蝗害
こうがい
バッタの相変異
多くのバッタ類は、普通は草地を飛び跳ね、その一生を通じてあまり大きな距離を移動することはなく、単独で生活している(孤独相)。
しかし一部のバッタにおいては(サバクトビバッタやトノサマバッタ等)、大量発生し密集した状態が続くと、そこから生まれた次の世代では身体的・行動学的特徴が変化し(相変異)、翅が伸びて長距離を飛行するようになり、また群れで行動するように身体的・行動学的特徴が変化する(群生相)。
これを群生行動と呼ぶ。
この群生相に変異したバッタの群れが草木を食い荒らしながら移動していくことにより、主として農産物が大きな被害を受ける生物災害のことである。
この状態のバッタは飛蝗、トビバッタ、ワタリバッタと呼ばれ、この状態での群生行動を飛蝗現象という。
生物学的な仕組みの詳細は、飛蝗の項目を参照。
被害の内容
普通の孤独相のバッタは主にイネ科の植物を食べるのだが、群生相に変化したバッタは食性が大いに拡大し、被害は農作物のみに限らずあらゆる草本(紙や綿など、さっくり説明すると木にならない草っぽい物)、はては家畜や人間の毛迄食い荒らす。
当然、被害を受けた地域の食糧生産は壊滅的なダメージを受ける。
又、草本なら何でも食らう為、生活用品や衣類・書物どころか文化次第では家迄食べられる。
牧草を食い尽くす上に、直接動物の肉を食らいこそしないものの牛や馬などの毛すらも食って丸裸にしてしまう為、飢餓とストレスで家畜をも死に追いやり、畜産業の被害も甚大である。
圧倒的な個体数により吸気口からエンジンに詰まって航空機等の飛行を妨げる場合すらある。
精神被害においても、小さな虫が大量に飛び交う姿であるため最早いうまでもないだろう。
栄養価のまるで無い群生相の夥しい死骸の処理も大きな問題である。
対策
現代では世界的機関による食糧供給等の援助で人的被害を和らげる事は出来るものの、根本的に蝗害発生の抑制や発生後の有効的な対処は未だに確立されておらず、被害額も甚大な大規模災害である事は変わっていない。
農薬によって殺虫し一時的に数を減らしても、すぐに生き残った中から薬物耐性を身につけた集団が誕生する。
火炎放射器によって焼き払おうとしても、あまりの数の多さと密集度合いから、燃やされながらもなお飛行をやめない巨大なバッタの火球を生じ、大火災に発展しかねない。
軍隊が出動してすら、バッタの群れを止められなかったという記録もある。
唯一の弱点らしきものは、浅い地中に産みつけられた卵の状態は完全に無防備という事である。
ロードローラーや戦車等で産卵地をくまなく均してしまえば、発生する前にまとめて駆虫出来る。
……が、これもバッタの産卵地は余りに広く、又、被害の頻発する地域は発展途上国が多い為に、十分な駆虫用の機械を用意できない・紛争等で産卵地での安全な駆虫作業がままならない等、現実には対策として確立出来ていない。
近年研究が進んでいるのが、バッタ類に選択的に寄生して殺すバッタカビの利用である。
蝗害を起こすバッタは密集している為に、カビを寄生させたバッタを群れに戻せばカビをまん延させる事はたやすい。
ただしこれも、狙ったバッタのみを殺し他の生態系に影響を与えない安全性を確保しなければ、別のバイオハザードを引き起こす可能性があり、慎重に研究が進められている。
誤解により生じた別の意味
蝗の訓読みが「いなご」である事からイナゴが起こす物と思われがちだが、蝗害を引き起こすのは大陸地域のバッタ類、即ちサバクトビバッタやトノサマバッタ等が引き起こす物でイナゴとは異なる種類である。
というか、そもそも蝗の訓読みが「いなご」になっている理由が「蝗害」という言葉の伝承時の誤解による物である。
どういう事?
