「過去あり、訳あり、協調性…なし」(チャンネルNECOでの放映予告より)
作品解説
2071年の太陽系を舞台に、宇宙船「ビバップ号」に乗って旅する賞金稼ぎ達の活躍を描くハードボイルドタッチのSFアニメ。
ハードボイルドタッチと断ったのは、各話のストーリーの方向性が多岐にわたっており、一口でジャンル分けするのが難しいため。
スパイクの27歳を筆頭に主要人物の平均年齢がTVアニメ作品としてはやや高めで、随所に喫煙シーンが登場するなどある程度高い年齢層をターゲットとしている作品。
海外でもカルト的な人気となり、pixivでは外国籍からのイラスト投稿も多い。
監督である渡辺信一郎 監督はTVアニメ「ルパン三世」の第1シリーズ初期を意識しており、クールで小粋な台詞回しや90年代TVシリーズのアニメとしては最高クラスの映像、多くを言葉で語らずに演出で見せる表現など、全編にアダルトな雰囲気が漂う(監督自身は、松田優作主演のテレビドラマ『探偵物語』に近いという見解らしい)。
各脚本家の作家性が強く出ている作品であり、コメディあり、ハードボイルドあり、浪速節ありと、話数ごとの振り幅はかなり広い。「堕天使たちのバラッド」や「道化師の鎮魂歌」のようなどシリアスな作風と、「カウボーイファンク」や「マッシュルーム・サンバ」のようなおバカの極地のような作風が不思議と同じ作品世界の中で成り立ってしまう。
それゆえに「ビバップ」(各パートが自由に即興演奏を順番に行うジャズの一ジャンル)なわけである。
また、音楽に造詣の深い渡辺監督のこだわりにより、各エピソード毎で異なる音楽ジャンルとメインテーマの劇伴を使用するという演出が試みられており、各エピソードのサブタイトルには使用された音楽ジャンルの名称が使われている。
音楽面での評価は絶大で、ジャズ・ポップス・アリア・テクノ・ヘヴィメタ等々、広範なジャンルで楽曲を作り上げるという難題を見事務め上げた音楽監督の菅野よう子は、一躍時の人となった。さらにアニメサントラが日本ゴールデンディスク大賞を受賞する快挙を成し遂げた。
中でもOPの”Tank!”、EDの”TheRealFolkBlues”は今なお「神曲」との呼び声が高い。
OPフィルムも傑作の呼び声高く、これをアレンジしたMAD動画がニコニコ動画上に多数アップされている。
絵柄的な点で特筆しておくと、最終盤の数話のみ色合いが異なっている。(セル画によるアナログ彩色ではなく、デジタル彩色が施されているため)
2001年には劇場版作品『カウボーイビバップ 天国の扉』が公開された。
2018年11月には、スーパーロボット大戦Tに参戦する事が発表。まさかの展開である。
2021年11月公開の実写版は「カウボーイビバップ(実写版)」を参照。
世相に泣かされたTV放映
現在でこそ高評価を受けている作品ではあるが、独特の作風ゆえに万人受けしないというスポンサーの意向、日本でのジャズ音楽の受けの悪さ、制作費の高騰といった災いの連続。(当初は2時間の単独映画の企画だった)
そしていざ放映に漕ぎ着けたものの、当時の世相・規制等から放送枠を確保しきれなかったため、地上波で放映されたのは全26話中12話と総集編1話のみ。まさに知る人ぞ知る作品でしかなかった。
当時の世相、規制を大まかに言えば…
- 世相
神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)、栃木女性教師刺殺事件などのいわゆるキレる17歳の猟奇的少年犯罪が世間の注目を集めていた。
- 規制
少年犯罪増加論や、ポケモンショック事件の批判を受け、テレビ東京がこれまでの自由な方針を転換し自主規制を強化した。後にいうテレ東規制である。栃木女性教師事件で問題になったナイフのシーンのみならず何故か水着シーンまで規制されている(参照)。
この劣悪な待遇ぶりにスタッフもキレたのか、地上波総集編「よせあつめブルース」はスタッフの不満をぶっちゃけたヤケクソなカオス回として一部で有名(「よせあつめブルース」はソフト化されておらず、現在視聴困難)。
しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、BS有料放送局のWOWOWでは、地上波放映では最大の障害となる規制問題をクリアしていた。それで制作側がWOWOWに話を持ちかけ交渉成立、晴れて全26話が放映された。現在この作品のファンである人は、このWOWOWでの放映を見てからの人が多い。一方のWOWOW側も衛星放送ならではの規制の少なさを生かしたノンスクランブル枠を開始したが、呼び水となる番組を探していたところだった。そこで白羽の矢が立ったのが同作であり、おかげで制作側は念願の全話ノーカット放送達成、サントラやビデオ、DVD販売も好調となりWOWOW側も加入者増、ひいては放送枠増につながりお互いWin-Winの関係となる。そんなわけで、今もビバップに関するイベントはWOWOWが主催することが多い。
