曖昧さ回避
- 大群をなし空を飛び移動するバッタのこと。
- 日本語の「バッタ」に漢字を当てたもの。
飛蝗(ひこう)
トビバッタ、ワタリバッタともいう。大群をなして飛びながら大きく移動し農作物などに害を与える大型バッタのこと。
アフリカから南アジアにかけて見られるサバクトビバッタ(砂漠飛蝗)、アフリカからユーラシアに広く分布し、日本にもいるトノサマバッタ(移住飛蝗)が有名である。大発生は大河流域の乾燥した草原で起こる。
バッタの相変異
飛蝗による害(蝗害)は古くから知られて来た。大規模なものになると、文字通りぺんぺん草も残らないほど植物を食い尽くしてしまい、人が育てた作物にも大きな被害を与えてきた。
中国では、約3000年前、殷(商)の甲骨文字にトノサマバッタによるものとみられる蝗害が記録されている。中国では蝗害は大災害の一つに数えられ、干魃や大雨の後にしばしば発生した。また災害は皇帝の不徳を示す物とされたため、詳しい記録が残っている。『三国志』には、曹操と呂布との合戦中に蝗害が発生し、食物を食い尽くしたため、双方撤兵を余儀なくされたという記録がある。
『旧約聖書』「出エジプト記」には、サバクトビバッタとみられる蝗害がエジプトを襲ったのが、神の御業として記録されている。
しかし、これらは、普段生息しているバッタとは別種と考えられてきた。
色が違い(平常時は緑、飛蝗は茶色や黒)、性格が違い(平常時はおとなしめだが、飛蝗は人間にも噛み付くなど好戦的)、体格が違い(平常時はジャンプするだけだが、飛蝗は文字通りかなりの距離を飛ぶことができる)、生活パターンが違う(平常時は一人暮らし、飛蝗は集団を好む)からである。
ボリス・ウヴァロフ(ロシア帝国出身でイギリスに帰化)は1921年、両者が同じ種類の変種という仮説を立て、南アフリカのヤコブス・フォールらがこれを実証した。
バッタの幼虫を集団で育てると、平常時と飛蝗の中間的な姿になり、さらに次の世代には完全な飛蝗になったのである。
そこで、平常時を「孤独相」、飛蝗を「群生相」(移動相)と区別するようになった。相を切り替えることを、バッタの相変異と呼ぶ。
なお、イナゴは相変異を起こすことはない。
相の切り替わりは現在でも研究途上だが、次のような条件があることがわかっている。バッタによって、一部の条件は当てはまらないものもある。
- 密度 仲間の多い環境では群生相になる。単独でも、狭い場所に閉じ込めると群生相化する。このことから、刺激の多さが判定基準になると推測されている。
- 卵の大きさ 群生相は、卵の数が少なく、1つの卵が大きくなる。前野ウルド浩太郎によると、サバクトビバッタの卵黄の一部を摘出したところ、群生相の親から孤独相が生まれた。ただし、トノサマバッタではこの現象は再現できないという。
- ホルモン 相の切り替わりに働くホルモンがある。コラゾニンは外見の黒化を、セロトニンは性格・体格の群生相化を促すという。
バッタが相を切り替えるのは、生き残るためである。
餌が多く、仲間の少ない環境では、長距離を移動する必要が無いので孤独相になる。
しかし仲間が多い環境では、餌不足になるので長距離移動に適した姿になり、群生相になる。
そして新天地に移住して仲間の密度が減ると、徐々に孤独相に戻って行くのである。
一方、バッタが群生相になるのは、人を含む他の生き物にとっても食べ物が不足した状況であることが多い(干魃など)。文字通り、食料の奪い合いになるのである。