概要
漫画「バクマン。」で説明された表現方法。ストーリーやキャラクターがシリアスで真剣なのにもかかわらず、思わず笑えてしまう場面を指してこう呼んだ。
バクマン。の作中では「ラッコ11号」のシーンを例に挙げている(これは同じ作者である「DEATHNOTE」の夜神総一郎が護送車でテレビ局に突っ込むシーンのパロディである)。
- 思わず笑ってしまうが本来は真剣にカッコいい場面
- 作者は笑いを取りにいってるつもりはないはず
- 少なくとも子供は笑わないし感動すらする
作り方
シュールなギャグと混同されがちだが、シリアスな笑いを成立させるには
- 深刻で真剣な展開
- ギャグとは受け取れないような描き方
- にもかかわらずなぜか笑いをとる
という条件を満たさなければならない。
しかし、計算ずくでシリアスな笑いを成立させるのは非常に難しい。また制作側が笑いを取りにいくかどうかは関係ないため、作者が意図せずしてシリアスな笑いを成立させてしまうことがある(ラッコ11号の作者平丸一也は狙っていないとされている)。むしろ「制作側は真剣にシリアスシーン描いてるんじゃないか?」と読者に思わせて初めて、シリアスな笑いが生まれるという点で、天然ボケに理屈が似ている。
また逆に言うと、いくら笑えるシリアスシーンであっても上の条件を満たさない場合は「シリアスな笑い」とは言わない。1と3の条件は誤解のしようがないが、2の条件は誤解しがちなので注意が必要。
例えば小説の『ニンジャスレイヤー』は、全編を通して「シリアスな展開だが笑える」ため、シリアスな笑いと誤解される事も多い。しかし、その笑いの根源は主に「おかしな用語や奇抜な設定・語り口」にあり、どちらかと言えばシュールギャグに近い。
また、アニメ『ゾンビランドサガ』は「泣き」と「笑い」の両立を狙った演出が目立ち、例えば主人公たちの死にざまはいずれも悲惨なもの(死因が判明してないメンバーは除く)だが、そこを敢えてギャグ調に描いているところに本作の持ち味がある。
『ボボボーボ・ボーボボ』のハジケリスト達はいたって真面目である。農林水産省も公認である。
ただ、どれもシリアスな笑いとは少し意味合いが違う。
あくまで笑える要素が全くないはずなのに笑えるところに、シリアスな笑いの骨子があるのである。ギャグ作品が笑わせるのに対し、シリアスな笑いは笑われるといったところか。
稀有な例として、過程だけなら見事にシリアスな笑いの手順を踏んでいるのに、グロテスクな要素が全てをぶち壊し成立してないという例もある。
『機動戦士Vガンダム』の「ネネカ隊」がその最たる例で、『13歳の子供が操縦する高性能機を突破するために水着のお姉さん達を出撃させる』一点だけを見ればシリアスな笑いになりそうだが、この作品は大量の生身の死体が映るシーンが非常に多く、彼女らの断末魔も非常に痛々しく生々しさを感じるものだった事からそう捉える視聴者は滅多にいない。
グロ要素は鬱展開に勝る最強のシリアスな笑いブレイカーとも言えるだろう。
ちなみにバクマン。でこの話が連載されていた頃に、同雑誌で掲載されていた「HUNTER×HUNTER」では丁度シリアスな笑いの極みとも言われるゴンさんが登場していた時期でもあった。
Pixiv内において「シリアスな笑い」タグがついているのは、上にあるような「シリアスな笑いの例」を茶化したようなイラストがほとんどで、明らかに狙って笑いを取りに言っている。
そのため、本当にシリアスな笑いを実現しているイラストは皆無と言っても良い。だだいずれにせよ上述したようにシリアスな笑いそのものがハードルが高い要素のため、シリアスな笑いを生み出すのは至難の業であるが……。
関連イラスト
余談
漫画とはそもそも、キャラクターの醸し出す滑稽味やドタバタギャグを主体として発展したものである。悲劇やシリアスな描写が主体となる作品が多くなったのは第二次世界大戦後のストーリー漫画の台頭によるが、ストーリー漫画の創始者として名高い手塚治虫らも、どんなにシリアスなストーリーであろうと、場面場面の緊張を和らげ、次のシチュエーションへと息切らすことなく繋げていくためにもギャグや笑いの要素は欠かせないとの趣旨を述べていた。実際、手塚はシリアスなシーンにはヒョウタンツギなどのギャグキャラを脈絡無く登場させたりしてバランスを取っている(これはシリアスな笑いとはまた別の手法だが)。この縛りが無くなったのは1970年前後の劇画の台頭によるが、ギャグを排しシリアスな描写に徹したとされる劇画でさえも、今から見ると思わず笑ってしまうようなナンセンスな描写がやたらと多い。
実際、多くの劇画原作を手掛けた小池一夫も自著にて以下のように述べている。
私は劇画もやはり同じだと思います。まともに聞けば笑ってしまうような荒唐無稽な話を、写実的で大まじめな絵で見せるからバランスが取れ、読めてしまうのです。シリアスな絵で、シリアスな物語でやっていては読者も作者も疲れてしまいます
(中略)
悲劇だけでは現代の読者はついてきません
(小池一夫著:「大阪芸術大学 小池一夫のキャラクター造形学」P146「キャラクターには笑いが必要」より)
笑いとは人の感情の原点であり、そして漫画の原点とも言うべき大切な要素であることがわかる。
それと同時に、シリアスとギャグが紙一重にあることを示唆する発言であるとも言えるだろう。
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