告編ナレーション
楽天スーパーセールの案内
など
余談
その個性的であり特徴的な声質と一度聞いたら忘れられない独特の演技からシリアス・コメディを問わず圧倒的な人気を誇るベテラン声優の1人であり、狂気満点の荒ぶる叫びや絞り出すような甘い囁きを真似する者は数知れず。巷では「就活の面接で若本規夫のものまねをすると採用される」という都市伝説すらまかり通っている点から見ても、いかにその声の知名度が高いかを物語っている。
事実、スクウェア・エニックスでは『キングダムハーツ』に『ファイナルファンタジー12』と2回も「アウトオブコントロール」「制御不能」と余りの個性の光った演技から放任状態で、後者は本編口パクを声に合わせて調整、更に『FFTA2』では仲間になるが独特なセリフ回しを声が付かない作品で再現するに辺りかなり苦労したという逸話が付いている。
無論、ネット界隈では一層の人気を誇り、ネットストリーミング黎明期から個人単位で音声MAD、あるいは若本キャラのものまねを動画形式でアップロードする者が後を絶たず、日本におけるMUGENの歴史に一石を投じた異形の怪物『CV若本』が産声を上げる伏線となった。
演技も含めて若本の声を熱烈に愛する同業者の1人に杉田智和がおり、本人の談によれば中学生の頃から磨き続けた声真似にして音の高低、喉の絞り、発音の調子、息の抜き具合などを調整してあらゆる声を作るプロ声優の素養「ボイスチューニング」の基盤となり、様々な場で披露する『同業ものまね』の鉄板ネタの1つにもなっている(他に石塚運昇、池田秀一、銀河万丈、森久保祥太郎など)。内輪での評判が良かったためか、『銀魂』アニメ版ではセルを演じた本人を差し置いてパロディキャラクター『セロ』を演じる運びとなった(若本は同話に登場する超戦士『スーパー地球人』役で出演したが、別日収録のため現場で顔を合わせる事は無く大難を乗り切ったものの、後日にそれとなく釘を刺された)。
後年、杉田が司会を務めるアニラジに日髙のり子がゲスト出演した折、過去に若本と主役級の共演を果たした『トップをねらえ!』で病魔に倒れたオオタが発した名台詞「炎となったガンバスターは…無敵だ!」を杉田なりの解釈と研究に基づいて「ふぉのうとぅなったぁ、ぁガンバスターはぁ、むぅてぇきぃだぁ!」と演じてみせた所、日髙は爆笑しつつもその声真似の精度を高く評価し、それをきっかけに同作品の撮り直しに参加した際の様子を語る中で四半世紀を経てすっかり変わった現在の若本の演技を「全体的にこってりしていて」と言い表した。
なお、生まれと育ちの割には山口・大阪どちらの訛りにも傾かない標準語を常用する一方、ギャグ寄りのキャラクターを演じる際には、どこかで必ず一度は「~だっぺ!」「~っち!」「~せんばい!」「~しんさい!」「~だからしてぇ」等、出身とはまるで無縁の方言をアドリブで語尾に付け加える傾向が極めて強い。若本の声真似で名を売る者こそ世に多いが、この語尾を自在に、且つ自然に使いこなしているのは当の若本本人しかいない(なお、NHK・Eテレの『なりきり!むーにゃん生きもの学園』にてハラッパーノ先生を演じており、その時は上記の方言を多用している)。
マーベラスが2014年2月27日にPSVitaで発売した携帯ゲーム『ヴァルハラナイツ3ゴールド』で、ラスボスの冥王ノーモスを演じたが、このキャラクターは「第1形態=幼女→第2形態=壮年→最終形態=特撮怪人」の脅威の3段階変身を行った(ただし、言動は一貫して冥王の称号に相応しい厳かで威風堂々としたものであり、決してこのようなものではない。しかし、初見ならばシリアスな笑いにしか見えないが)。
過去には深見東州監修『アニメ神頼みシリーズ』で若いチンピラと地獄の住人を担当していたが、地獄の断末魔を見ると中の人ネタだがまるでドラゴンボールシリーズでやられるセルの断末魔と天装戦隊ゴセイジャーの悪しき魂とミイラのゼイ腐のような雰囲気でもあり、これが後に某クソアニメでも中の人ネタ含むパロディを披露し、話題になる。
関連イラスト
CV若本
若本が演じているキャラの絵に「若本規夫」タグがつく扱いが多い。
外部リンク
公認ファンクラブ『MIRACLE VOICE』