2018年には過去の地上波におけるリベンジとも言える再放送を行った。チバテレビでは金曜深夜枠、TOKYOMXでも火曜~金曜の午後6時30分からMX2枠で放送された。
物語
西暦2071年。未曾有の大事故により、否応なく宇宙開拓時代を迎えた人類は太陽系全土に生活圏を広げていた。
だが、急速な人類の生存圏の拡大は深刻な治安の悪化を招き、その対策として「カウボーイ法」が制定され、宇宙各地で「カウボーイ」(賞金稼ぎ)たちが活躍していた。
スパイク・スピーゲルと相棒のジェット・ブラックは、古い漁船を改造したオンボロ宇宙船「ビバップ号」を駆り、カウボーイ稼業に勤しんでいる。
そんなビパップ号に、紆余曲折を経て成人ばりの知能を持つデータ犬のアイン、博打狂いで自由奔放な謎の美女フェイ・ヴァレンタイン、変人天才ハッカー少女のエドが転がり込む。
それぞれ何かしらの事情を抱えながらも、四人と一匹は行く先々で様々な事件や騒動へと挑んでいく。
主な登場キャラクターと作中での呼称
- スパイク・スピーゲル(声:山寺宏一)…スパイク
2044年6月26日、火星生まれの27歳。身長185cm、体重70kg、血液型はO型。
本作の主人公。ボサボサ頭でだらしない雰囲気をたたえた細身の男。ジークンドー(かのブルース・リーが創始した格闘術)の達人で、荒事にめっぽう強く、またその荒事を楽しむ性分。本人曰く「ガキとケダモンと、跳ねっ返りの女が嫌い」で、要するに世話が焼ける奴が苦手。その割に危機に陥ったアインを賞金首そっちのけで助けに行ったり、人情味にあふれる面もある。中国マフィア「レッドドラゴン」の元構成員であり、彼の秘められた過去が随所で解き明かされながら物語が進んでいく形となる。
愛銃はジェリコ941のカスタムタイプ。
2035年12月3日、ガニメデ生まれの36歳。身長188cm、体重90kg。血液型はA型。
スパイクの相棒で、元I・S・S・P(宇宙規模のFBIに近い)の警官ではあるが、その風体から賞金首と間違えられることもしばしば。強面だが面倒見がよく人情味に溢れ、身勝手な連中が多いビバップ号のクルー達に文句を言いながらも飯を作り、マシンの整備をし、そして誰からも感謝されない。過去のとある事件で左腕を負傷したため、メカメカしいサイボーグ義手を取り付けている。料理、盆栽が趣味で、盆栽には専用の部屋もある。料理の腕はスパイク曰く「あんたのメシはマズイ。」フェイほど破滅的ではないがギャンブルも好き(フェイにカモにされ身ぐるみはがされる一幕も)。
愛銃はワルサーP99。
- フェイ・ヴァレンタイン(声:林原めぐみ)…フェイ
1994年8月14日地球生まれの23歳(実年齢77歳)。身長168cm、体重46kg。血液型はB型。
本作のヒロインである来歴不明の美女。二十歳のころ月の位相差空間ゲート(作中のワープゲートのようなもの)での事故に巻き込まれ、当時の技術では治療不可能な傷を負い、57年間コールドスリープで眠っていた。その影響で記憶を失っており、それを求めて奔走する姿も見られる。極めて享楽的な性格で、趣味はギャンブルと言っても良いほどのギャンブル好き。歌は下手らしい。
愛銃はグロック30。
2058年1月1日地球生まれの13歳。身長136cm、体重36kg。血液型AB型(自称含む)。
本作第2のヒロイン的存在。上記の名前はエド自身が適当に付けた名前で本名ではない。本名は一応フランソワーズというらしいが、父親の物覚えがいい加減なためこれも本名かどうか確証はない。少年と見紛うほどの陽気で活発な少女だが、超ウィザード級のハッカーで、しばしばそのハッキングスキルでビバップ号クルーを救っている。
ビパップ号で飼う事になった、データ犬という特殊な犬。劇中で目立った描写はないが人間並みの知能を持ち、情報処理能力では並みの人間を上回る。どの位賢いかというとデータ犬であることがばれるとスパイク達に売り払われてしまうのが分かっているため、彼らの前ではわざとおバカなふりをするほど。エドと仲がいい。
スパイクのかつての相棒であり、現在の宿敵。スパイクがかつて所属していた組織「レッド・ドラゴン」の武闘派の筆頭として独自の派閥を持ち、組織の長老からは危険視されている。
直接相手を殺傷できる武器を好み、日本刀を主な武器としており、その戦闘能力は超人的(タイタン戦役での義勇兵時代はサバイバルナイフを所持)。
残虐かつ冷酷な性格だが、スパイクに対しては単なる執着を超えて何かシンパシーのようなものを感じているふしもある。肩にのせている黒い鳥は単なる絵的なオプションかと思いきや、最終話で意外な活躍をする。
ビシャスとスパイク双方と関係を持つ女性。現在のスパイクにとっては「夢の女」。ウェーブがかった長い金髪が印象的な女で、綺麗で、危なくて、ほっとけない、普通の女。
劇場版に登場するキャラクター
軍の実験の影響で過去の一切の記憶を失った男。バイオテロによって人類を脅かす存在として描かれ、スパイクと死闘を繰り広げる。作中終盤での格闘シーンは圧巻。