日本では地理的条件や自然環境によりバッタによる蝗害がほとんど起こらなかった。
その被害が無い状態で漢籍により「蝗害」という言葉が伝わった。
その際、昆虫による大規模な農業被害全般を指すと誤解され、「蝗」にも「いなご」の訓読みが当てられた(とされている)。
例えば、江戸時代の享保の大飢饉では「蝗害」が起きたと言われているが、実際の所はウンカ(セミやカメムシの仲間)という別の虫の大量発生だったとされる。
又、この誤解からいもち病等による稲の大害に対して「蝗害」の語が当てられたりもした。
この誤解されたイメージは今日まで存在する。
その影響でバッタに対してイナゴと呼んだりすることもあるし、「ネットイナゴ」というスラングも存在する。
平地が少ないためわずかではあるが、日本でも発生した例は存在する(後述)
最近の記録
21世紀 東アフリカ。
本記事執筆時現在も被害拡大中。
※この記事を書いているのが2020(令和2)年です。
つまり未だに対応しきれない恐ろしい生物災害である
きっかけとされている出来事
2018年5月: サイクロン「メクヌ」によりアラビア半島南部の広大なルブアルハリ砂漠に雨が降った事により砂丘の間に多くの一時的な湖が出現。
こうした場所でサバクトビバッタがさかんに繁殖して最初の大発生が起きたと見られる。
2018年10月:サイクロン「ルバン」がアラビア海中部に発生して西に進み、同じ地域のイエメンとオマーンの国境付近に雨を降らせ以下略。
その後洪水やサイクロンが起きたり、アラビア半島で内戦が起きて調査や防除が難しくなったりした。
その結果、もう手が付けられない状態である
神話・宗教
- ヨハネの黙示録
- "この星に、底知れぬ所の穴を開く鍵が与えられた。
そして、この底知れぬ所の穴が開かれた。
すると、その穴から煙が大きな炉の煙のように立ちのぼり、その穴の煙で、太陽も空気も暗くなった。"という表現がある。
(奈落の主、神の御使いとしての天使等、諸説ある。)このアバドンの配下(もしくは解放された)イナゴの大群は世界を覆い、神に許されぬ「額に神の印を持たぬ人々」を蠍の尾で刺し、死ぬ事も許されぬままに死よりも優る苦しみを五か月間与えるとされている。
どうみても蝗害です本当にありがとうございました。
創作物(50音順)
- ウマ娘プリティーダービー
- オグリキャップ(ウマ娘)の大食いぶりから、本来関係ないのにPixivでは彼女のイラストに時として「蝗害」タグが付けられる。
後述のメタルクラスタホッパー関連と並んでタグ付けが多い。
- なお、全く無実と言うわけでは無い。
『ウマ娘シンデレラグレイ』ではカサマツトレセン学園に凄まじい大食漢であるオグリキャップが入学したことにより食堂のオバちゃん達の苦難が始まり(「誰よ!食べ放題とか決めたの!」)、第12Rではヤケ食いのせいもあってとうとう食糧庫を食い尽くしたのである。
- SCP_Foundation
- 日本支部の記事で蝗害を元にすると思わしきオブジェクトがある。
- SCP-1626-JP - 大蝗害
- 何も食べなくとも生存することが出来る、観測により異常な速度で増えるバッタのようななにか。
摂食や繁殖行為などの生命活動を一切行わない。
- 作物等物的被害と後処理(卵)という面で見れば多くを食いつぶし卵も残る現実の蝗害よりはマシである。
- エリア88
- 航空機を用いた外人部隊の活躍を描いた漫画。
エピソードの一つに基地が蝗害の通過によって航空機の発進を阻害され危機に堕ちる展開がある。
- 仮面ライダーゼロワン
- 仮面ライダーゼロワンの形態の一つ「メタルクラスタホッパー」変身時や能力発動時に大量のバッタ型流体金属が発生する。
- そもそも、名前(クラスタ:cluster=大群)の時点で蝗害が示唆されている為、pixiv上のイラストでは蝗害のタグがセットで使われる事がある。
- というか、蝗害のタグがつけられているイラストのうち、5割程がメタルクラスタホッパー関連である。(2022年11月現在)更には劇場版では仮面ライダーアバドンなる量産型ライダーが登場。使用するプログライズキーの名前が「クラウディングホッパー(crowd=集まる)」であり、完全に蝗害がモチーフになっているのが明らかである。
- ただしこちらはどちらかと言うとあちらの意味合いの方が強い。
- 機動戦士ガンダム00
- GNイナゴ(pixiv記事を参照してください。)
- 銀の匙
- 番外編で描かれた八軒勇吾の高祖父のエピソードに登場。
- ゴールデンカムイ
- ゴブリンスレイヤー
- 鉱人道士の術に、大量の飛蝗の幻覚をみせて低レベルの敵を恐慌に陥れる「恐怖(フィアー)」というものがある。
- 「《黒蝗の王(バズズ)よ、太陽の子よ、恐れと怖れを従えて、風に乗りて参られよ》」
- 西遊妖猿伝
- 三國志シリーズ
- 呪術廻戦
- シュマリ
- 手塚治虫作品。北海道開拓時代を描いた作品。
- 胸に隠していた食料にバッタが食らいついて失血死というイヤすぎるシーンが序盤で登場している。
- ジュラシック・ワールド/新たなる支配者
- ジュラシックパークシリーズの最終作。ある企業の陰謀によりバイオテクノロジーで体長30cm大以上という異常進化を遂げたイナゴが世界中に放たれ、猛威を振るうという地獄絵図が展開された。
- ハリウッドお得意のVFX技術により、無駄にリアルかつ昆虫独特の動きを緻密に再現したことで生まれる気色の悪さを見せつけている。
- ……というか、本作のキーキャラクターという恐竜そっちのけのVIP待遇で暴れており、「封じられた楽園から世界に解き放たれた恐竜と人間の行く末」を期待した熱心なファンや映画批評家からは「これじゃあ、ジュラシック・ワールドじゃなくてグラスホッパー・ワールドでは?」と苦言を呈されることに……。
- 大草原の小さな家
- 原作及びTVドラマ版で描写される。
- 原作ではこの被害の為に農業や牧畜で生計を立てる事を諦め一家が別の場所へと移っていく事になる(プラムクリークの土手で)。
- 百姓貴族
- 上記2作品と(ry)、北海道帯広の開拓者・依田勉三の記録を紹介した折に登場。
- 2年連続での蝗害で帯広一帯を荒廃させ、勉三の率いる晩成社を疲弊の底に叩き落した旨が記されていた。
- ブッダ
- 第1部で登場。
- 名前に「虫」なんて付ける人が描いてるだけあって物凄い写実度を誇る。トラウマになる事請け合い。
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