概要
無限のエネルギー「イデ」を求めてソロ星で遭遇した地球人とバッフ・クラン人との戦いを描いた作品。バッフ・クラン人の発砲から勃発した紛争によって、地球人が発見した遺跡は、イデオンとなる。
1980年に放映されたアニメーション作品であり、1980年5月8日から1981年1月30日まで、東京12チャンネルで全39話が放送された。
トミー(現タカラトミー)とサンライズがタッグを組んで企画が行われ、機動戦士ガンダムを手がけたばかりの富野由悠季監督が総監督に選ばれた。
キャラクターデザインの湖川友謙は本作の企画段階から全面的に参加しており、後述する劇場版『発動篇』では作画の殆どを手掛けた。本作の縁で湖川は『重戦機エルガイム』まで富野監督の右腕として活躍することになる。
男児向けロボットアニメとして企画がスタートしながら、不幸な出会いを果たした2つの種族が、誤解を重ねてながら泥沼の殺し合いを繰り広げるという壮絶かつ絶望的な物語が展開され、当時としてはあまりにも衝撃的なその結末から「黒富野の最高峰」として語り継がれている。
作品解説
本作はトミーの企画先行で開始された作品であり、全ては主役ロボット・イデオンのデザインから始まった。
元々は普通サイズの車や飛行機が変形・合体してロボットとなり、日常生活の延長上で街を舞台に悪役と戦うという、後年の勇者シリーズにも通じる内容が想定されていたという。
だが、見てもらえばわかるように完成したイデオンのデザインは、放映当時としてもどうにもカッコいいとは言い難く、はっきり言ってダサいものであった。
イデオンのデザインはメカニックデザイン企画であるサブマリンが手掛けたものだったのだが、一足遅れて本作の企画に参加した富野監督はこのデザインが好きになれず、見るなり「これは第6文明人の遺跡です」と言ったとのこと。
富野監督にオファーが来た時点で既にイデオンのデザインに手を入れることはできなかったのだが、世界観や物語については未定だったため、本作はそのデザインに耐えうるストーリー性と世界観、精神科学やバイオレンスな感性をも入れ込んだ骨太な内容となった。デザインに難のあるイデオンが作品の中で徹底的に浮いた存在となるようにしたことで、イデオンを”遺跡”という存在に昇華させたとも言える。実際、物語の内容や舞台美術に比べてイデオンは明らかに場違いであり、それが逆に「自分たちの知る文明とは別の存在である」というイデオンの設定に説得力を与えている。
また、今やロボットアニメや漫画における定番のパターンの一つである「人間よりも上位の高次元存在(=神)を内包するロボット兵器」を登場させた先駆け的作品としても有名である。
同時に、富野監督の思想の一つ「人間はわかり合えるのだろうか?」というテーマも負の側面から切り込まれており、文化・思想の違いから和解の道を掴めず泥沼の争いに発展してしまうバッフ・クランと地球人との歯がゆい関係からはそれが如実に表れている。
言ってしまえば「人間同士はわかり合えない」という負の結論がイデオンなのである。
その結果、無敵超人ザンボット3と双璧を成す皆殺しの富野の代名詞ともなる凄惨で救いのない虐殺劇が繰り広げられる衝撃展開が行われた。
富野監督自身、キャラを殺せばとりあえず劇的になるため、それだけでどんな内容でも作品として安易に成立させることができてしまうとして「禁じ手を使ったかもしれない」と語っており、後年の作品はイデオンとは真逆の性質を持ったものが多くなった。
作品の完成度は高く、後年のクリエイターにも多大な影響を与えたが、視聴率は奮わず玩具の売り上げも低かったため、TV版は39話で打ち切られ、最後は決戦の最中にいきなりイデが発動して全人類が滅亡するという衝撃的な幕引きとなった。
その後、スタッフたちの熱意やファンの後押しによって製作された劇場版(後述)でも唐突感こそ軽減されたものの、ほぼ同様の滅亡劇が展開された。
しかし、皮肉にもこのことが本作の持つ神話的・黙示録的な側面を強調する結果となり、イデオンは伝説の作品として語り継がれていくことになる。
ちなみに放映当時、イデオンのテーマを問われた富野監督は冗談めかして「バカは死ななきゃ直らない」と零したそうな。合掌。
劇場版
TV版が打ち切られた後、ファンと制作スタッフ達は本作の完全な結末を何らかの形で発表することを望み、富野監督が手掛けた『機動戦士ガンダム』劇場版三部作の成功も相乗して、番組終了後に劇場版の製作が決定した。