劇場版のゲストヒロイン。表向きは製薬会社のOLだが、実際は火星陸軍の軍人。ヴィンセントと個人的な関係があり、彼を自分の手で止めようと追いかける。
作中で主に登場する機体
( )はその機体の使用者
ソードフィッシュⅡ(スパイク)
ハンマーヘッド、ビバップ号(ジェット)
レッドテイル(フェイ)
基本設定
- 位相差空間ゲート
この宇宙は1/48秒周期で明滅しているという『明滅宇宙論』に基づいて作られた一種のワープゲート。物語の世界観の根幹にある存在。
宇宙が明滅する際に現れる「位相差空間」と呼ばれる別次元空間を移動することで、通常空間の240倍もの早さで目的地に到達することができる。
宇宙空間の高速道路のように扱われており、太陽系中のあちこちにゲートが設置されている。ゲートを通過すると現実のETCのように通行料金が自動的に引き落とされ、ゲートの管理運営を行っているゲート公団に支払われる。
移動手段の他、木星圏など太陽から遠く太陽光が届きにくい宙域に、太陽光線を導きやすくするためにも使われている。
作中世界では2022年に位相差空間ゲートの実験中に起きた爆発事故で月が大きく抉れてしまい、月の破片が地球に降り注ぐという大惨事が発生。これによって人類は否応無しに宇宙へ移民せざるを得なくなってしまい、太陽系中へとその生活圏を拡大していった。
それゆえにテクノロジーに合わせて文化を変化させる暇も無く、いわば「着の身着のまま」で宇宙進出を果たしたような状態にあるため、本作の世界観はローテクな20世紀末から21世紀初頭の雰囲気と高度な未来社会が共存する世界となっている。
火星や金星、タイタンなど人が居住可能な星では大規模なテラフォーミングにより地表に地球上と変わらない都市が作られ、人々はそこで普通の生活を営んでいる。一方、ゲート事故によって甚大な被害を受けた地球は、その後も月の破片が隕石となり日常的に降り注いで荒れ果てているため、人類は地下での生活を余儀なくされている。
ゲート事故により国家はなし崩し的に崩壊し、人類は人種も民族も混ざり合っている状態にあるが、各々コミュニティを形成して生活を営んでおり、各惑星は中国語・英語・アラビア語などの看板・標識が街を埋め尽くすように乱立し、民族同士の反目・対立も無くなってはいない。
また、マフィアやギャングのようなエスニック・グループによる犯罪組織も存在し、各民族社会に深く根を張っている。
- ウーロン
作中世界の通貨単位で、太陽系全域で使用できる。1ウーロンあたり日本円で約1円前後。
作中世界では電子マネーカードが一般化しているが、昔ながらの貨幣や紙幣も流通しており、電子マネーを信用せずにこちらを使っている者もいる。
別作品でも通貨として使用されている。
- カウボーイ法
アメリカの西部開拓時代のように犯罪者に賞金を掛けて、その摘発を一般から公募する制度。
ゲート事故以来約20年にも及ぶ無政府状態と急速な人類の勢力圏の拡大は、深刻な治安の悪化と社会のアンバランス化を招き、既存の警察機構では到底対応しきれない程の莫大な量の犯罪が発生するようになってしまったため、これが制定された。
刑事事件を起こした賞金首には基本的に地方(惑星)警察やI.S.S.P.によって賞金がかけられる他、各惑星政府や事件関係者によって賞金が上乗せされる場合もある。
但し、一般人や各種団体によって犯罪者でない者に賞金がかけられる場合もあり、賞金首=犯罪者というわけではない。ちなみに賞金額は申請者が自由に設定できる。
西部開拓時代のそれとは異なり、生け捕りでなければ賞金は支払われない。
- I.S.S.P
Inter-Solar Systems Police(太陽系刑事警察機構)の略称。
惑星・国家の枠を超えて事件の捜査を行う警察組織であり、例えるならば太陽系規模のFBIのようなもの。
- モノ(MONO)・システム
「Machine, Operation, Navigation, of Outer space」の略称。
大気圏外における様々な宇宙船・作業船・戦闘機などに必要な機体制御・測位・航路管理などのシステムを、単一にパッケージングしたシステム。太陽系共通規格であり、作中の宇宙船はすべてこのシステムを搭載している。
これを搭載した球型コクピット・モジュールは「モノ・ポッド」と呼ばれ、さらにモノ・ポッドを搭載する小型宇宙船のことを「モノ・マシン」と呼ぶ。
Tips
作中では宇宙開発時代に入ってもアナログ磁気ビデオカセットテープが家庭用映像レコーダーの主力として使われていたようである。これはフェイの身元を探る途上でネタになる。しかも2014年にフェイを録画したビデオテープはベータマックスだった(史実では本作放送後のわずか5年後にソニーがデッキ生産から撤退、2013年現在保障つきデッキの入手は絶望的である)。
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外部リンク
カウボーイビバップ(公式プロモーションサイト)