1982年7月10日にTV版の前半の総集編である『THE IDEON 接触篇 A CONTACT』と、TV版では映像化されなかった部分も補完した最終話完全版である『THE IDEON 発動篇 Be INVOKED』の二部構成で同時公開された。
当初は劇場版『機動戦士ガンダム』と同様に複数に分けての公開も考えられていたが、興行不振で続編を製作できない事態になる可能性を考慮し、二本立てという形でまとめて併映された。
地上波ではなく劇場作品ということもあり、登場人物の死においては老若男女問わず徹底した人体破壊描写が行われる凄惨な滅亡劇が描かれ、『発動篇』ラストシーンでの全人類が滅亡して新たな宇宙に転生する霊的な大団円では、キャラ達を服を着た状態ではなくオールヌードで演出されたことが話題となった。
富野監督はこれほど作り手がやりたい放題できたのは、打ち切りが逆に良い踏み台となって映画として完結させることができた作品的な幸運に恵まれたからだと述懐している。しかし、ファン達や周囲の後押しもあったとはいえ、自分たちの創作欲求を満たすために、半ば作品を利用する形になってしまったことには思うところはあったようで、「怪作であることは間違いなく、あのような映画作りこそ、僕も湖川ももうやってはいけないことだ」と自戒の意を述べている。
人間の業や愛憎、登場人物達の壮絶な生き様を宗教的なまでの荘厳さを以って描き切った内容から、アニメ映画の枠を超えて映画評論の分野でも批評的に極めて高い評価を得たが、富野監督は本作について「起承転結の“承”の部分がないので、劇作としては0点」と自ら評している。
ストーリー
西暦2300年代、人類はその活動領域を宇宙へ広げ様々な植民惑星を開拓していた。そんな地球の開拓惑星の一つ、植民惑星ソロ星に伝説の第6文明人の遺産である無限力を求めてバッフ・クランという異星人の調査団が降り立った。バッフ・クランはソロ星が地球の植民惑星であることを知らなかった。
バッフ・クランの政府高官の娘であるカララが降り立ったことに端を発したいざこざから、バッフ・クランとソロ星は交戦状態に入ってしまう。
突然の異星人からの攻撃にさらされ、ソロ星はパニックに陥る。そんな中、ソロ星の少年ユウキ・コスモは戦いに呼応したかのように目覚めた古代遺跡:イデオンに乗り込む。
イデオンとともに復活した母艦ソロ・シップとともにコスモたちはバッフ・クランに追われる逃避行を余儀なくされる。
バッフ・クランとコスモ達との戦いは、やがて銀河を巻き込むことになり・・・。
登場人物
地球側
ユウキ・コスモ(CV:塩屋翼)
イムホフ・カーシャ(CV:白石冬美)
ジョーダン・ベス(CV:田中秀幸)
フォルモッサ・シェリル(CV:井上瑤)
カララ・アジバ(CV:戸田恵子)
ファトム・モエラ(CV:佐々木秀樹)
イラ・ジョリバ(CV:塩沢兼人)
ギャバリー・テクノ(CV:桜本昌弘→島田敏→小野田英一→千葉繁)
マルス・ベント(CV:橋本晃一)
アフタ・デク(CV:松田辰也)
バンダ・ロッタ(CV:山田栄子)
フォルモッサ・リン(CV:よこざわけい子)
ノバク・アーシュラ(CV:松原雅子)
マラカ・ファード(CV:高木早苗)
パイパー・ルウ(CV:井上瑤)
ナブール・ハタリ(CV:横尾三郎→井上和彦)
ファム・ラポー(CV:つるたきみこ)
カミューラ・ランバン(CV:近藤高子)
ガンツ(CV:千葉繁)
コボル(CV:玄田哲章)
ヌージャン(CV:キートン山田)
パーキンスン(CV:千葉繁/筈見純)
フレンダリー・リミッター(CV:水鳥鐵夫)
マーシャル・フランクリン(CV:上田敏也)
ミラクリン(CV:屋良有作→上恭ノ介)
ライス(CV:田中康郎)
レクラン(CV:稲葉実)
その他(地球)
キッチ・キッチン(CV:鵜飼るみ子)
キラニン・コルボック(CV:安原義人/徳丸完)
コモドア(CV:滝雅也/徳丸完)
ジョーダン・マック(CV:飯塚昭三)
ジョーダン・エルミ(CV:近藤高子)
フェルモッサ・ロラン(CV:笹岡繁蔵)
ユウキ・ロウル(CV:池田勝)
キロル(CV:市東秀昭)
メシア
バッフ・クラン
ドバ・アジバ(CV:石森達幸)
ハルル・アジバ(CV:麻上洋子)
ギジェ・ザラル(CV:林一夫)
ダミド・ペッチ(CV:銀河万丈)
ガルババ・グラ(CV:田中亮一/戸谷公次)
ギャムス・ラグ(CV:兼本新吾)
キヤヤ・ブフ(CV:小山茉美)
グハバ・ゲバ(CV:渡部猛)
コドモン・ムロン(CV:加藤治)
シラク(CV:中谷ゆみ)
ジルバル・ドク(CV:石森達幸/池田勝)
ゼキタン(CV:笹岡繁蔵/玄田哲章)
ドッバ・ブフ(CV:二又一成)
ナロブ(CV:清川元夢)
バジラウ・ギルバ(CV:戸谷公次)
ハンニバル・ゲン(CV:玄田哲章)
ビラス(CV:龍田直樹/島田敏)
メバルル・クオウ(CV:中谷ゆみ)
ルクク・キル(CV:高島雅羅)
ダラム・ズバ(CV:木原正二郎)
ギンドロ・ジンム(CV:蟹江栄司/加藤精三)
アバデデ・グリマデ(CV:池田勝)
マヤヤ・ラウ(CV:松原雅子)
キラルル(CV:尾崎桂子)
クララ・キナ(CV:尾崎桂子)
トロロフ(CV:梨羽雪子)
ロウ・ロウル(CV:松岡文雄/徳丸完)
ロココ・グリマデ(CV:山岡葉子)
ズオウ・ハビエル・ガンテ(CV:加藤精三)
登場メカニック
各話リスト
話数 | サブタイトル |
---|---|
1 | 復活のイデオン |
2 | ニューロピア炎上 |
3 | 激震の大地 |
4 | ソロ星脱出せよ |
5 | 無限力・イデ伝説 |
6 | 裏切りの白い旗 |
7 | 亜空間脱走 |
8 | 対決・大砂塵 |
9 | 燃える亜空間 |
10 | 奇襲・バジン作戦 |
11 | 追撃・遺跡の星 |
12 | 白刃の敵中突破 |
13 | 異星人を撃て |
14 | 撃破・ドク戦法 |
15 | イデオン奪回作戦 |
16 | 必殺ダミド戦法 |
17 | 激闘・猿人の星 |
18 | アジアンの裏切り |
19 | ギャムス特攻指令 |
20 | 迫撃・双子の悪魔 |
21 | 敵戦艦を撃沈せよ |
22 | 甦る伝説 |
23 | 戦慄・囮の星 |
24 | 潜入ゲリラを叩け |
25 | 逆襲のイデオン |
26 | 死闘・ゲルの恐怖 |
27 | 緊迫の月基地潜航 |
28 | 波動ガンの怒り |
29 | 閃光の剣 |
30 | 捨て身の狙撃者 |
31 | 故郷は燃えて |
32 | 運命の炎のなかで |
33 | ワフト空域の賭け |
34 | 流星おちる果て |
35 | 暗黒からの浮上 |
36 | さらばソロシップ |
37 | 憎しみの植民星 |
38 | 宇宙の逃亡者 |
39 | コスモスに君と |
余談
- 本作の結末(特に『発動篇』)について、後に富野監督は2013年のNHKラジオ番組『渋谷アニメランド』にゲスト出演した際、 「当時の自分はとにかく『作家』になりたかったのだが、本来タブーである皆殺しという手段でしか完結させられなかったことで、自分に劇作家としての能力が無いことを証明してしまった」 という旨の発言をしており、色々と悔いの残る結末であったようである。
- ただし、自分の中で失敗作と位置づけながらも、同時に 「ああいった美しいリーンカーネーション(輪廻転生)を描けた自分は、死というものを素直に受け入れられるかもしれない。そういった意味ではいいものをやれた」「やって良かった。イデオンの大団円があって良かったという自負心は死ぬまで持つことだろう」 とも語っており、富野監督の本作に対する複雑な心境が窺える。
- TV版では塩沢兼人、劇場版では田中信夫がナレーターを担当した。塩沢は劇中で登場人物が次々と唐突に死にまくる展開に慄きつつも、「流石にナレーターは大丈夫だろう」と思っていたところ、TV版最終話の最後に流れたナレーションが途中でイデの効果音に遮られてしまい、「ナレーターも例外じゃないのか?!」と本気でビビったという。
関連動画
その他の関連タグ
巨神 巨大ロボット カンタータ・オルビス 富野由悠季 建設巨神イエオン アジバ3
イデオ(ONEPIECE)・・・キャラのモデルがイデオン
ゴッドマジンガー・・・お蔵入りした東映動画版と1984年に執筆した漫画版が該当。どちらもゴッドマジンガーの「発動」で世界が滅亡する(東映動画版は予定だった)結末で、本作より先にジェノサイドエンドが実現する筈だった。
宇宙大帝ゴッドシグマ 宇宙戦士バルディオス・・・同時期に放送されたロボットアニメ。2作ともイデオン同様難易度の高い展開であり、意外な結末に向かう点でも同様である。特に『バルディオス』は様々な点で共通点が多い。